補助金とは、国や地方公共団体から受け取れる返済不要な資金のことです。しかし、この補助金の大半は、建物費に使用することはできません。
そのような中、新型コロナ禍で新たに誕生した「事業再構築補助金」は、建物費にも活用できる珍しい補助金です。今回は、建物にも活用できる事業再構築補助金について、くわしく解説します。
補助金とは
これまで補助金を活用したことがない人にとっては、補助金についてイメージが湧きづらいかもしれません。はじめに、補助金の概要について解説していきましょう。
補助金とは何か
補助金とは、国や地方公共団体から受け取れるお金です。融資とは異なり、不正受給などでない限り、返済は必要ありません。
ただし、申請さえすれば必ずお金がもらえるというものではなく、多数の応募の中から審査がされ、採択がされた場合に受給資格が得られます。そのため、採択を勝ち取るため、申請内容を練り込み、申請書類を作り込むことが不可欠です。
補助金には非常に多くの種類があり、補助金ごとに目的や補助対象が異なっています。また、その年によって公募される補助金の種類も異なっており、去年まで存在した補助金が今年はないということも珍しくありません。
これは、補助金がその年度の政策を反映したものであるからです。そのため、「そのうち申請しよう」などと考えていると、補助金制度自体がなくなってしまう可能性があります。
自社の取り組みに合った補助金を見つけたら、その補助金があるうちに速やかに申請準備に取り掛かると良いでしょう。
助成金との違い
補助金と似たものに、「助成金」が存在します。助成金も補助金と同じく、国や地方公共団体から返済不要の資金が受け取れる制度です。
では、両者はどのように異なるのでしょうか?
実は、補助金と助成金とに明確な線引きがあるわけではありません。補助金「的な」制度の名称が「助成金」である場合もあれば、その反対も存在します。
ただし、一般的には、次の傾向にあるものが多いでしょう。
補助金 | 助成金 | |
管轄 | 経済産業省などさまざま | 厚生労働省がほとんど |
募集時期 | 一定期間のみ | 通年 |
補助対象 | さまざま | 雇用や人材育成など人材系のものが多い |
要件を満たせば必ず受給できるか | 申請後、採択が必要 | 要件を満たして申請すれば受給できる |
とはいえ、先ほども触れたとおり、必ずしもこのように分類できるわけではありません。そのため、申請前にその補助金や助成金の公募要領などをよく確認し、個別で内容を確認する必要があるでしょう。
事業再構築補助金とは
事業再構築補助金とは、コロナ禍で新たに誕生した非常に大型の補助金です。
補助金額の詳細は後ほど紹介しますが、採択されることで、通常枠で最大2,000万円から8,000万円(従業員数によって上限額が異なる)の補助金を受け取ることができます。
コロナ禍で売上が大きく減少した企業が思い切った事業の再構築をするにあたって、必要となるさまざまな経費が補助対象です。建物費にも活用できるという点で、非常に珍しい補助金であるといえるでしょう。
建物費に使える事業再構築補助金の申請基本要件
建物費にも使える事業再構築補助金を申請するには、所定の要件を満たさなければなりません。
事業再構築補助金の基本の申請要件は、つぎのとおりです。なお、これは通常枠の申請要件であり、特別枠への申請では一部の要件が免除されたり、追加されたりします。
売上が減っていること
1つ目の要件は、売上が減っていることです。具体的には、次の要件で確認されます。
- 2020年4月以降の連続する6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月間の合計売上高が、コロナ以前(2019年または、2020年1月から3月)の同3ヶ月の合計売上高と比較して10%以上減少していること
ただし、これを満たさなかったとしても、次の要件を満たせば申請が可能です。
- 2020年4月以降の連続する6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月の合計付加価値額が、コロナ以前の同3ヶ月の合計付加価値額と比較して15%以上減少していること
事業再構築をすること
事業再構築補助金を申請するにあたっては、事業の再構築をすることが要件とされます。事業再構築には、次のものが該当します。
