倉庫の建築や改修には、多額の費用がかかります。これにもし補助金が活用できれば、非常に助かるという事業者の方も少なくないでしょう。
しかし、多くの補助金で、建物にかかる経費は補助対象外となっています。そのような中、コロナ禍で新たに誕生した事業再構築補助金は、倉庫など建物の建築や改修費も補助対象とされています。
今回は、倉庫の建築などに活用できる事業再構築補助金についてくわしく解説します。
事業再構築補助金とは
事業再構築補助金とは、新型コロナ禍で新たに誕生した非常に大型の補助金です。事業再構築補助金にはさまざまな申請枠が存在しますが、もっとも基本となる「通常枠」であっても、従業員規模によって最大2,000万円から8,000万円という高額な補助金額が設定されています。
事業再構築補助金は、コロナ禍で売上が大きく減少した企業が思い切った事業の再構築をするにあたって必要となる経費を補助対象としています。倉庫の新築や改修など建物費も対象となっている点で、非常に珍しい補助金であるといえるでしょう。
倉庫建設や改修に使える事業再構築補助金の申請枠と補助金額
倉庫の建設や改修に活用できる事業再構築補助金には、「通常枠」の他、5つの特別枠が設けられています。それぞれの概要と補助上限額は、次のとおりです。
なお、ここで紹介しているのは、2022年度版です。2023年度以降は申請枠などが変更されますので、2023年4月以降の申請をお考えの場合には、次のリンク先も併せてご参照ください。
通常枠
通常枠は、事業再構築補助金のもっとも基本となる申請枠です。
通常枠では、新分野展開や業態転換、事業・業種転換などの取り組み、事業再編またはこれらの取り組みを通じた規模の拡大などを目指す中小企業等の新たな挑戦を支援しています。多くの事業者が、この通常枠に申請することになるでしょう。
通常枠の補助金額と補助率は、それぞれ次のとおりです。
従業員規模 | 補助金額 | 補助率 |
---|---|---|
20人以下 | 100~2,000万円 | 中小企業 :2/3(6,000万円超は1/2) 中堅企業: 1/2(4,000万円超は1/3) |
21人~50人 | 100~4,000万円 | |
51人~100人 | 100~6,000万円 | |
101人以上 | 100~8,000万円 |
なお、特別枠で申請し、その枠で不採択となった場合には、原則として通常枠で再審査が可能とされています。
大規模賃金引上枠
大規模賃金引上枠とは、多くの従業員を雇用しながら継続的な賃金引上げに取り組むとともに、従業員を増やして生産性を向上させる中小企業等の事業再構築を支援する特別枠です。
大規模賃金引上げ枠の補助金額と補助率は、それぞれ次のとおりです。
従業員規模 | 補助金額 | 補助率 |
---|---|---|
101人以上 | 8,000万円超~1億円 | 中小企業:2/3(6,000万円超は1/2) 中堅企業:1/2(4,000万円超は1/3) |
回復・再生応援枠
回復・再生応援枠とは、新型コロナウイルスの影響を受け、引き続き業況が厳しい事業者や事業再生に取り組む中小企業等の事業再構築を支援する特別枠です。
この枠の補助金額と補助率は、それぞれ次のとおりです。
従業員規模 | 補助金額 | 補助率 |
---|---|---|
5人以下 | 100万円~500万円 | 中小企業:3/4 中堅企業:2/3 |
6人~20人 | 100万円~1,000万円 | |
21人以上 | 100万円~1,500万円 |
最低賃金枠
最低賃金枠とは、最低賃金引き上げの影響を受け、原資の確保が困難な特に業況の厳しい中
小企業等の事業再構築を支援する特別枠です。
最低賃金枠の補助金額と補助率は、それぞれ次のとおりです。
従業員規模 | 補助金額 | 補助率 |
5人以下 | 100万円~500万円 | 中小企業:3/4 中堅企業:2/3 |
6人~20人 | 100万円~1,000万円 | |
21人以上 | 100万円~1,500万円 |
グリーン成長枠
グリーン成長枠とは、研究開発、技術開発または人材育成を行いながら、グリーン成長戦略「実行計画」14分野の課題の解決に資する取組みを行う中小企業等の事業再構築を支援する特別枠です。
