事業再構築補助金に採択されても、すぐに補助金が交付されるわけではありません。補助金を受給するためには、採択後、交付申請や実績報告などが必要となります。また、補助金の受給後も5年間に渡って、事業化報告をしなければなりません。
では、事業化報告ではどのような内容の報告が求められるのでしょうか?また、事業化報告をする際には、どのような点に注意すれば良いのでしょうか?
今回は、事業再構築補助金を活用する際の全体の流れや事業化報告の概要、注意点などについて詳しく解説します。
事業再構築補助金とは
事業再構築補助金とは、ウィズコロナ・ポストコロナの時代の経済社会の変化に対応するために思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援することで、日本経済の構造転換を促すことを目的とする補助金です。コロナ禍で誕生した非常に大型の補助金であり、受給できれば事業活動の大幅なスピードアップにつながるでしょう。
事業再構築補助金の対象となる「事業再構築」とは
事業再構築補助金の対象となる「事業再構築」には、次の取り組みが該当します。
- 新市場進出(新分野展開、業態転換):次の3つを満たす取り組み
- 新たな製品・商品・サービスを提供すること、または提供方法を相当程度変更すること
- 新たな市場に進出すること
- 新規事業の売上高が総売上高の10%以上になること(付加価値額の場合は、15%以上)
- 事業転換:次の3つを満たす取り組み
- 新たな製品・商品・サービスを提供すること
- 新たな市場に進出すること
- 主要な業種が細分類から中分類レベルで変わること
- 業種転換:次の3つを満たす取り組み
- 新たな製品・商品・サービスを提供すること
- 新たな市場に進出すること
- 主要な業種が大分類レベルで変わること
- 事業再編:会社法上の組織再編行為(合併、会社分割、株式交換、株式移転、事業譲渡)等を補助事業開始後に行い、新たな事業形態のもとに、新市場進出(新分野展開、業態転換)、事業転換、業種転換のいずれかを行うこと
- 国内回帰:海外で製造等する製品について、その製造方法が先進性を有する国内生産拠点を整備すること
事業再構築補助金の申請枠と補助上限額
事業再構築補助金の申請枠と補助上限額、補助率はそれぞれ次のとおりです。
申請枠 | 補助上限額 | 補助率 | |
成長枠(旧・通常枠) | 従業員数20人以下:2,000万円 従業員数21~50人:4,000万円 従業員数51~100人:5,000万円 従業員数101人以上:7,000万円 | 中小企業者等:1/2(大規模賃上げの場合は2/3) 中堅企業等:1/3(大規模賃上げの場合は1/2) | |
グリーン成長枠 | エントリー | 【中小企業者等】 従業員数20人以下:4,000万円 従業員数21~50人:6,000 万円 従業員数51人以上:8,500万円 【中堅企業等】 1億円 | |
スタンダード | 中小企業者等:1億円 中堅企業等:1.5億円 | ||
卒業促進枠 | 成長枠・グリーン成長枠の補助金額上限に準じる | 中小企業者等:1/2 中堅企業等:1/3 | |
大規模賃金引上促進枠 | 3,000万円 | ||
産業構造転換枠 | 従業員数20人以下:2,000万円 従業員数21~50人:4,000万円 従業員数51~100人:5,000万円 従業員数101人以上:7,000万円 ※廃業を伴う場合は、廃業費を最大2,000万円上乗せ | 中小企業者等:2/3 中堅企業等:1/2 | |
最低賃金枠 | 従業員5人以下:500万円 従業員6~20人:1,000万円 従業員21人以上:1,500万円 | 中小企業等:3/4 中堅企業等:2/3 | |
物価高騰対策・回復再生応援枠 | 従業員5人以下:1,000万円 従業員6~20人:1,500万円 従業員21~50人:2,000万円 従業員51人以上:3,000万円 | 中小企業等:原則2/3 中堅企業等:原則1/2 |
なお、申請枠などは2023年度(令和5年度)の公募から大きく変更されています。情報収集をする際には、最新の情報であるかどうか留意して確認してください。
事業再構築補助金活用における全体の流れ
事業再構築補助金を活用する場合、全体の流れはどのようになるのでしょうか?基本的な流れは次のとおりです。
- 事業再構築補助金を申請する
- 採択・不採択が通知される
- 交付申請をする
- 補助事業を実施する
- 実績報告をする
- 精算払請求をする
- 事業再構築補助金が振り込まれる
- 事業化状況報告を行う
事業再構築補助金を申請する
はじめに、事業再構築補助金を申請します。
事業再構築補助金の申請を自社で行えば多大な時間と労力がかかるうえ、採択を勝ち取ることは容易ではありません。そのため、コンサルタントなどの専門家に依頼をして申請するケースが多いでしょう。
採択・不採択が通知される
公募期間が満了すると、採択・不採択が決まります。
