助成金は、一定の要件を満たして申請することで、国などから対象となる経費の一部が支給される制度です。厚生労働省が管轄するものが多く、人材育成や雇用に関するものが多いでしょう。
では、人材開発支援助成金の「リスキリング支援コース」とは、どのような助成制度なのでしょうか?また、どのような経費が助成対象となるのでしょうか?今回は、人材開発支援助成金の「リスキリング支援コース」について解説します。
人材開発支援助成金とは
人事開発支援助成金とは、事業主などが雇用する労働者に対して、その職務に関連した専門的な知識や技能を習得させるための職業訓練などを計画に沿って実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部などを助成する制度です。
人材開発助成金の助成メニューには、次の4つが設けられています。
- 人材育成支援コース:10時間以上のOFF-JTや新卒者等のために実施するOJTとOFF-JTを組み合わせた訓練、有期契約労働者等の正社員転換を目的として実施するOJTとOFF-JTを組み合わせた訓練が助成対象となるコース
- 教育訓練休暇等付与コース:有給教育訓練休暇制度(3年間で5日以上)を導入し、労働者がその休暇を取得して訓練を受けた場合に助成するコース
- 人への投資促進コース:高度デジタル人材の育成のための訓練や大学院での訓練、IT分野未経験者の即戦力化のための訓練、サブスクリプション型の研修サービスによる訓練などが助成対象となるコース
- 事業展開等リスキリング支援コース:事業展開やDX・GXに伴い新たな分野で必要となる知識や技能を習得させるための訓練が助成対象となるコース
なお、OFF-JTとは企業の事業活動と区別して行われる訓練を指します。
参照元:人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内(詳細版)(厚生労働省)
人材開発支援助成金の「事業展開等リスキリング支援コース」の概要
ここからは、人材開発支援助成金のうち「事業展開等リスキリング支援コース」に焦点を当てて解説を進めます。ここでは、このコースの対象となる取り組みや支給対象訓練、助成額などを解説します。
事業展開等リスキリング支援コースの対象となる取り組み
事業展開等リスキリング支援コースの対象となる取り組みは、職務に関連した訓練のうち、次のいずれかに該当する訓練です。
- 企業が事業展開を行うにあたって、新たな分野で必要となる専門的な知識や技能の習得をさせるための訓練
- 事業展開は行わないが、事業主において企業内のデジタル・DX化やグリーン・カーボンニュートラル化を進めるにあたって、これに関連する業務に従事させる上で必要となる専門的な知識や技能の習得をさせるための訓練
このうち、「事業展開」と「デジタル・DX化」、「グリーン・カーボンニュートラル化」の概要と例は、それぞれ次のとおりです。
「事業展開」とは
ここでの「事業展開」とは、次の取り組みを指します。
- 新たな製品を製造したり新たな商品・サービスを提供したりすることで、新たな分野に進出すること
- 事業や業種を転換すること
- 既存事業の中で製品の製造方法、商品やサービスの提供方法を変更すること
たとえば、次の取り組みなどがこれに該当します。
- 日本料理店が、フランス料理店を新たに開業する
- 繊維業を営む企業が、医療分野の事業を新たに開始する
- 料理教室を経営する企業が、オンラインサービスを新たに開始する
「デジタル・DX化」とは
ここでの「デジタル・DX化」とは、次の取り組みなどを指します。
- デジタル技術を活用して業務の効率化を図ること
- 顧客や社会のニーズをもとに製品やサービス、ビジネスモデルを変革し、競争上の優位性を確立すること
たとえば、次の取り組みなどがこれに該当します。
- ITツールの活用や電子契約システムを導入し、社内のペーパーレス化を進める
- アプリケーションを開発し、待ち時間が顧客から見えるようにする
- 顔認証やQRコードによるチェックインサービスを導入し、手続きを簡略化する
「グリーン・カーボンニュートラル化」とは
ここでの「グリーン・カーボンニュートラル化」とは、徹底した省エネや再生可能エネルギーの活用などにより温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする取り組みを指します。
たとえば、次の取り組みなどがこれに該当します。
- 農薬の散布にトラクターを使用していたが、新たにドローンを導入する
- 風力発電機や太陽光パネルを導入する
参照元:人材開発支援助成金に事業展開等リスキリング支援コースを創設しました(厚生労働省)
事業展開等リスキリング支援コースの支給対象訓練
事業展開等リスキリング支援コースの支給対象となる訓練は、次の3つの要件を満たす訓練です。
- 助成対象とならない時間を除いた訓練時間数が、10時間以上であること
- OFF-JTであること
- 先ほど解説した一定の訓練に該当すること
事業展開等リスキリング支援コースの助成率・助成額
事業展開等リスキリング支援コースの助成率と助成限度額は、それぞれ次のとおりです。
中小企業 | 大企業 | ||
経費助成率 | 75% | 60% | |
1人1時間あたりの賃金助成額 | 960円 | 480円 | |
