2022年2月16日(水)より、ものづくり補助金の第10次公募が始まりました。中小企業の設備投資を支援してくれるものづくり補助金ですが、第10次公募からコロナ対策の低感染リスク型ビジネス枠型が廃止されました。代わって新設されたのが次の3つの枠です。
- デジタル枠
- グリーン枠
- 回復型賃上げ・雇用拡大枠
今回は、これら3つのうち「デジタル枠」について詳しく解説します。
ものづくり補助金の「デジタル枠」とは
ものづくり補助金には、2022年(令和4年)から新たに「デジタル枠」が創設されました。はじめに、デジタル枠の概要を解説していきましょう。
DXに取り組む事業者を支援する類型
新たに創設されたものづくり補助金の「デジタル枠」とは、次の取り組みに必要となる設備やシステム投資などを支援する特別枠です。
- DX(デジタルトランスフォーメーション)に資する革新的な製品やサービスの開発
- デジタル技術を活用した生産プロセスやサービス提供方法の改善による生産性向上
ものづくり補助金の通常枠における補助率は原則として2分の1(小規模企業者や小規模事業者などは3分の2)とされていますが、デジタル枠で採択されることで、補助率が一律3分の2へと引き上げられます。
不採択でも通常枠での再審査あり
特別枠である「デジタル枠」でものづくり補助金を申請した場合において、仮にデジタル枠で不採択となった場合には、通常枠で再審査をしてもらえます。そのため、実質的に2度の審査チャンスを得ることが可能です。
ものづくり補助金の10次公募からの変更点
ものづくり補助金は、2022年に開始された第10回公募から、内容が大きく見直されています。主な変更点は、次の5点です。
- 従業員規模に応じた補助上限額の設定
- 補助対象事業者の見直し・拡充
- 回復型賃上げ・雇用拡大枠の新設
- デジタル枠の新設
- グリーン枠の新設
従業員規模に応じた補助上限額の設定
ものづくり補助金における通常枠の補助上限額は、従来、一律1,000万円とされていました。これが、第10回公募以降、従業員数に応じて次のように変更されています。
- 5人以下:750万円
- 6人~20人:1,000万円
- 21人以上:1,250万円
これは、限られた政策資源で、賃上げの原資となる付加価値を創出する事業者を支援するためであるとされています。
補助対象事業者の見直し・拡充
補助対象事業者に、資本金が10億円未満である「特定事業者」が追加されました。資本金が10億円未満であり、かつ常勤従業員数が次の人数以下である事業者が、これに該当します。
- 製造業・建設業・運輸業:500人
- 卸売業:400人
- サービス業または小売業(ソフトウェア業・情報処理サービス業・旅館業を除く):300人
- 上記以外:500人
また、企業再生に取り組む一定の事業者を対象に、通常枠の補助率を通常の2分の1から3分の2へと引き上げ、手厚く支援することとされました。
回復型賃上げ・雇用拡大枠の新設
第10回公募から、「回復型賃上げ・雇用拡大枠」が新設されました。これは、業況が厳しいながら賃上げや雇用拡大に取り組む事業者が行う、次の取り組みに必要な設備やシステム投資などを支援する特別枠です。
- 革新的な製品・サービス開発
- 革新的な生産プロセス・サービス提供方法の改善
ものづくり補助金の通常枠における補助率は原則として2分の1(小規模企業者や小規模事業者などは3分の2)とされていますが、回復型賃上げ・雇用拡大枠で採択されることで、補助率が一律3分の2へと引き上げられます。
デジタル枠の新設
第10回公募から、「デジタル枠」が新たに創設されました。これに伴い、従来の「低感染リスク型ビジネス枠」の申請類型は終了しています。
デジタル枠については、この記事において詳しく解説していますので、ここでは詳細は省略します。
グリーン枠の新設
第10回公募から、「グリーン枠」が新たに創設されました。
これは、次の取り組みに必要な設備やシステム投資などを支援する特別枠です。
- 温室効果ガスの排出削減に資する革新的な製品・サービス開発
- 炭素生産性向上を伴う生産プロセス・サービス提供方法の改善による生産性向上
この枠では、補助上限額がそれぞれ次のように引き上げられるとともに、補助率も3分の2とされています。
- 5人以下:1,000万円
- 6人~20人:1,500万円
- 21人以上:2,000万円
ものづくり補助金の「デジタル枠」の想定活用事例
デジタル枠はまだできたばかりの特別枠であり、2022年6月現在、まだ採択事例は公表されていません。現時点で参考となるのが、中小企業庁から公表されている想定活用事例です。
