販路開拓や生産管理のため、自社でアプリを開発したいけれど、どのくらいコストがかかるか不安という方は多いことでしょう。しかし、今後ますます進展していくであろうことが見込まれるビジネスのDX推進の波に向けて、事業に利用するアプリの開発は、すべての業種で取り組まなければならない喫緊の課題であるといえます。
今回は、アプリ開発を検討している方に向けて、コストの相場とその決定要因、できるだけ安く抑える方法について解説します。この記事を参考に、自社のアプリ開発に取り組み、売上の拡大や生産性の向上につなげていただきたいと思います。
アプリ開発コストの相場
多くの方はアプリ開発に携わることがないため、開発会社に見積りを出されても、それが高いのか安いのかわからないことでしょう。それを判断するには最も有効な手段が、アプリ開発の相場を知ることです。ここでは一般的なアプリ開発のコストの相場について解説していきます。
アプリ開発コストの計算方法
アプリ開発の見積り額は次の計算式で求められます。
- 見積り額=(人件費)×(開発期間)+(固定費)
人件費はクライアントからの要望をヒアリングし、アプリの設計を行う「システムエンジニア」や、設計に沿ってプログラミングをする「プログラマー」、見た目のデザインを決める「デザイナー」に加え、開発プロジェクト全体を管理する「プロジェクトマネージャー」に支払う費用が該当し、それらに開発期間を乗じたものがアプリ開発の変動費になります。
固定費はドメインの取得費用やサーバーの導入費用、アプリストアへの登録費用などが該当します。
アプリの種類ごとの相場
開発するアプリの種類も、相場を決定する重要な要因の1つです。「SPDLOAD」では、アプリを開発するのにかかる平均的なコストを次のとおり公開しています。なお、金額については1ドル110円で計算しています。
アプリの種類 | 開発コスト | 開発期間 |
タクシーアプリ | 550~4,400万円 | 1,600時間 |
ゲームアプリ | 660~2,750万円 | 1,600時間 |
ARアプリ | 1,100~2,750万円 | 1,600時間 |
eコマースアプリ | 660~2,750万円 | 1,600時間 |
SNSアプリ | 550~3,300万円 | 1,200時間 |
ビジネスアプリ | 550~2,200万円 | 1,200時間 |
学習アプリ | 660~2,475万円 | 900時間 |
ビデオストリーミングアプリ | 880~3,300万円 | 1,600時間 |
レストランアプリ | 440~1,650万円 | 900時間 |
コミュニティアプリ | 198~1,650万円 | 900時間 |
マッチングアプリ | 550~3,850万円 | 1,400時間 |
フードデリバリーアプリ | 440~1,650万円 | 900時間 |
ヘルスケアアプリ | 605~3,300万円 | 1,200時間 |
参照元:SPDLOAD「How Much Does It Cost to Develop an App in 2022? Cost Breakdown」
種類ごとに開発コストにかなり幅があることがわかります。
たとえば、同じ「eコマースアプリ」でも、単に商品カタログのようなものなのか、決済サービスまで付帯したものにするのかなど、アプリ開発の目的によって搭載する機能が大きく変わってくるためです。
また、同じアプリでも開発会社が異なるとコストも変わるため、相見積もりを取ることがマストです。
相場の確認方法
アプリの目的や搭載する機能によって大きく開発コストが変わるため、初めて開発を依頼する場合、開発会社の見積り金額を見てもそれが適正なものか判断することは難しいでしょう。
そういった方は、クリーク・アンド・リバー社が提供する「アプリ開発見積もりシミュレーター」をぜひ活用ください。対応させるOSや個人情報データ利用の有無、ログイン・決済などの搭載したい機能を細かく指定し、見積り金額を算出してくれます。アプリ開発のコストの相場を気軽に知りたいときに大変便利です。
アプリ開発コストの内訳
続いて、アプリ開発のコストを構成する要素を分解して解説します。開発時のコストに加え、開発したアプリを継続的に使っていくためにもコストがかかる点には注意が必要です。
人件費
アプリ開発のコストは、そのほとんどを人件費が占めるといっても過言ではありません。アプリの開発には、次の担当者でチームを組んで取り組むことが一般的です。
- プロジェクトマネージャー:プロジェクト全体を統括する
- システムエンジニア:顧客の要望を吸い上げ、アプリの設計書を作成する
- プログラマー:設計書に合わせてコードの記述を行う
それぞれに1ヶ月にかかるコストの相場は概ね次のとおりです。
- プロジェクトマネージャー:100~180万円
- システムエンジニア:
- 初級:60~100万円
- 中級:80~120万円
- 上級:100~160万円
- プログラマー:50~100万円
プロジェクトの規模が大きくなるほど開発に携わる人数が多くなり、開発期間も長くなります。つまり、それだけコストが高くなるということです。
デザイン費用