- 新分野展開:産業分類上の「主たる業種」または「主たる事業」を変更することなく、新たな製品を製造しまたは新たな商品もしくはサービスを提供することにより、新たな市場に進出すること
- 事業転換:新たな製品を製造しまたは新たな商品もしくはサービスを提供することにより、「主たる業種」を変更することなく、「主たる事業」を変更すること
- 業種転換:新たな製品を製造しまたは新たな商品もしくはサービスを提供することにより、「主たる業種」を変更すること
- 業態転換:製品または商品もしくはサービスの製造方法や提供方法を相当程度変更すること
- 事業再編:合併や事業譲渡など会社法上の組織再編行為等を補助事業開始後に行い、新たな事業形態のもとに、新分野展開、事業転換、業種転換又は業態転換のいずれかを行うこと
そのため、単にこれまで生産していた製品を増産するために工場建物を増築したいとか、営業所を移転するために建物を新築したいなどという理由では、事業再構築補助金を申請することはできません。
認定経営革新等支援機関とともに事業計画を策定すること
事業再構築補助金を申請するための3つ目の要件は、認定経営革新等支援機関とともに事業計画を策定することです。
認定経営革新等支援機関とは、中小企業支援に関する専門的知識や実務経験が一定レベル以上にある者として、国の認定を受けた支援機関を指します。税理士や公認会計士、中小企業診断士などが登録していることが多いです。
また、補助金額が3,000万円を超える案件では、銀行などの金融機関も参加して事業計画を策定することが必要です。
ただし、金融機関が認定経営革新等支援機関である場合には、その金融機関のみで構いません。建物費に対して事業再構築補助金を申請する場合には金額が大きくなることが多いため、金融機関の関与が必要となる可能性が高いでしょう。
策定する事業計画は、補助事業終了後3年から5年で、次のいずれかの達成を見込むものであることが必要です。
- 付加価値額の年率平均3.0%以上増加
- 従業員一人当たり付加価値額の年率平均3.0%以上増加
建物費に使える事業再構築補助金の申請枠と補助上限額
事業再構築補助金の申請枠と補助上限額は、それぞれ次のとおりです。なお、これは2022年度に申請する場合の内容です。
2023年度以降の申請では申請枠と補助上限額が変わる予定ですので、2023年度以降の申請をご検討の場合には次の記事もご参照ください。
通常枠
通常枠とは、事業再構築補助金の基本となる申請枠です。新分野展開や業態転換、事業・業種転換などの取り組み、事業再編またはこれらの取り組みを通じた規模の拡大などを目指す中小企業等の新たな挑戦を支援しています。
単に「事業再構築補助金」といった場合には、この枠を指すことが多いでしょう。
通常枠の補助金額と補助率は従業員規模によって異なっており、それぞれ次のとおりです。
従業員規模 | 補助金額 | 補助率 |
---|---|---|
20人以下 | 100~2,000万円 | 中小企業 :2/3(6,000万円超は1/2) 中堅企業: 1/2(4,000万円超は1/3) |
21人~50人 | 100~4,000万円 | |
51人~100人 | 100~6,000万円 | |
101人以上 | 100~8,000万円 |
なお、次から紹介をする特別枠で申請をした場合は、申請した特別枠で不採択となったとしても、原則としてこの通常枠で再審査をしてもらうことができます。ただし、申請をした特別枠によっては通常枠での再審査をしてもらうにあたり、売上が減ったとの要件を満たすことを示す書類などを別途提出しなければなりません。
大規模賃金引上枠
大規模賃金引上枠とは、多くの従業員を雇用しながら継続的な賃金引上げに取り組むとともに、従業員を増やして生産性を向上させる中小企業等の事業再構築を支援する特別枠です。
大規模賃金引上げ枠の補助金額と補助率は、それぞれ次のとおりとなっています。
従業員規模 | 補助金額 | 補助率 |
101人以上 | 8,000万円超~1億円 | 中小企業:2/3(6,000万円超は1/2) 中堅企業:1/2(4,000万円超は1/3) |
この特別枠の対象者は、従業員数が101人以上の事業者のみとされており、101人未満の場合には申請することができません。
回復・再生応援枠