グリーン成長の補助金額と補助率は、それぞれ次のとおりです。
分類 | 補助金額 | 補助率 |
---|---|---|
中小企業者等 | 100万円~1億円 | 1/2 |
中堅企業等 | 100万円~1.5億円 | 1/3 |
緊急対策枠
緊急対策枠は、原油価格や物価高騰等の予期せぬ経済環境の変化の影響を受けている中小企業等の事業再構築を支援する特別枠です。
緊急対策枠の補助金額と補助率は、それぞれ次のとおりです。
従業員規模 | 補助金額 | |
---|---|---|
5人以下 | 100万円~500万円 | 中小企業:3/4(下記※1の部分は2/3) 中堅企業:2/3(下記※1の部分は1/2) |
6人~20人 | 100万円~1,000万円 | |
21人~50人 | 100万円~3,000万円 | |
51人以上 | 100万円~4,000万円 |
※1:従業員数 5人以下の場合は500 万円を超える部分、従業員数6人~20人の場合は1,000 万円を超える部分、従業員数 21人以上の場合は1,500 万円を超える部分
倉庫建設に事業再構築補助金を活用する流れ
事業再構築補助の交付までの流れは、どのようになるのでしょうか?基本となる流れは、次のとおりです。
特に、補助金の交付が受けられるタイミングについては誤解が少なくありませんので、いつ補助金が受け取れるかについてよく理解しておきましょう。
専門家にサポートを依頼する
事業再構築補助金は、自社で申請できないわけではありません。しかし、できれば専門家のサポートを受けることをおすすめします。
なぜなら、事業再構築補助金の申請にはボリュームの多い公募要領を読み込んだうえで申請書類を作り込む必要があり、これを忙しい事業者様が自ら行っては、本業に支障をきたしかねないためです。
また、事業再構築補助金は非常に大型の補助金であり、生半可な事業計画では採択を受けられる可能性は低いでしょう。そのため、専門家にコンサルティングを受けながら事業計画を練り込む過程が不可欠です。
こうしたことから、事業再構築補助金を申請する際には、まず専門家にコンタクトを取ることをおすすめします。
金融機関に融資相談をする
事業再構築補助金を申請するにあたっては、あらかじめ金融機関へ相談しておくことをおすすめします。なぜなら、流れの中で解説をするとおり、事業再構築補助金は後払いであるためです。
実際に倉庫の建築や改修にかかる経費を支出する段階では、まだ補助金は手元にありません。そのため、あらかじめ金融機関へ相談し、一時的な融資(「つなぎ融資」といいます)の打診をしておくと良いでしょう。
事業再構築補助金の申請書類を作成する
次に、事業再構築補助金の申請書類を作成します。自分で申請をする際には、公募要領を隅々まで読み込んだうえで、作成してください。
一方、専門家へ依頼した場合には、専門家側で申請書類を作成してくれることが多いでしょう。
ただし、いわゆる「丸投げ」で完成する性質のものではなく、専門家との複数回にわたる打ち合わせは必要となります。なぜなら、専門家のコンサルティングを受けながら事業計画を練り込んだり、自社で検討している未来を専門家と共有したりする過程が不可欠であるためです。
ここで受けたコンサルティングは補助金の申請に必要であるのみならず、今後の事業実施においてもプラスとなることでしょう。
申請する
申請書類の準備ができたら、申請をします。事業再構築補助金の申請は、オンラインでのみ可能です。
申請にはGビズIDプライムアカウントが必要となりますので、あらかじめアカウントを作成しておくとよいでしょう。
採択か不採択かが決定される
公募期間の満了後、採択か不採択かが決定されます。採択結果は事務局から通知されるため、通知を見落とさないよう注意しておきましょう。
補助対象事業を実施する
補助金が採択されても、すぐに補助金が受け取れるわけではありません。先に、補助対象事業(補助対象とした経費の支出)をする必要があります。
補助金が交付される前までの間、一時的につなぎ融資を受けるなどして資金調達をすることが多いでしょう。
補助金事務局へ実施報告する