結果は補助金事務局からすべての申請者に対して通知がなされます。また、採択された案件については事業者名や補助事業の概要などが、事業再構築補助金の公式ホームページで公表されます。
交付申請をする
事業再構築補助金に採択されたら、所定の様式で交付申請を行います。交付申請をすると、補助金事務局から「交付決定通知」がなされます。
なお、この交付決定通知よりも前に支出をした経費は、原則として補助対象とはなりません。そのため、フライングしないよう注意するとともに、できるだけすみやかに交付申請を行いましょう。
また、不備があると交付決定通知を受けるまでに時間がかかる傾向にあるため、マニュアルを読み込んだうえで不備なく申請することも重要です。
補助事業を実施する
交付決定通知がなされたからといって、この時点ではまだ補助金を受け取ることはできません。まずは、自社で補助事業の実施(補助対象経費の支出)をする必要があります。
この時点ではまだ補助金は受け取れていないため、自己資金もしくは金融機関からの一時的な借り入れ(「つなぎ融資」といいます)などを活用し、事業の実施に必要な資金を調達しなければなりません。
事業再構築補助金を活用する際にはこの点を十分に理解のうえ、補助金受給までの資金調達方法についても検討しておく必要があるでしょう。なお、申請をして補助金事務局から必要であると認められた経費については、概算払い(仮払い)が受けられる可能性もあります。
実績報告をする
補助事業が完了したら、事務局に対して実績報告を行います。補助事業の完了とは、原則として交付申請書に記した事業計画に基づく設備投資のほか、購入物品等の納品・検収・支払等の事業上必要な手続がすべて完了している状態です。
この実績報告にもそれなりの労力がかかるため、忙しい事業者様が自社のみで行うことは容易ではありません。実績報告に手間取り本業に支障をきたしてしまえば、本末転倒でしょう。そのため、実績報告のサポートを専門家へ依頼することも検討することをおすすめします。
実績報告をすると、事務局から確定検査がなされます。確定検査にあたっては事業実施場所への訪問がなされる場合もありますので、補助事業で導入した物品などが確認できるよう整理しておきましょう。
精算払請求をする
実績報告と確定検査で問題がないと判断されれば、補助金事務局から「補助金確定通知書」が交付されます。この内容を踏まえて、精算払請求を行いましょう。
事業再構築補助金が振り込まれる
精算払請求をすることで、ようやく補助金が振り込まれます。
なお、補助金の採択から補助金の振り込みまでには、おおむね1年から2年程度の期間を要することが一般的です。
事業化状況報告を行う
補助金が無事に交付されても、その時点で補助金にまつわる手続きが終了するわけではありません。その後は、5年間、計6回にわたって事業化報告をすることが求められます。
事業化報告をしない場合には補助金の返還が求められることとなりますので、所定の期限までに必ず事業化報告を行いましょう。
事業再構築補助金の事業化状況報告での報告内容
事業再構築補助金の事業化では、どのような内容の報告や添付書類が求められるのでしょうか?それぞれ次のとおりです。
- 事業化状況・知的財産権報告書
- 事業化状況等の実態把握調査票
- 必要書類の添付
なお、入力方法などの詳細は、事業再構築補助金の公式ホームページに掲載されている「事業化状況報告システム操作マニュアル」などの資料をご参照ください。
事業化状況・知的財産権報告書
所定様式である「事業化状況・知的財産権報告書」への入力が必要です。この様式には、事業化状況の有無や事業化の段階、交付決定から報告対象年度終了時点までに出願・取得等した知的財産権などについて登録します。
なお、「事業化」とはその事業で開発した製品の販売、またはサービスの提供に関する宣伝などを行った段階を指し、その段階は次の5段階に区分されています。
- 第1段階:製品の販売、またはサービスの提供に関する宣伝等を行っている
- 第2段階:注文(契約)が取れている
- 第3段階:製品が1つ以上販売されている、またはサービスが1回以上提供されている
- 第4段階:継続的に販売・提供実績はあるが利益は上がっていない
- 第5段階:継続的に販売・提供実績があり利益が上がっている
また、知的財産権等については、その事業で開発した技術等や本事業で他社から取得した知的財産権等を活用して補助事業者様自ら出願(取得)した知的財産権等がある場合に、入力が必要となります。
事業化状況等の実態把握調査票
所定様式である「事業化状況等の実態把握調査票」への入力が必要です。ここでは、次の事項について登録を行います。
- 現在の取組状況
- 製品等情報
現在の取組状況
報告対象期間内に確定した直近の決算数値をもとに、売上高や営業利益、人件費などを入力します。また、補助事業終了年度末時点までの総事業費や自己負担額の累計額のほか、入力報告対象期間における事業化の見通しなどについても入力が必要です。
製品等情報
次のいずれかに該当する場合には、この製品等情報の入力が必要です。
- 「補助事業の実施成果の事業化」を「事業化有り」(第1段階~第5段階)」とした場合