これによれば、次の事例がデジタル枠における想定活用事例であるとされています。
飲食・小売店と食品製造工場を所有。
店舗に需要予測システムを導入することで、販売機会損失と廃棄量を削減。
新製品開発とあわせて、工場の製造ラインにAIを活用した不良品検知のシステムを導入し、生産性と付加価値の向上を目指す。
引用元:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業 令和3年度補正予算の概要(経済産業省)
この場合には、次の費用が、補助対象経費として補助金の対象となり得ます。
- AIを活用したシステム構築に要する費用
- 新製品開発のための機械装置に要する費用
需要予測システムに係るクラウドサービス利用費
2022年(令和4年)のものづくり補助金デジタル枠の概要
まずは、ものづくり補助金デジタル枠の概要をについて解説しましょう。
対象者
対象となるのは、日本国内に本社または補助事業の実施場所がある事業者です。これまでの中小企業、個人事業主等に加えて、次の特定事業者も対象となります。
【中小企業】
資本金額 | 従業員数 | |
製造業等 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
【特定事業者】
資本金額 | 従業員数 | |
製造業等 | 10億円未満 | 500人以下 |
卸売業 | 400人以下 | |
サービス業 | 300人以下 | |
小売業 |
対象となる事業および対象経費
対象となる事業および対象経費は次のとおりです。
対象となる事業
対象となる事業は、DX(デジタルトランスフォーメーション)に資する革新的な製品・サービス開発またはデジタル技術を活用した生産プロセス・サービス提供方法の改善による生産性向上に必要な設備・システム投資等となっています。
IoTやビッグデータ、AI等を活用して、生産管理やマーケティング等を効率化させる活動等が対象です。
対象経費
補助金の対象となる経費は、次の9項目です。パソコンやタブレット、スマートフォンなどは汎用的に使用できるため対象になりません。
- 機械装置
- システム構築費
- 技術導入費
- 専門家経費
- 運搬費
- クラウドサービス利用費
- 原材料費
- 外注費
- 知的財産権等関連経費
補助金上額
応募枠と補助金上限額は次のとおりで、常勤の従業員人数によって上限額が異なります。また、ものづくり補助金「通常枠」では補助率は原則1/2ですが、「デジタル枠」では2/3まで補填してくれます。
応募枠 | 従業員人数 | 補助金上限額 | 補助率 |
デジタル枠 | 5人以下 | 750万円 | 2/3 |
6人~20人 | 1,000万円 | ||
21人以上 | 1,250万円 |
応募要件
応募要件には、ものづくり補助金全体に共通する要件と、デジタル枠固有の要件があります。それぞれ解説しましょう。
ものづくり補助金共通応募要件
次の要件をすべて満たす3~5年の事業計画を策定していること。
- 事業者全体の付加価値額を年率平均3%以上増加すること
- ・給与支給総額を年率平均1.5%以上増加すること
- ・事業場内最低賃金(事業場内で最も低い賃金)を地域別最低賃金+30円以上の水準にすること
付加価値額とは、営業利益と人件費、減価償却費の合計額です。3~5年後に給与支給総額と事業場内最低賃金の要件を満たせなければ、補助金の返還が求められます。
デジタル枠応募要件
デジタル枠固有の応募要件は、以下のDX推進指標の活用とセキュリティアクション宣言の2つになります。
DX推進指標
- 経済産業省が公開する「DX推進指標」を活用して、DX推進に向けた現状や課題に対する認識を共有する等の自己診断を実施するとともに、自己診断結果を独立行政法人情報処理推進機構(IPA)に対して提出すること。
DX推進指標とは、次の2つの内容から構成されています。
- DX推進のための経営のあり方、仕組みに関する指標(「ITシステム構築の枠組み」(定性指標)、「ITシステム構築の取組状況」(定量指標))
- DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築に関する指標(「ITシステム構築の枠組み」(定性指標)、「ITシステム構築の取組状況」(定量指標))
具体的には、下記35項目の指標について、レベル0(未着手)からレベル5(グローバル市場におけるデジタル企業)までのランク付けで自己診断します。
出典:産業界におけるデジタルトランスフォーメーションの推進(経済産業省)
