【2022】事業再構築補助金は「医療法人」は対象?対象外?要件の活用方法の例

医療法人向けの事業再構築補助金

2020年初頭以来、新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、日本全国はいわゆる「コロナ禍」に見舞われました。飲食業等をはじめとして、多くの業界で実質的に営業自粛を強制されるなどして、非常に大きな経済的ダメージを強いられました。

そのような中、医療従事者たちが「エッセンシャルワーカー」として、自らも感染の危険に曝されながらも気を吐いている姿は記憶に新しいところです。行政による新型コロナウイルス感染症対応の混乱や、社会不安の中、医療機関における一般診療までもが減少し、結果として経営的な悪影響が生じた医療機関が増えました。

長引くコロナ禍において、低調な中小企業等が思い切った事業の見直し転換を行うことを支援する事業再構築補助金は、果たして医療法人でも活用することができるのでしょうか?

事業再構築補助金の概要

事業再構築補助金は、新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、当面の需要や売り上げの回復を期待しづらい中、ウィズコロナ・ポストコロナの時代の経済社会の変化に対応するために中小企業等を支援するものです。

「新分野展開」「業態転換」「事業転換」「業種転換」「事業再編」またはこれらの取り組みを通じた規模の拡大など、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援することで、日本経済の構造転換を促すことを目的とした補助金です。

繰り返しになりますが、事業再構築補助金は、日本経済の構造転換を促すためのものです。
また、事業計画の審査項目には、補助事業終了後3〜5年計画で「付加価値額」(営業利益、人件費および減価償却費の額を足した額で、企業の利益、雇用、設備投資を重要視する観点から用いられる指標)年率平均3.0%(【グローバルV字回復枠】については2.0%)以上の増加等を達成する取り組みであることが求められています。

さらに他の審査項目に注目してみると、重要な審査分野の一つである「事業化点」では、補助事業の成果が優位性や収益性を有し、費用対効果の高い効果的な取り組みであることが求められています。したがって、事業再構築補助金はその補助対象として収益事業を前提としていることは明らかです。

収益事業が取り組む事業再構築への投資を通じ、より生産性の高い経済への転換を図る制度設計となっているのです。

医療法人は補助対象者に含まれる?

大都市を中心として全国がコロナ禍に苦しむ中、最前線で奮闘される医療従事者の方々は身の危険も顧みず、最大限の敬意を表するに値する素晴らしい活躍を続けています。医療法人でも経営面での疲弊が生じていると推察されますが、事業再構築補助金の補助対象者に含まれるのでしょうか。

医療法人

医療法人は、事業再構築補助金の補助対象にはなりません。

医療法人は、医療法39条の規定に基づき、病院、医師もしくは歯科医師が常時勤務する診療所、介護老人保健施設または介護医療院を開設しようとする社団または財団が法人化されたものです。同法40条の2では、医療法人は、自主的にその運営基盤の強化を図るとともに、その提供する医療の質の向上およびその運営の透明性の確保を図り、その地域における医療の重要な担い手としての役割を積極的に果たすよう努めなければならないとされています。

事業再構築補助金の公募要項によれば、事業再構築補助金の補助対象者に含まれるためには、「中小企業等経営強化法2条1項6号〜8号に定める法人(企業組合等)または法人税法別表第二に該当する法人もしくは法人税法以外の法律により公益法人等とみなされる法人(従業員数が300人以下である者に限る)であること」が求められますが、医療法人はこのいずれにも該当しません。また医療法人は、その運営に関する規定等からも明らかな通り、収益業務を行うことが想定されていません。

これらのことから、医療法人は事業再構築補助金の補助対象者に含まれません。

社会医療法人

社会医療法人は、事業再構築補助金の補助対象となります(収益事業を行っていない場合は対象外)。

社会医療法人は、医療法42条の2第1項の規定に基づき都道府県知事から認定を受けた医療法人です。社会医療法人は、その収益を当該社会医療法人が開設する病院、診療所、介護老人保健施設または介護医療院の経営に充てることを目的として、厚生労働大臣が定めるところにより収益業務を行うことができます。

その収益業務の種類は、2007年3月30日付の厚生労働省告示第29号「厚生労働大臣の定める社会医療法人が行うことができる収益業務」で次のように定められています。

  1. 農業
  2. 林業
  3. 漁業
  4. 製造業
  5. 情報通信業
  6. 運輸業
  7. 卸売・小売業
  8. 不動産業(「建物売買業、土地売買業」を除く。)
  9. 飲食店、宿泊業
  10. 医療、福祉(病院、診療所または介護老人保健施設に係るものおよび医療法42条各号に掲げるものを除く。)
  11. 教育、学習支援業
  12. 複合サービス業
  13. サービス業