回復・再生応援枠とは、新型コロナウイルスの影響を受け、引き続き業況が厳しい事業者や事業再生に取り組む中小企業等の事業再構築を支援する特別枠です。
この枠の補助金額と補助率は従業員数によって異なっており、それぞれ次のとおりです。
従業員規模 | 補助金額 | 補助率 |
---|---|---|
5人以下 | 100万円~500万円 | 中小企業:3/4 中堅企業:2/3 |
6人~20人 | 100万円~1,000万円 | |
21人以上 | 100万円~1,500万円 |
最低賃金枠
最低賃金枠とは、最低賃金引上げの影響を受けてその原資の確保が困難な、特に業況の厳しい中小企業等の事業再構築を支援する特別枠です。最低賃金枠の補助金額と補助率は従業員数によって異なっており、それぞれ次のとおりです。
従業員規模 | 補助金額 | 補助率 |
---|---|---|
5人以下 | 100万円~500万円 | 中小企業:3/4 中堅企業:2/3 |
6人~20人 | 100万円~1,000万円 | |
21人以上 | 100万円~1,500万円 |
グリーン成長枠
グリーン成長枠とは、研究開発・技術開発または人材育成を行いながら、グリーン成長戦略「実行計画」14分野の課題の解決に資する取組みを行う中小企業等の事業再構築を支援する特別枠です。
グリーン成長の補助金額と補助率は、それぞれ次のとおりとされています。
分類 | 補助金額 | 補助率 |
中小企業者等 | 100万円~1億円 | 1/2 |
中堅企業等 | 100万円~1.5億円 | 1/3 |
緊急対策枠
原油価格・物価高騰等緊急対策枠は、原油価格や物価高騰などの予期せぬ経済環境の変化の影響を受けている中小企業等の事業再構築を支援する特別枠です。
この枠の補助金額と補助率は従業員数によって異なっており、それぞれ次のとおりです。
従業員規模 | 補助金額 | 補助率 |
---|---|---|
5人以下 | 100万円~500万円 | 中小企業:3/4(下記※1の部分は3分の2) 中堅企業:2/3(下記※1の部分は2分の1) |
6人~20人 | 100万円~1,000万円 | |
21人~50人 | 100万円~3,000万円 | |
51人以上 | 100万円~4,000万円 |
※1:従業員数 5人以下の場合は500 万円を超える部分、従業員数 6~20人の場合は1,000 万円を超える部分、従業員数 21人以上の場合は1,500 万円を超える部分
事業再構築補助金を建物費に活用する流れ
事業再構築補助金を建物費に活用するまでの流れは、次のとおりです。
依頼先の専門家に連絡を取る
事業再構築補助金の申請は、専門家とともに行うことをおすすめします。なぜなら、事業再構築補助金の申請書類はボリュームが多く、忙しい事業者様が公募要領を読み込んで理解するだけでも多大な時間と労力を要してしまうためです。
また、採択を勝ち取るためには事業計画の練り込みが不可欠であり、これを自社のみで行うことは容易ではありません。そのため、事業再構築補助金の申請をご検討の際には、はじめに専門家へコンタクトを取ることをおすすめします。
金融機関に融資の打診をする
次に、金融機関に融資の打診をしておくと良いでしょう。なぜなら、この流れで見ていくとおり、事業再構築補助金は事業実施(経費の支出)後の後払いであり、一時的に融資が必要となる可能性が高いためです。
また、申請額が高額となることも多く、申請要件として金融機関の関与が必要となるケースも少なくありません。そのため、申請前に金融機関へ相談しておくことをおすすめします。
事業再構築補助金の申請書類を作成する
次に、専門家とともに申請書類を作成します。書類の作成自体は専門家側で行ってくれるものの、専門家に事業内容を正しく伝えたり専門家のコンサルティングを受けながら事業計画を練り込んだりするにあたって、複数回の打ち合わせが必要となる場合が多いでしょう。
申請する
申請書類が作成できたら、公募期間内に申請をします。申請にはGビズIDプライムアカウントが必要となりますので、あらかじめIDの取得をしておくとスムーズです。
採択か不採択かが決定される
公募期間の満了後、採択か不採択かが決定されます。結果は事務局から通知されますので、通知を見落とさないよう注意しましょう。
補助対象事業(建物費の支出など)を行う