受講者1人あたりの経費助成限度額 | 10時間以上100時間未満 | 30万円 | 20万円 |
100時間以上200時間未満 | 40万円 | 25万円 | |
200時間以上 | 50万円 | 30万円 | |
1事業所1年度あたりの助成限度額 | 1億円 |
なお、訓練を実施した後の申請では、助成を受けることはできません。助成金を活用して人材育成を行おうとする場合には、訓練開始日の1ヶ月前までに、事業所所在地を管轄する都道府県労働局に計画届を提出する必要があります。
事業展開等リスキリング支援コースの支援対象とならないケース
人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コースの支援対象とならないのは、どのようなケースなのでしょうか?ここでは、助成対象外となる主なケースをまとめて解説します。
- 不正受給などの場合
- 受給資格を満たさない場合
- 支給要件の審査や検査に協力しない場合
不正受給などの場合
不正受給などの場合には、人材開発支援助成金を受け取ることはできません。たとえば、次の場合などがこれに該当します。
- 不正受給を行ってから5年以内(不支給措置期間)に支給申請をした事業主や、支給申請日から支給決定日までに不正受給をした事業主等
- 「助成金の不正受給が発覚した場合に行われる事業主名等の公表及び支給を受けた助成金の返還等」について、承諾しない事業主等
- 「申請事業主の不正受給に関与した場合に、名称等の公表及び申請事業主が返還すべき債務の連帯等があること」を承諾していない訓練実施者が行う訓練について支給申請する場合
- 過去に申請事業主の不正受給に関与し、不支給措置期間が適用されている訓練実施者が実施した訓練について支給申請する場合
ただし、「4」は計画提出日以前においてその訓練実施者による不正受給への関与が発覚していた場合に限ります。計画提出日までに訓練実施者の不正受給への関与が発覚していない場合、助成金を申請する事業主が、予期せず受給対象から外れることとなりかねないためです。
受給資格を満たさない場合
受給資格を満たさない場合には、人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コースによる助成を受けることができません。次の場合などが、これに該当します。
- 支給申請をした年度の前年度より前のいずれかの保険年度の労働保険料を納入していない事業主等(支給申請の翌日から2か月以内に納入した場合は、受給対象となる)
- 支給申請日の前日の過去1年間に、労働関係法令に違反した事業主等
- 性風俗関連営業・接待を伴う飲食等営業・これら営業の一部を受託する営業を行う事業主等
- 暴力団関係事業所の事業主等
- 事業主等またはその役員等が、一定の暴力主義的破壊活動を行ったまたは行うおそれがある団体などに属している場合
- 支給申請日または支給決定日の時点で倒産している事業主等
- 訓練開始日・支給申請日・支給決定日の時点において雇用保険適用事業所でない(雇用保険被保険者が存在しない)事業所
支給要件の審査や検査に協力しない場合
支給要件の審査や検査に協力しない場合には、人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コースによる助成対象とはなりません。次の場合などが、これに該当します。
- 提出した書類に関して、事実と異なる記載や証明を行った事業主(軽微な誤りとして労働局長が認めた場合を除く)
- 提出した書類に関して補正の求めに応じない事業主等
- 支給・不支給の審査に必要な書類等を管轄労働局長の求めに応じて提出(提示)しない・管轄労働局の実地調査に協力しないなど、審査に協力しない事業主等
- 支給・不支給の審査に必要な書類等を整備、保管していない事業主等
なお、助成金の申請関係書類は、支給決定後も5年間の保存義務があります。
参照元:人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内(詳細版)(厚生労働省)
人材開発支援助成金の「事業展開等リスキリング支援コース」の主な要件
人材開発支援助成金の「事業展開等リスキリング支援コース」の対象となるには、どのような要件を満たす必要があるのでしょうか?ここでは、事業主の要件と労働者の要件、OFF-JTの主な要件をそれぞれまとめて解説します。
事業主の要件
人材開発支援助成金の「事業展開等リスキリング支援コース」の対象となるためには、事業主が次の要件をすべて満たさなければなりません。
- 雇用保険適用事業所の事業主であること
- 労働組合などの意見を聴いて事業内職業能力開発計画とこれに基づく職業訓練実施計画届を作成し、その計画の内容を労働者に周知していること
- 職業能力開発推進者を選任していること
- 従業員に職業訓練等を受けさせる期間中も、その従業員に対して賃金を適正に支払っていること
- 助成金の支給・不支給の決定に係る審査に必要な書類などを整備し、5年間保存している事業主であること
- 助成金の支給・不支給の決定に係る審査に必要な書類などを管轄労働局長の求めに応じ提出または提示する・管轄労働局長の実地調査に協力するなど、審査に協力する事業主であること
- 事業展開等実施計画を作成する事業主であること
また、OFF-JTをテレワークなどオンラインで実施する場合には、次の要件を満たすことも必要です。