- 「知的財産権等の譲渡又は実施権の設定」を「有」とした場合
ここの製品等情報としては、次の情報を入力しなければなりません。
- 製品、商品、サービスの名称
- 販売金額(売上額)
- 販売数量(売上数量)
- 原価(「原価算出表」への入力による算定)
なお、製品ごとの原価算出表の入力あたっては、製品ごとの製造に直接要した原価のほか電力費は燃料費など間接経費の配賦も必要となるため、自社のみで正確に算定することは困難でしょう。そのため、あらかじめ顧問税理士に補助金の事業化報告で必要となる項目を伝えたうえで、算定に協力してもらうよう依頼しておくとスムーズです。
必要書類の添付
事業再構築補助金の事業化状況報告には、次の書類を添付する必要があります。なお、これらの書類はシステム上に登録することとなり、郵送での提出までは求められません。
- 損益計算書
- 貸借対照表
- 労働者名簿
- 賃金台帳(大規模賃金引上枠の補助事業者様のみ)
- 製造原価報告書
- 販売費及び一般管理費明細表(内訳)
個人事業主の場合にはこれらの代わりに、青色申告決算書または収支内訳書(白色)を提出します。
事業再構築補助金の事業化状況報告の期限
事業再構築補助金の事業化状況報告の期限はそれぞれ次のとおりです。期限に遅れないよう、計画的に準備しておきましょう。
- 初回:原則として補助事業終了年度の決算日の3か月後
- 2回目以降:毎年の決算日の3か月後
事業再構築補助金の事業化状況報告の注意点
事業再構築補助金の事業化状況報告をする際には、次の点に注意しましょう。
- 事業化状況報告システムから報告する
- 事業化状況によっては補助金額を上限とする金額の納付や返還が必要となる場合がある
事業化状況報告システムから報告する
事業再構築補助金の事業化状況報告は、所定の事業化状況報告システムから行います。スマートフォンやタブレットからでは、このシステムはサポートされていません。
また、郵送などでの報告はできないことには注意が必要です。
事業化状況によっては補助金額を上限とする金額の納付や返還が必要となる場合がある
補助事業者に次による収益が生じたことを確認した場合には、補助金額を上限とする金額の納付が求められます。
- 補助事業の事業化
- 知的財産権の譲渡又は実施権の設定
- その他補助事業の実施結果の他への供与
また、事業計画終了時点を含む決算年度の終了時点においてそれぞれ次の要件を満たしていないと判断された場合には、補助金の額と通常枠の補助上限額との差額分の返還が必要となります。
- 大規模賃金引上枠:賃金引上要件、従業員増員要件
- 卒業枠:事業再編等要件
- グローバルV字回復枠:付加価値額要件
事業再構築補助金の事業化状況報告は自社でもできる?
事業再構築補助金の事業化状況報告は5年に渡って必要となるほか、それなりの手間がかかります。では、事業か報告は自社で行うこともできるのでしょうか?
自社でもできるが非常に大変
事業再構築補助金の事業化状況報告は、自社で行うことも不可能ではありません。実際に、補助金業務を担う部署がある場合や担当者がいる場合などには、自社で行っている場合が多いでしょう。
一方で、補助金に関する業務を経営陣が直接担っている場合には、自社で行うことはおすすめできません。事業化状況報告にはそれなりの手間と時間がかかり、自社で行った場合には貴重なリソースを大きく割いてしまうことになりかねないためです。
自社で行えるかどうか判断に迷う場合には、事業再構築補助金公式ホームページに掲載されている「事業化状況報告システム操作マニュアル」などを一読したうえで検討することをおすすめします。
自社での対応が難しい場合はトライズコンサルティングへご相談ください
事業再構築補助金の申請サポートを行う専門家であっても、事業化状況報告についてまでサポートをしているケースはさほど多くないようです。
そのため、自社で対応せざるを得ず、お困りの事業者様も少なくないのではないでしょうか。
当社トライズコンサルティングでは、ご希望に応じて、事業化状況報告のサポートも行っております。
事業再構築補助金の事業化状況報告でお困りの際やこれから事業再構築補助金の申請をしようとご検討の際などには、トライズコンサルティングまでお気軽にご相談ください。
まとめ
事業再構築補助金は、補助金の受給後にも5年間に渡る事業化状況報告が必要です。この事業化状況報告を適切に行わなければ、せっかく受給した補助金の返還が必要となるかもしれません。また、事業化の状況によっては補助金の一部を納付する必要が生じることもあるため、十分に理解したうえで補助金の活用を行いましょう。
この事業化状況報告は自社で行うには、それなりの時間と労力がかかります。自社で行うことが難しい場合には、専門家のサポートを受けることも検討すると良いでしょう。
当社トライズコンサルティングでは、事業再構築補助金の申請から受給、事業化状況報告まで、トータルでサポートしています。事業再構築補助金の申請をご検討の際や事業化状況報告でお困りの際などには、トライズコンサルティングまでお気軽にお問い合わせください。