機能に直接かかわる部分ではありませんが、アプリのデザインも開発コストを構成する重要な要素です。アイコンや画像、ボタンの配置などUI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザーエクスペリエンス)を意識した作り込みを行う必要があります。
UI/UXの定義は次に示すとおりです。
- UI(ユーザーインターフェース):アプリの操作画面及び操作方法
- UX(ユーザーエクスペリエンス):アプリの利用を通してユーザーが得る体験
たとえば、トップページに戻りたいのに、どこにボタンの場所がすぐわからなければ、ユーザーにとってそのアプリは使いにくいということになります。ユーザーにとって使いやすいものであることが、アプリを使用してもらう最も重要な条件です。
そのため、デザインも利用シーンを想定し、戦略的に設計する必要があり、ある程度のコストをかける必要があるでしょう。
サーバー費用
アプリ上でユーザーが要求した動作の結果をデバイスへ返すためには、「サーバーサイド」の開発が必要になります。自社でサーバーを構築する場合、イニシャルコストのみで済みますが、複雑な設定や管理も自社でこなさなくてはなりません。
レンタルサーバーを使用すれば、ランニングコストはかかるものの、そういった手間がないというのがメリットです。最近では安価でサービスを提供している業者も多いため、専門知識を持っている従業員がいないのであれば、レンタルサーバーを利用するのが無難でしょう。
アップデート費用
アプリ開発はリリースして終わりではなく、常にアップデートしていく必要があります。特に、リリース直後はバグや不具合といったことが多く出ることが想定されるため、ユーザーからの苦情には即座に対応しなくてはなりません。
また、できるだけそういった苦情の出ないよう、事前のテストではあらゆる場面を想定したものを行う必要があります。加えて、絶えずユーザーの利便性を考え、社内やアプリストアなどコミュニティの意見を収集し、機能の追加やデザインの変更などを行うコストも計画しておかなくてはなりません。
保守費用
デバイスのOSのアップデートにも逐次、対応していかなければなりません。特に、「iOS」や「Android」は年に1回のメジャーアップデートと複数回のマイナーアップデートを繰り返しており、気付いたらアプリが動作しなくなってしまったということもあるので注意が必要です。
アプリ開発コストの決定要因
アプリ開発のコストは「システムエンジニア」などに要する人件費と開発期間が大きな要素になることをお伝えしました。ここでは、それらの要素を左右する要因について解説します。
機能の多さ
単純にアプリに搭載する機能を増やせば増やすほど、開発コストはかさみます。その分、仕様書の要件は複雑になり、コードを記述する量も増え、開発期間が長くなるためです。
また、機能が増えればそれに伴ってUI/UXについて検討する余地が増え、デザインに対するコストも上昇することになります。
対応機種・OSの種類
どの機種、どのOSでの利用を想定して開発するのかということも重要です。
機種では、パソコンやタブレット、スマートフォンのほか、専用機器なども考えられます。それぞれのデバイスでシームレスに利用できるようなアプリともなれば、かなりのコストが必要です。実際の利用シーンを想定し、必要なものだけに絞って開発する必要があります。
また、OSではスマートフォンだけとって見ても「iOS」と「Android」があり、いずれのバージョンもリリースするとすれば、単純に2倍のコストがかかります。そのため、「iOS」版を先にリリースし、経過を見て「Android」版をリリースするといった段階的なアプリ開発を行なっていくというケースも少なくありません。
開発方法の選定
アプリの開発には、大きく「スクラッチ開発」と「クラウド開発」の2つの方法が存在します。
スクラッチ開発
アプリ開発と聞いて一般的に想像するのは「スクラッチ開発」の方で、自社独自のアプリを一から開発する手法です。メリットとしては、オリジナリティの高いアプリを開発することが可能であり、自社の業務フローをアプリの仕様に合わせて変更しなくても良いということが挙げられます。
反面、デメリットは、一からのアプリ開発となるため、開発期間や携わる人間も多くなり、開発コストが膨らんでしまうといった点が挙げられます。
クラウド開発
一方、「クラウド開発」とは、すでに開発されている複数のアプリを組み合わせて、新たなアプリを開発する手法です。メリットは、すでに既存のアプリを活用するため、プログラミングの工程が不要となり、開発コストを大幅に削減することが可能ということが挙げられます。
しかし、既存アプリの仕様により、自由度は「スクラッチ開発」と比較して小さく、業務フローを修正する必要があります。欲しい機能がすべては搭載されていない可能性もあるでしょう。
アプリ開発コストを抑える方法
アプリ開発のコストの相場を見て、大きな金額がかかることに愕然とされた方も多いでしょう。開発するのであれば良いアプリにしたいと考えるのは当然ですが、費用はできるだけ低く抑えたいものです。ここでは、その開発にかかるコストをできるだけ抑えるための方法を解説します。
