「企業にとって、資金繰り計画は重要だ」などと聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?では、なぜ資金繰りの計画をすることが企業にとって必要なのでしょうか。
この記事では、資金繰り計画が重要である理由や企業の資金繰りを改善する方法などについて詳しく解説します。
資金繰り計画とは
資金繰り計画とは、企業の資金の出入りを予想して、計画を立てることです。形式ばったものであるかどうかを問わず、将来の売り上げや損益の計画を策定する企業は比較的多いかと思いますが、その資金繰りバージョンであると考えると良いでしょう。
資金繰り計画は、「損益」ではなく、企業の「お金の出入り」に着目した計画です。具体的な違いについては後ほど詳しく解説しますが、損益とお金の出入りは必ずしも一致するものではありません。
そのため、損益の計画のみを見ていても、資金繰りの状態はわからないことが多いのです。
資金繰り計画表とは
資金繰り計画表とは、企業の資金繰り計画をまとめた表です。
資金繰り計画表には決まった様式があるわけではありませんが、中小企業庁が様式の例をホームページに掲載していますので、こちらが参考となります。
コンサルタントなどへ資金繰り計画策定のサポートを依頼する場合には、コンサルタントがそれぞれ独自の視点から、独自の様式を作っていることも少なくありません。
また、資金繰り計画表は、一度作って終わりにしては非常にもったいないものです。月に一度程度は策定した資金繰り計画表と資金繰りの実績を比較検討し、将来の資金繰り表を随時見直していくことで、より精度の高い資金繰り計画をすることができるようになります。
資金繰り計画が必要である理由
資金繰り計画は、企業にとってなくてはならない非常に重要なものです。しかし、きちんとした資金繰り計画を行っていない企業も多数存在します。
資金繰り計画表は、経済産業省が所管する補助金などの申請や借入をする際に添付書類として求められることもありますので、その申請のために作成したことがある企業は少なくないでしょう。そうであるとはいえ、これはあくまでも補助金申請などのためのいわば急ごしらえであり、日常的にきちんと資金繰り計画を行っている企業は多くないのが現状です。
しかし、資金繰り計画は、企業にとって本来欠かせないものであるといえます。資金繰り計画が企業にとって重要である主な理由は、主に次の3点です。
企業の資金を「見える化」するため
資金繰り計画が重要である最も大きな理由は、資金繰り計画を策定することによって、企業のお金の流れを「見える化」することができるためです。
たとえば、それなりに利益は上がっているはずなのに、いつも何となくお金が足りないと感じていたり、大きな仕入れの支払い時期になって資金が足りるか不安に感じた経験があったりする企業経営者は少なくないのではないでしょうか。これらはいずれも、企業の資金繰り計画が適切になされていないことが大きな原因です。
後ほど詳しく解説しますが、企業の損益とお金の出入りは必ずしも一致しません。そのため、損益の計画のみではお金の出入りを適切に把握できず、このように不安な状態の中で経営をせざるを得なくなってしまうのです。
適切な資金繰り計画ができていなければ、最悪の場合、支払いの直前まで資金の不足に気が付かず黒字倒産をしてしまうことにもなりかねません。
経営判断を適切に下すため
企業を成長させ永続させるためには、経営者が重要な経営判断を下すべき場面が少なくありません。
しかし、たとえば大きな設備投資などまとまった資金が必要となる投資や、人材採用や新たな事務所の賃借など定期的な資金拠出が必要となる投資を行うかどうかの判断をするに際しては、経営者の感覚のみの判断ではどうしても不安が残ります。企業の規模が大きい場合や、企業が複数の事業を行っている場合にはなおさらでしょう。
いわゆるどんぶり勘定のままで重要な決断を下してしまえば、いざというときになって資金繰りに窮してしまうかもしれません。
このような際に役立つのが、資金繰り計画です。資金繰り計画表があれば将来の資金繰りの状態を一目で確認できるため、設備投資を行っても無理なく資金繰りがまわるかどうかなどの経営判断がしやすくなります。
資金繰り計画は、企業経営にとって必要不可欠なツールの1つなのです。
企業の信用を向上させるため
企業が設備投資を行う際などには、金融機関から資金を借り入れる必要が生じる場合が多いでしょう。このような際に、金融機関からは資金繰り計画表などの提出を求められることが少なくありません。