自己診断結果をIPA(独立行政法人情報処理推進機構)に提出すると、診断結果と全体データとの比較が可能となるベンチマークを提供してもらえます。質問項目が35もあるので、手間はかかりますが、ベンチマークの活用で自社の現在の状況を客観的に把握することができますし、今後のアクションをとる参考になるでしょう。
その他DX推進指標詳細については、経済産業省の「デジタル経営改革のための評価指標(「DX推進指標」)を取りまとめました」を参照してください。
セキュリティアクション 宣言
セキュリティアクション宣言とは、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が実施するセキュリティアクションの宣言を行うことです。
宣言の内容には、次の2種類があります。どちらも専用サイトで自己宣言を申し込むだけです。
- 「情報セキュリティ5か条」に取り組むことを宣言する「★ 一つ星」
- 「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」の実施と、情報セキュリティ基本方針を定め、外部に公開したことを宣言する「★★ 二つ星」
情報セキュリティ5か条とは、「ウイルス対策ソフトを導入しよう!」など至極もっともな内容ですし、宣言を通じて自社の情報セキュリティを再確認する機会にもなります。その他セキュリティアクション詳細については、独立行政法人情報処理推進機構のセキュリティアクションサイトをご参照ください。
加点項目
デジタル枠には、採択審査で優遇してくれる加点項目があります。
この加点項目では、デジタル技術が自社に及ぼす影響やデジタル技術の活用戦略などをホームページやアニュアルレポート等で公表しているかが問われます。このような自社のデジタル技術に関する取り組みを定められた様式「デジタル技術の活用及びDX推進の取組状況」に記入し、提出することで加点措置が受けられます。
加点項目が採択にどの程度影響するのか?デジタル枠の公募は始まったばかりなので、加点項目の影響はまだわかりません。とはいえ、DX推進は国の中小企業施策の重要項目であるので、それなりのインパクトがあるのではないかと推察されます。
スケジュール
2022年2月16日(水)より公募が開始されており、締め切りは2022年5月11日(水)です。
以降も、2022年度中に複数回の公募が予定されています。
公募開始 | 2022年2月16日(水)~ |
申請受付 | 2022年3月15日(火)~ |
公募締め切り | 2022年5月11日(水) |
ものづくり補助金のデジタル枠に採用されるポイント
ものづくり補助金のデジタル枠で採択されるための主なポイントは、次の3点です。これらのポイントを踏まえ、採択の可能性を上げましょう。
- ものづくり補助金(デジタル枠)の趣旨を理解する
- 審査項目や加点項目を理解する
- ものづくり補助金に詳しい専門家のサポートを受ける
ものづくり補助金(デジタル枠)の趣旨を理解する
ものづくり補助金のデジタル枠に申請をする際には、ものづくり補助金自体やデジタル枠の趣旨をよく理解したうえで申請しましょう。
ものづくり補助金に限らず、それぞれの補助金にはその補助金が設けられている理由が存在します。その補助金の目的を踏まえて申請書類を作成することで、採択率を上げることへつながるでしょう。
審査項目や加点項目を理解する
補助金にはそれぞれ、審査ポイントや加点項目が存在します。ものづくり補助金においては公募要領でこれらが明記されていますので、あらかじめよく確認した上で申請すると良いでしょう。
ものづくり補助金のデジタル枠における審査ポイントと加点項目は、それぞれ次のとおりです。
審査項目1:補助対象事業としての適格性
この項目では、次の2点が審査されます。
- 補助対象事業の要件を満たすかどうか
- 3年から5年の計画で、「付加価値額」が年率平均3%以上増加する要件を達成する取り組みであるかどうか
補助対象事業の要件を満たしていなければ、そもそも採択は絶望的となりますので、あらかじめよく要件を確認したうえで申請しましょう。
審査項目2:技術面
この項目では、次の視点などから審査がなされます。
- 新製品・新サービスの革新的な開発となっているか
- 試作品・サービスモデル等の開発における課題が明確になっているとともに、補助事業の目標に対する達成度の考え方を明確に設定しているか
- 課題の解決方法が明確かつ妥当であり、優位性が見込まれるか
- 補助事業実施のための技術的能力が備わっているか
つまり、新製品や新サービス自体が革新的であるかどうかのみならず、それが机上の空論ではなく、実現可能な技術力がその企業にあるかどうかなどが審査されます。
審査項目3:事業化面
この項目では、次の視点などから審査がなされます。