採択がされても、この段階ではまだ補助金は交付されません。先に、補助対象とした事業(建物費の支出など)を行うことが必要です。
しかし、たとえ一時的であっても、多額の経費を自己資金のみでまかなうことは容易ではないでしょう。そのため、金融機関から一時的な借り入れである「つなぎ融資」を受けることが一般的です。
補助金事務局へ報告する
事業を実施したら、補助金事務局へ実施報告を行います。実施報告の際には領収証など所定の書類の添付が求められますので、紛失などしないよう注意しましょう。
なお、この実施報告にも相当の手間がかかります。そのため、申請サポートを依頼した専門家に、実施報告まで支援してもらえるかあらかじめ確認しておくことをおすすめします。
補助金が交付される
実施報告に問題がなければ、ようやく補助金が交付されます。つなぎ融資を受けていた場合には、金融機関との取り決めに応じて、速やかに返済しておきましょう。
事業再構築補助金の野対象である「建物費」とは
事業再構築補助金では、「建物費」も補助対象です。この建物費には、次の経費などが該当します。
- もっぱら補助事業のために使用される事務所、生産施設、加工施設、販売施設、検査施設、共同作業場、倉庫その他事業計画の実施に不可欠と認められる建物の建設・改修に要する経費
- 補助事業実施のために必要となる建物の撤去に要する経費
- 補助事業実施のために必要となる賃貸物件等の原状回復に要する経費
- 貸工場・貸店舗等に一時的に移転する際に要する経費(貸工場・貸店舗等の賃借料、貸工場・貸店舗等への移転費等)
ただし、「2」や「3」の経費のみの事業計画では、支援対象となりません。事業再構築補助金の性質上、事業拡大につながる事業資産への相応規模の投資が必要です。
また、「4」の一時移転に係る経費は、補助対象経費総額の2分の1が上限となります。
事業再構築補助金を建物に活用する際の注意点
事業再構築補助金を建物に活用する場合には、次の点に注意しましょう。
建物の単なる購入や賃貸は対象外である
事業再構築補助金は、事業の再構築に必要となる経費を補助してくれる補助金です。企業の資産形成を支援しているわけではありません。
そのため、建物の単なる購入や賃貸は、補助対象外です。
建物の新築は必要性が認められた場合に限られる
事業再構築補助金では、建物の新築も補助対象です。ただし、「新築の必要性に関する説明書」を提出したうえで、次の2点を満たす場合に限り補助対象として認められます。
- 補助事業の実施に真に必要不可欠であること
- 代替手段が存在しないこと
このように、新築の場合には審査のハードルが上がることを知っておく必要があるでしょう。
入札・相見積もりが必須である
建物費を事業再構築補助金の補助対象とするためには、入札や相見積もりが必須となります。
採択後、相見積もりなどを取ることなく経費の支出をしてしまえば、結果的に補助金の交付が受けられない事態となってしまうので、よく注意しておきましょう。
担保設定の際には事前に事務局の承認が必要となる
事業再構築補助金を使って建物の建設などをした場合には、その建物への担保設定が制限されます。抵当権などの担保権を設定する場合は、設定前に補助金事務局の承認を受けなければなりません。
また、承認を受けられるのは補助事業遂行のための必要な資金調達をする場合に限られる上、仮に返済ができなくなり担保権が実行される際に国庫納付をすることを条件に認められます。
万が一無断で担保に入れた場合などには補助金の返還が求められる事態となりかねませんので、よく注意しておきましょう。
まとめ
事業再構築補助金は、建物費に活用できる珍しい補助金です。思い切った事業の再構築をする場合には、ぜひ事業再構築補助金の活用を検討すると良いでしょう。
しかし、事業再構築補助金の申請を忙しい事業者様が行うのは、容易なことではありません。また、補助金額が大きいことから各社が採択を目指してしのぎを削っており、検討の甘い事業計画書では採択が遠のいてしまうでしょう。
そのため、事業再構築補助金を申請する際には、専門家による申請サポートのご利用がおすすめです。
当社トライズコンサルティングは中小企業診断士の野竿が経営しており、事業再構築補助金の申請に力を入れております。これまでも、数多くの採択を勝ち取ってきました。
事業再構築補助金の申請をお考えの際には、ぜひ当社トライズコンサルティングまでお気軽にお問い合わせください。