このとき、日ごろから資金繰り計画を行っていない企業では、どうしても急ごしらえなものとなってしまいがちです。急ごしらえの資金繰り計画表では、どうしても机上の空論になってしまう傾向にあり、説得力に欠ける場合も少なくないといえます。
一方で、日ごろから資金繰り計画をきちんと行っている企業であれば、経営者が自信を持ってそれぞれの数字の根拠を説明することができ、金融機関も比較的安心して融資がしやすいでしょう。また、融資を受けて返済をしている期間中も定期的に最近の資金繰り計画表を金融機関に提出することで、金融機関との信頼関係をより構築しやすくなります。
資金繰り計画と損益がズレる主な原因
資金繰り計画はないものの、売り上げや損益の計画はある程度行っているという企業は少なくないでしょう。しかし、売り上げや損益の計画のみでは、資金の流れを把握することはできません。
なぜなら、お金の出入りと損益では、ズレが生じる場面が少なくないためです。損益とお金の出入りがズレる主な原因は次のとおりです。
設備投資の計上時期のズレ
企業が一括払いで機械や車両、建物などの設備を購入した場合、その支払いをした時点で、代金であるお金は全額出ていきます。
一方で、出ていった額がそのままその期の経費となるわけではありません。なぜなら、購入した設備は減価償却によって数年に渡って経費とするためです。
そのため、たとえばその期に1,000万円のお金が出ていったとしても、損益に影響する経費には200万円のみが計上されるなどのズレが生じます。
借入金返済は経費にならない
借入金を返済すると、その都度企業からお金が出てきます。借り入れの比率が多い企業にとっては、月々の借入金の返済額も少なくないことが多いでしょう。
しかし、この返済額のうち、経費に計上することができるのは利息部分のみです。返済した元本部分は単に借入金勘定が減額されるのみであり、経費とはなりません。
これも、お金の流れと損益とにズレが生じる大きな原因の1つです。
なお、借り入れをした時点では企業のお金が一気に増えることになりますが、これは売り上げに計上されるわけでないため、損益には一切影響しません。この時点でも、お金の出入りと損益とにズレが生じます。
引当金の場合実際に資金は出ていかない
引当金とは、将来の大きな出費に備えてあらかじめ経費を計上しておくものです。
代表的なものとしては、売掛金などが回収できなくなる事態に備えた「貸倒引当金」などがあります。この引当金の計上は、原則として経費となります。
一方で、引当金計上の時点では、実際に企業からお金が出て行ったわけではありません。そのため、これも損益とお金の出入りとがズレる原因となります。
売上時期と売掛金回収時期のズレ
売り上げが発生した時期とその代金である売掛金回収時期のズレも、損益とお金の出入りがズレる原因の1つです。
たとえば、町の飲食店など現金のみで支払いを受ける業態であれば、このズレが生じることはありません。一方で、BtoB企業などでは売り上げが確定して請求書を発行した時点から、2ヶ月後などに入金がなされるケースが多々あります。
また、飲食店やスーパーマーケットなどのBtoC企業であっても、クレジットカードでの支払いが多い場合には、売り上げの時点とクレジットカード会社からの入金時期に1ヶ月程度のズレが生じることでしょう。
つまり、たとえ2022年3月に1,000万円の売り上げがあったとしても、その時点ですぐに1,000万円のお金が増えるわけではありません。実際にお金が増えるのは2022年4月や2022年5月など、時期にズレが生じます。
また、たとえ売り上げがあがったとしても、その後相手企業が支払いをしてくれなければ、企業にお金は入ってきません。そのため、売り上げが立った時点で満足するのではなく、回収までモニタリングすることも重要です。
在庫の考え方のズレ
在庫とは、商品を仕入れたもののその時点では売れておらず、企業の倉庫などに残っているもののことを指します。この在庫も、損益とお金の流れとにズレが生じる原因の1つです。
話をシンプルにするために、ここでは製造業ではなく小売業や卸売業をイメージしてください。
まず、相手企業から売りものである商品を仕入れた時点で、企業からお金は出て行っています。仮に1,000万円分の商品を仕入れたのであれば、その時点でお金が1,000万円減っているということです。
しかし、商品を仕入れただけの時点では、損益には何ら影響していません。企業のお金が、在庫へと形を変えただけです。