補助対象とした経費の支出などを行ったら、補助金事務局へ実施報告を行います。実施報告には領収証など所定の書類の添付が必要となりますので、あらかじめ必要書類を確認し、紛失などしないように注意しておきましょう。
補助金が交付される
実施報告に問題がないと判断されれば、ようやく補助金が交付されます。つなぎ融資を受けていた場合には、金融機関との取り決めにしたがって、すみやかに返済しておきましょう。
倉庫に活用できる事業再構築補助金の申請必須要件
事業再構築補助金を申請するためには、一定の要件を満たさなければなりません。通常枠の申請必須要件は、次のとおりです。
なお、特別枠では枠によって要件が追加されるほか、一部の要件が免除されます。
売上が減少したこと
事業再構築補助金を申請するには、一定期間に売上が大きく減少したことが必要です。具体的な基準は、次のとおりです。
- 2020年4月以降の連続する6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月間の合計売上高が、コロナ以前(2019年または、2020年1月から3月)の同3ヶ月の合計売上高と比較して10%以上減少していること
また、上記を満たさない場合には、次の項目を満たすことでも申請できます。
- 2020年4月以降の連続する6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月の合計付加価値額が、コロナ以前の同3ヶ月の合計付加価値額と比較して15%以上減少していること
事業の再構築をすること
事業再構築補助金を申請するには、事業の再構築をする必要があります。事業の再構築には、次のものが該当します。
- 新分野展開:産業分類上の「主たる業種」も「主たる事業」も変更することなく、新たな製品を製造しまたは新たな商品もしくはサービスを提供することにより、新たな市場に進出すること
- 事業転換:新たな製品を製造しまたは新たな商品もしくはサービスを提供することにより、「主たる業種」を変更することなく「主たる事業」を変更すること
- 業種転換:新たな製品を製造しまたは新たな商品もしくはサービスを提供することにより、「主たる業種」を変更すること
- 業態転換:製品または商品もしくはサービスの製造方法や提供方法を相当程度変更すること
- 事業再編:合併や事業譲渡など会社法上の組織再編行為等を補助事業開始後に行い、新たな事業形態のもとに、新分野展開、事業転換、業種転換又は業態転換のいずれかを行うこと
そのため、単なる倉庫の移転や手狭になったことからの増築などは補助対象外です。
認定経営革新等支援機関と事業計画を策定すること
事業再構築補助金を申請するには、認定経営革新等支援機関とともに事業計画を策定することが必要です。
認定経営革新等支援機関とは、中小企業支援に関する専門的知識や実務経験が一定レベル以上にある者として、国の認定を受けた支援機関を指します。中小企業診断士や税理士などが登録していることが多いです。
ただし、補助金額が3,000万円を超える申請をする際には、銀行や信金などの金融機関も参加して事業計画を策定することが必要です。そもそも金融機関が認定経営革新等支援機関である場合には、その金融機関のみの関与で構いません。
策定する事業計画は、補助事業終了後3年から5年で、次のいずれかの達成を見込むものであることが求められます。
- 付加価値額の年率平均3.0%以上増加
- 従業員一人当たり付加価値額の年率平均3.0%以上増加
倉庫に使える事業再構築補助金全般の注意点
事業再構築補助金を活用する際には、次の点に注意しましょう。
補助金は後払いである
先ほども解説したように、事業再構築補助金は補助対象事業実施後の後払いです。
採択がされたからといって、すぐにお金が受け取れるわけではありません。
そのため、事業再構築補助金を申請する際には、事業の実施(倉庫の新築などにかかる経費の支出など)に必要な資金の調達方法を検討しておくことが必要となります。たとえば、金融機関から一時的な融資を受けることなどです。
事業実施に必要な資金が確保できなければ、事業が実施できず、せっかく採択された補助金が絵に描いた餅となってしまう可能性があるでしょう。
要件を満たして申請しても採択されるとは限らない