正しい要件・機能を設定する
アプリの目的を明確にし、はじめにどこまでの機能を持たせるかということを決めておくことが重要です。
開発の要件があやふやのままでは、開発会社の言われるがままにあれもこれもと必要のない機能を付けてしまい、結果として費用が膨大になり、開発したアプリも使いづらいものになってしまうでしょう。
また、リリースした後、追加の機能を付帯しようとすると、開発期間が長くなってしまい、余計なコストがかかってしまいます。そのためにも、最初の段階で使用目的や欲しい機能は明確にしておきましょう。
クラウド開発を採用する
現在、開発方法の主流は「クラウド開発」になっているといえます。すでに膨大な数のアプリがリリースされており、完全にとまではいきませんが、組み合わせることで自社の求める要件にかなり近づけることができるでしょう。
その組み合わせさえ見つけることができれば、開発コストをかなり抑えることができるため、中小企業向きといえます。すでに世に出ているアプリを利用するため、リリース後の不具合も少ないことが想定できます。
また、最近ではプログラミングの知識がなくてもアプリを開発できる、いわゆる「ノーコード」でのアプリ開発サービスも増えてきています。そういったサービスを活用しても良いでしょう。
補助金を活用する
中小企業向けに募集されている国や地方自治体の「補助金」を活用することも有効です。
補助率は、概ね1/2~2/3ほどの制度が多いため、一部は自己負担が必要になりますが、1,000万円超の補助金がもらえるものもあり、開発にかかるコストをグッと抑えることが可能です。
アプリ開発を検討されている方は、補助金をぜひ検討してみてください。なお、ほとんどの補助金は、いったん全額を開発会社に支払った後支給されるため、一時的に立て替えておかなければならない点に注意が必要です。
アプリ開発で活用できる補助金
最後に、アプリ開発に利用できる補助金を3つ紹介します。それぞれ対象事業者の要件や補助対象となる経費が定められていますので、申請する際は募集要領をよくご確認ください。
ものづくり補助金
ものづくり補助金は、中小企業等が取り組む革新的なサービスや試作品の開発、生産プロセスの改善を行うための設備投資等を支援するもので、製造業を営む事業者の設備更新のために使用されることが多い制度です。
2022年10月現在、「一般型」と「グローバル展開型」の2つの申請類型で募集されており、「一般型」はさらに5つの枠に分かれています。そのうち、「通常枠」の補助上限、補助率は次のとおりです。
補助上限
- 750万円〜1,250万円
補助率
- 1/2
- 小規模事業者等:2/3
補助上限は、従業員数に応じて異なります。補助金のポータルサイトでは、過去の採択事例を閲覧することが可能であり、アプリ開発の事例も見ることができます。
事業再構築補助金
事業再構築補助金は、時流にあったビジネスモデルへ転換し、アフターコロナ以降の経営の安定化を目指す中小企業等を支援する制度です。コロナ禍で募集が開始され、毎回2万社以上から申請されています。
最も多く申請されている「通常枠」の補助金額、補助率は次のとおりです。
補助金額(中小企業者等、中堅企業等ともに)
- 従業員数20人以下:100万円~2,000万円
- 従業員数21~50人:100万円~4,000万円
- 従業員数51~100人:100万円~6,000万円
- 従業員数101人以上:100万円~8,000万円
補助率
- 中小企業者等:2/3(6,000万円を超える部分:1/2)
- 中堅企業等:1/2(4,000万円を超える部分:1/3)
アプリなどのITツールを用いて、ビジネスモデルを再構築するというDXの定義に則った取組みを行うのであれば、この制度の利用が適当になるでしょう。
IT導入補助金
IT導入補助金は、中小企業者等がITツールを導入し、生産性の向上を図ることを支援する制度です。ITツール導入を支援する「ITベンダー・サービス事業者」と連携し、取り組むことが要件とされており、2022年10月現在、3つの枠で募集されています。
そのうち、アプリ開発に活用できる「通常枠」の補助上限額・下限額、補助率は次のとおりです。
補助上限額・下限額
- A類型:30万円〜150万円未満
- B類型:150万円〜450万円以下
補助率
- 1/2以内
なお、補助対象となるITツールはあらかじめ補助金の事務局に登録されているものが対象となっています。
そのため、一からアプリを開発する場合は対象となっていません。既存のアプリを組み合わせ、自社用にカスタマイズして導入するといった活用が考えられます。
まとめ
アプリ開発にかかるコストの相場やコストを左右する要因、抑える方法について解説しました。
労働人口の減少や消費者の価値観への変化などに合わせて、多くの企業がDXの取り組みを推進しています。中小企業でも他人事ではなく、持続可能なビジネスモデルへの転換が必要な時期に来ているといえるでしょう。まずは小さいことから、業務改善に目を向けてみてください。
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