また、収益業務の範囲については、当該社会医療法人の開設する病院等の業務の一部としてまたはこれに付随して行われるものを含まないものとされています。

そして、前出のとおり、公募要領によれば、事業再構築補助金の補助対象者に含まれるためには、「中小企業等経営強化法2条1項6号〜8号に定める法人(企業組合等)または法人税法別表第二に該当する法人もしくは法人税法以外の法律により公益法人等とみなされる法人(従業員数が300人以下である者に限る)であること」が求められます。

社会医療法人は法人税法別表第二に該当する法人であるため、事業再構築補助金の補助対象者に含まれます。ただし、収益事業を行っていない場合においては補助対象となりません。

その他の医療機関

その他の医療機関の場合は、事業再構築補助金の補助対象者となるのでしょうか?

「クリニック」「医院」等を営む個人開業医

いわゆる個人開業医は個人事業主であり、公募要領が補助対象者としている「中小企業者」に該当するため、事業再構築補助金の活用を検討することができます。

医療機関を経営している公益財団法人、公益社団法人、一般財団法人および一般社団法人
公益財団法人、公益社団法人、一般社団法人および一般社団法人はいずれも法人税法別表第二に該当する法人であるため、事業再構築補助金の補助対象者に含まれます。

ただし、収益事業を行っていない場合においては補助対象となりません。

大病院

大病院は、事業再構築補助金の対象となりません。

大病院とは、特定機能病院、療養型病床群を有する病院および老人病院以外の一般病院で、病床規模が500床以上の病院を指します。一般社団法人日本病院会の2019年12月18日付け「2019年度病院経営定期調査ー集計結果(概要)ー」によれば、500床以上の病院における病床100床あたりの平均職員数は218.9人で、大病院においては少なくとも千人余りもの職員が業務に携わっていることになります。


この大病院が個人事業であったとしても、特区での会社による経営であったとしても、「従業員数」の多さにより中小企業者には該当せず、事業再構築補助金の補助対象者には該当しません。

大学病院

大学病院とは、公立大学医学部等の附属病院を指し、法人の種類は地方独立行政法人です。地方独立行政法人は中小企業者には該当せず、かつ法人税法別表第二にも該当せず、法人税法以外の法律により公益法人等とみなされる法人にも該当しません。

したがって、大学病院も事業再構築補助金の補助対象者には該当しません。

補助対象者としての要件

前述のように、他の業種と同じように社会医療法人も補助対象者の範囲に含まれています。ただし、次のいずれかに該当しなければ、どの業種であれ補助対象者とはなりませんので注意してください。

中小企業者

中小企業者は、一定の条件を満たす会社または個人を指しますので、社会医療法人はこれに当たりません。

「中小企業者等」に含まれる「中小企業者」以外の法人

社会医療法人は法人税法別表第二に該当する法人で、大多数の場合これに該当します。

中堅企業等

社会医療法人のうち、資本金が3億円を超え、または常勤従業員数が300人を超え、次の2項目に該当する場合は、非常にレアなケースではあるものの、中堅企業等として補助対象者となります。

  • 資本金の額または出資の総額が10億円未満
  • もしくは資本金の額または出資の総額が定められていない場合は常勤従業員数が2,000人以下であるもの

事業再構築補助金を活用した医療法人の取り組み

ここまで、医療法人等の医療機関が事業再構築補助金の補助対象者となるかどうか、医療機関や運営法人の種類に応じて確認しました。

ここからは、補助対象事業の要件を確認し、社会医療法人等の医療機関が事業再構築補助金を活用してどのような取り組みを実施することができるのかチェックしましょう。

補助対象事業の要件

「事業再構築指針」が示すところによると、事業再構築とは、「新分野展開」「事業転換」「業種転換」「業態転換」または「事業再編」のいずれかを行う中小企業等の事業活動を指します。したがって、現行事業のあり方に何ら手を加えず、例えば単に最新鋭の医療機器を導入するなどの設備投資を行うだけでは、事業再構築補助金の補助対象とはなりません。

これら5つの類型の事業再構築を行う補助事業の計画を策定し、その補助事業を遂行するために必要となる費用が補助対象となります。そのため、補助事業の計画段階では、事業再構築の各類型に該当するための要件をよく確認し、それをしっかりと満たす姿を構想することが求められます。

また、いずれの事業類型においても「売上高等減少要件」を満たす必要があります。すなわち、こちらを満たすことが要件となっています。

2020年4月以降の連続する6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月の合計売上高が、コロナ以前(2019年または2020年1月〜3月)の同3ヶ月の合計売上高と比較して10%(「グローバルV字回復枠」の場合は15%)以上減少しており、2020年10月以降の連続する6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月の合計売上高が、コロナ以前(2019年または2020年1月〜3月)の同3ヶ月の合計売上高と比較して5%以上減少していること等

これらの補助対象事業の要件を満たした上で、社会医療法人その他の医療機関は、事業再構築補助金を活用したどんな取り組みが可能となるでしょうか?