在庫が経費として計上されるのは、原則としてその後その在庫が売れた時点です。在庫であったその商品が販売されてはじめて、その売り上げに対応する経費となるのです。
資金繰りを計画的に改善する方法
資金繰り計画を策定すると、企業にとっての資金繰りの問題点が見えてくることが少なくありません。企業が資金繰りの改善にあたって検討したい主な方法は次のとおりです。
借入金を増やす・リスケする
借入金を増やしたり、借入金返済のリスケをしたりすることで、資金繰りの改善へつながります。追加で借り入れを行うことで、企業に現預金の余裕が生まれます。
なお、先ほども触れましたが、借り入れをしても企業の損益には影響しません。ただし、追加での借り入れができたからといって、資金繰り計画をしないままに重要性の低い投資を行ってしまうことのないよう注意しましょう。
また、リスケとは「リスケジュール」の略称で、借入金の返済スケジュールを変更することです。金融機関とリスケの交渉を行い、月々の返済額を減らしてもらうことができれば、企業の資金繰り改善へとつながります。
売掛金の回収サイクルを早める
売掛金の回収サイクルを早めることは、企業の資金繰り改善へとつながります。なぜなら、売り上げから回収までの期間は、いわばお金が眠ったままの状態であり、その間はそのお金を次の投資へと回すことができないからです。
売り上げの発生時期から入金までの期間が長い企業を中心に交渉すると良いでしょう。
買掛金や経費支払いのサイクルを遅らせる
売掛金など入ってくるお金は回収が早い方が良い一方で、買掛金などの経費の支払いは遅い方が資金繰り改善にプラスです。支払いサイクルを延ばしてもらうよう、仕入れ先と交渉をすると良いでしょう。
また、経費の支払いを現金や振り込みではなくできるだけクレジットカード払いなどとすることで、支払いサイクルを延ばすことができます。
不要な資産を売却する
倉庫内に眠った在庫やほとんど利用していない資産があれば、できるだけ早期に売却をしてお金に変えることが得策です。
安く売ってしまうことをもったいないと感じるかもしれませんが、眠った在庫や利用頻度の低い資産は企業にお金を生んでいるわけではありません。眠った在庫や利用頻度の低い資産は企業のお金が形を変えたものですが、そのままでは次の投資に回すこともできず、また倉庫などでの保管にも費用がかかっています。
不要な資産を売却することは、企業の資金繰り改善策の1つです。
資金繰り計画は誰に相談すべき?
資金繰り計画に取り組もうとした場合、企業は誰に相談すれば良いのでしょうか?相談先の特徴をそれぞれ解説します。
金融機関
金融機関によっては、企業の資金繰り計画の相談を受けてくれる場合があります。
しかし、原則として金融機関の資金繰りに関する提案は、追加での借り入れやリスケが中心になることが多いでしょう。
税理士
税理士は、非常に頼もしい税務のプロフェッショナルです。企業の内情を把握している場合も多いため、資金繰り計画を相談する候補の1つとなるでしょう。
また、毎月の訪問を受けている場合などには、計画のモニタリングまで依頼しやすいといえます。
ただし、税理士は税務のプロであって、財務のプロでないことが少なくありません。財務と税務は似て非なるものであり、節税と資金繰り対策とはある意味で相反する部分も存在します。
そのため、税理士へ資金繰り計画の相談をする際には、その税理士が財務的な視点をどれだけ持っているのかを重視して判断すると良いでしょう。
中小企業診断士など専門のコンサルタント
資金繰り計画についての相談相手としては、中小企業診断士など財務を専門としたコンサルタントが最適です。専門のコンサルタントは、財務のプロフェッショナルの視点から企業の資金繰り計画策定のサポートを行い、さまざまな視点から企業の資金繰り改善をアドバイスしてくれます。
また、継続的に計画のモニタリングを依頼することも可能です。
中小企業診断士などのコンサルタントは過去の数字を追うのではなく、企業成長の未来を一緒につくりあげる役割を担います。財務の専門コンサルタントは、企業経営の心強いパートナーとなってくれることでしょう。
まとめ
資金繰り計画は企業の将来の資金繰りを見通すためのツールであり、企業を安定的に経営していくうえで非常に重要なものです。資金繰り計画を作成して定期的に見直すことで、資金繰りに不安のない経営を目指しましょう。
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