- 補助事業実施のための社内外の体制や最近の財務状況等から、補助事業を適切に遂行できると期待できるか
- 事業化に向けて市場ニーズを考慮するとともに、補助事業の成果の事業化が寄与するユーザー、マーケット及び市場規模が明確か。市場ニーズの有無を検証できているか
- 補助事業の成果が価格的・性能的に優位性や収益性を有し、かつ、事業化に至るまでの遂行方法及びスケジュールが妥当か
- 補助事業として費用対効果が高いか
補助金を投入する以上はその事業が実際に実現可能であり、その後企業が利益を上げて税収面や雇用面でプラスにならなければなりません。そのため、いわゆる慈善事業や趣味の範疇ではなく、事業として収益が見込めるかどうかが審査ポイントとなります。
審査項目4:政策面
この項目では、次の視点などから審査がなされます。
- 地域特性を活かして高い付加価値を創出し、地域の事業者等や雇用に対する経済的波及効果を及ぼすことで地域の経済成長を牽引する事業となることが期待できるか。
- ニッチ分野において、適切なマーケティング、独自性の高い製品・サービス開発、厳格な品質管理などにより差別化を行い、グローバル市場でもトップの地位を築く潜在性を有しているか。
- 単独では解決が難しい課題について複数の事業者が連携して取組むことにより、高い生産性向上が期待できるか。異なる強みを持つ複数の企業等が共同体を構成して製品開発を行うなど、経済的波及効果が期待できるか。
- 先端的なデジタル技術の活用、低炭素技術の活用、環境に配慮した事業の実施、経済社会にとって特に重要な技術の活用、新しいビジネスモデルの構築等を通じて、我が国のイノベーションを牽引し得るか。
- ウィズコロナ・ポストコロナに向けた経済構造の転換、事業環境の変化に対応する投資内容であるか。また、成長と分配の好循環を実現させるために、有効な投資内容となっているか。
ものづくり補助金では、単に自社が儲かることのみならず、地域社会などへの波及効果が期待されており、そのような期待が見込まれるかどうかが審査項目とされています。
加点項目1:成長性加点
有効な期間の経営革新計画の承認を取得した事業者は、加点対象となります。経営革新計画の承認は、各都道府県の窓口にて行われています。
加点項目2:政策加点
次の要件を満たす事業者は、政策加点の対象となります。
- 創業や第二創業後5年以内の事業者
- パートナーシップ構築宣言を行っている事業者
- 再生事業者
- デジタル技術の活用及びDX推進の取組状況(様式3)を提出した事業者
加点項目3:災害等加点
有効な期間の事業継続力強化計画の認定を取得した事業者は、加点対象となります。事業継続力強化計画の認定とは、中小企業が策定した防災・減災の事前対策に関する計画を経済産業大臣が「事業継続力強化計画」として認定する制度です。
加点項目4:賃上げ加点等
次の要件を満たす場合には、加点対象となります。
- 事業計画期間において給与支給総額を年率平均2%以上増加させ、かつ、事業場内最低賃金を地域別最低賃金+60円以上の水準にする計画を有し、事務局に誓約書を提出した事業者
- 事業計画期間において給与支給総額を年率平均3%以上増加させ、かつ、事業場内最低賃金を地域別最低賃金+90円以上の水準にする計画を有し、事務局に誓約書を提出した事業者
- 被用者保険の適用拡大の対象となる中小企業が制度改革に先立ち任意適用に取り組む事業者
ものづくり補助金に詳しい専門家のサポートを受ける
ものづくり補助金に詳しい専門家は、補助金の趣旨目的や審査ポイント、加点項目などを熟知しています。そのため、これらのポイントを踏まえ、申請前に申請内容を見直したり深堀したりすることが可能となります。
また、これらを踏まえて申請書類を作成してもらうことで、審査員が審査をしやすくなり、採択の確率を上げることにつながるでしょう。
まとめ
ものづくり補助金「デジタル枠」について解説しました。
DXを推し進めていくことは、今やすべての中小企業にとって避けて通ることのできない課題です。ぜひ補助金を活用して、自社のDXを優位に進めてください。補助金の申請にあたっては専門家のサポートを受けることもできます。
当社トライズコンサルティングでは、ものづくり申請支援を多数手がけています。書類の作成から申請手続きのサポートまで、ものづくり補助金の申請に関わる手間や面倒を一手に引き受けます。
また、ご自身で申請するよりも高い採択率を実現します。これまでに申請支援したものづくり補助金の採択率は97%(2019年、2020年度実績)を誇ります。事業主の皆さまに寄り添い、一緒に事業計画を作っていくことで採択を目指します。 ご相談は無料ですのでまずはお気軽にお問い合わせください。