診療科の新設

これまで手掛けていない先進的な診療科、たとえば癌治療科を新たに増やす方向性が挙げられるでしょう。必要となる設備投資については補助の対象となる可能性が高く、通常ならば大変高額な医療機器も補助金を活用して導入することが可能です。

加えて、たとえば癌治療科への進出は、医療機関が所在する地域への貢献(地域性)や、超高齢化社会という社会問題への取り組みが加点要素となる可能性もあるでしょう。癌治療科に限らず、先進的診療科目の新規開設は、最新設備への設備投資をしながら社会問題にもアプローチするという好ましいモデルであるといえます。

オンライン診療の導入

オンライン診療の仕組みは、新型コロナウイルスの感染拡大によって大きく拡充されるようになりました。初診からオンライン診療を受けることも特例的に認められています。

この措置は、2021年4月10日付の厚生労働省発、各都道府県・保健所設置市・特別区衛生主観部局宛ての、オンライン診療等に係る医療機関における対応等に関する依頼文書において、「新型コロナウイルス感染症が拡大し、医療機関の受診が困難になりつつあることに鑑みた時限的・特例的な対応」であるとの趣旨が明確に示されていました。

そのような意味で、オンライン診療の導入は対人接触機会を減らし医療機関における感染リスクを下げる「守り」に主眼を置いた取り組みです。また、それだけでなく、オンライン診療には、離島や「僻地」など全国津々浦々の患者に対して医療を届けるという「攻め」の姿勢で事業展開できる可能性があります。

オンライン診療に係る事業においては、対面での診察と同等の質を確保していくため、オンライン診療に必要となる専用のアプリケーションその他の医療機器への設備投資を事業再構築補助金の補助対象にできるでしょう。

福祉事業への参入

医療機関の設備的、人的資源を強みとして、福祉に係る事業に参入する例も多く見受けられます。

たとえば、高齢者福祉や介護の分野では、社会医療法人は介護老人保健施設に係る収益業務を行うことはできませんが、「通所」「宿泊」の付加価値をつけた「看護小規模多機能型居宅介護」サービスにより在宅医療の一体化を図った事例があります。

他にも、既存事業で培ったノウハウを活かし、終末期の癌患者の最期の時間を穏やかに家族と過ごしていただくホスピスの運営に取り組もうとする事例もあります。

障害福祉の分野に参入する事例も多く、障害者への居宅介護の実績を持つ強みを活かして障害のグループホームの運営を始めた例などが挙げられます。他施設よりも優れたサービスを提供したり、他施設では受け入れの難しい入居者も受け入れられたりすることが、優位性の一つとなっているようです。

児童福祉の分野でも、就学している発達障害児(6歳以上)を対象とした「放課後デイサービス」事業を加えた多機能施設を開設するといった事例など、保育園や幼稚園に代表される従来のスキームでは対応の難しい取り組みが見られます。

まとめ

今回は、医療法人が事業再構築補助金を利用できるのかどうか、またどのように活用できるのかについて解説しました。収益事業を行わない通常の医療法人の他、医療機関を運営するさまざまな主体にも事業再構築補助金の補助対象者となるものとそうでないものがあることをおわかりいただけたでしょう。

医療機関は長年をかけて培った高度な技術と高い職業倫理を備えた人材という非常に大きな「強み」資源を持つため、事業再構築補助金を活用する方策は、今回お伝えした方向性以外にも多くあり、その可能性を求める価値は必ずあるはずです。

もっとも、新しい取り組みを設計するのは簡単なことではありません。そのため、信頼できる専門家のサポートを受けながら事業計画策定および申請手続に臨むのが合理的な方法です。

医療に携わる皆様が抱える課題は多岐にわたり、多くの複雑さも伴います。当社トライズコンサルティングには、豊富な業界経験に裏打ちされた高い専門性を持った専門家が在籍しています。綿密なヒアリングに基づいて会社の強みや特徴を発見し、事業環境を適切に分析することにより、実現可能性が高く、成長につながる事業計画づくりを行います。

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