事業再構築補助金は、要件を満たして申請をしたからといって、必ず受け取れるものではありません。申請後、多くの申請の中から採択されることが必要です。
そのため、補助金ありきで資金計画を立ててしまうのではなく、仮に補助金が不採択となっても融資で事業を実施する見通しを立てるなど、他の方法での資金調達も併せて検討しておく必要があるでしょう。
毎年公募の要件が微修正される
事業再構築補助金に限らず、補助金はその年の政策に応じて公募がされるものです。そのため、たとえ同じ名称の補助金であったとしても、毎年同じ内容であるとは限りません。
事業再構築補助金でも、申請枠や申請要件、補助金額などが、毎年度微修正されています。
このことを踏まえ、事業再構築補助金などの情報収集をする際には、いつ時点の情報であるのかを意識しながら確認する必要があるでしょう。なお、この記事は2022年12月に執筆しており、2022年度中の申請を前提としています。
採択後も実施報告に手間がかかる
先ほども解説したように、事業再構築補助金を受け取るには、補助金事務局に対して実施報告をしなければなりません。この実施報告も非常に細かく、それなりに手間がかかります。
また、領収証など一定の証拠書類も必要となりますので、紛失してしまったり、そもそも書類の交付を受けることを失念してしまったりすれば、その経費を補助対象にできない可能性もあるでしょう。
そのため、採択がされたらまずは実施報告(交付申請)の規定を改めて熟読し、報告に備えておくことが必要です。また、申請のサポートを依頼した専門家に、実施報告についてもサポートを受けられるかどうかあらかじめ確認しておくことをおすすめします。
倉庫建設などに事業再構築補助金を活用する際の注意点
倉庫建設などに事業再構築補助金を活用する際には、次の点に注意しましょう。
倉庫の単なる購入や賃貸は補助対象にならない
事業再構築補助金は、企業の資産形成などを目的とするものではありません。
そのため、あくまでも「もっぱら補助事業のために使用される事務所、生産施設、加工施設、販売施設、検査施設、共同作業場、倉庫その他事業計画の実施に不可欠と認められる建物の建設・改修に要する経費」などが補助対象であり、単なる倉庫の購入や賃貸は補助対象とはなりません。
倉庫新築は必要性が認められた場合に限られる
事業再構築補助金では、倉庫の新築も補助対象です。
ただし、新築については「新築の必要性に関する説明書」を提出し、補助事業の実施に真に必要不可欠であることと、代替手段が存在しないことが認められた場合に限って補助対象となります。
倉庫の新築を補助対象とするためには、より厳しい審査がなされることを知っておきましょう。
入札や相見積もりが必須となる
倉庫の建築や改修にかかる経費を補助対象とする場合には、入札や相見積もりが必須となります。
せっかく採択がなされても、実際に倉庫の新築などをするにあたって相見積もりを取るなどの過程を省いてしまえば、補助金を受け取ることはできません。
担保設定の際には事務局の承認が必須
事業再構築補助金を活用して新築などをした倉庫は、自由に担保提供をしたりすることができません。抵当権の設定など担保提供をしたい場合には、あらかじめ補助金事務局の承認を得ることが必要です。
また、承認を得るためには、次の要件をいずれも満たさなければなりません。
- 補助事業遂行に必要な資金調達をするためであること
- 担保権実行時に国庫納付をすることを条件とすること
- 根抵当権(一定枠内で繰り返し借り入れや弁済ができるタイプの抵当権)ではないこと
このように、補助金を活用した資産については一定の制限がなされることを理解しておきましょう。
まとめ
事業再構築補助金は、倉庫の新築や改修に活用することが可能です。ただし、あくまでも事業再構築の一環であることが必要であり、単なる増改築や移転などは対象となりません。
自社で行おうとしている内容が事業再構築補助金の要件を満たすかどうか判断に迷う場合には、ぜひ当社トライズコンサルティングまでご相談ください。
当社トライズコンサルティングは中小企業診断士の代表・野竿が経営しており、事業再構築補助金の採択をこれまでも数多く勝ち取ってまいりました。事業再構築補助金の申請は、ぜひお気軽にトライズコンサルティングへご相談ください。