- 在宅またはサテライトオフィスなどにおいて就業するテレワーク勤務を制度として導入し、その制度を労働協約または就業規則等で定めていること
なお、要件「2」の「事業内職業能力開発計画」とは、自社の人材育成の基本的な方針などを記載する計画です。作成した計画は従業員に周知したうえで、職務に必要な能力や自社の育成方針について共有することが望ましいとされています。
また、要件「4」の「賃金を適切に支払っている」に該当するためには、職業訓練等の実施期間中において、所定労働時間外や休日に職業訓練等を行った場合は、時間外手当や休日手当などの割増賃金を含む賃金を適正に支払うことまでが求められます。
最低賃金法の規定による「最低賃金の減額の特例」を適用する場合は、この要件を満たしません。
労働者の要件
人材開発支援助成金の「事業展開等リスキリング支援コース」で助成対象となる労働者は、次の要件をすべて満たす労働者です。
- 助成金を受けようとする事業主の事業所における保険者であること
- 訓練実施期間中において、被保険者であること
- 職業訓練実施計画届時に提出した「訓練別の対象者一覧」に記載のある被保険者であること
- 定額制サービスによる訓練の場合は、「定額制サービスによる訓練に関する対象者一覧」に記載のある被保険者であること
- 原則として、訓練を受講した時間数が、実訓練時間数の8割以上であること
eラーニングによる訓練等及び通信制による訓練等の場合には、訓練等の受講を修了していることも必要です。また、定額制サービスによる訓練の場合には、定額制サービスに含まれる教育訓練を修了した者であり、その修了した訓練の合計時間数が1時間以上でなければなりません。
OFF-JTの要件
人材開発支援助成金の「事業展開等リスキリング支援コース」の対象となるOFF-JTには、「事業内訓練」と「事業外訓練」が存在します。ただし、いずれも労働者の職務に関連した訓練でなければなりません。
助成対象となる事業内訓練は、次のいずれかに該当するものです。
- 自社で企画・主催・運営する訓練計画により、社外より招聘する一定の要件を満たす「部外講師」により行われる訓練等
- 自社で企画・主催・運営する訓練計画により、一定の要件を満たす「部内講師」により行われる訓練等
- 3事業主が自ら運営する認定職業訓練
また、助成対象となる事業外訓練は、大学や各種学校、他の事業主が設置する施設など、社外の教育訓練機関に受講料を支払って受講させる訓練等です。
一方で、次のOFF-JTは助成対象となりません。
- 職務に直接関連しない訓練
- 接遇・マナー講習など、職業・職務の種類を問わず職業人として共通して必要となるもの
- 趣味教養を身につけることを目的とするもの
- コンサルタントによる経営改善の指導など、通常の事業活動として遂行されるものを目的とするもの
- 実施目的が労働者の職業能力開発に直接関連しない内容のもの
- 法令等で講習等の実施が義務付けられており、その講習を受講しなければ事業を実施できないもの
- 講習を受講しなくても単独で受験して資格を得られる資格試験、適性検査
- 業務上の義務として実施されるものではなく、労働者が自発的に行うもの
- 教材、補助教材等を訓練受講者に提供することのみで、設問回答、添削指導、質疑応答等が行われない通信制講習
- 海外、洋上で実施するもの
- 営業同行トレーニングなど、通常の生産活動と区別できないもの
- 訓練指導員免許を有する者やその教育訓練の科目・職種等の内容について専門的な知識・技能を持つ講師によって行われないもの
訓練を実施してしまってから対象外であることが発覚すれば、資金計画に狂いが生じてしまいかねません。そのため、予定しているOFF-JTが助成対象となるか、あらかじめ十分に確認しておくことをおすすめします。
参照元:人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内(詳細版)(厚生労働省)
助成対象となる経費
人材開発支援助成金の「事業展開等リスキリング支援コース」では訓練期間中の所定労働時間内の賃金(eラーニングによる訓練や通信制による訓練などを除く)が助成対象となるほか、一定の経費についても助成対象となります。
助成対象となる主な経費を、「事業内訓練」の場合と「事業外訓練」の場合とに分けて紹介します。
事業内訓練
事業内訓練の場合に助成対象となる主な経費は、次のとおりです。
- 部外講師への謝金・手当
- 部外講師の旅費
- 施設・設備の借上費
- 必要な教科書・教材の購入費
- 訓練コースの開発費
部外講師への謝金・手当
外部講師への謝金や手当は、助成対象です。ただし、実訓練時間1時間あたり税込3万円が上限とされます。また、社内の支出規定がある場合に限り、1日あたり上限3千円まで謝金以外の日当を計上できます。
部外講師の旅費
部外講師の旅費は、助成対象です。ただし、訓練あたり、国内招聘の場合は5万円、海外からの招聘の場合は15万円が上限となります。また、宿泊費の上限額は1日あたり1万5千円です。
施設・設備の借上費
訓練を実施するために必要な施設や設備の借上費も、助成対象となります。ただし、教室や実習室、ホテルの研修室等の会場使用料、マイク、OHP、ビデオ、スクリーンなど訓練で使用する備品の借料のうち、助成対象コースのみに使用したことが確認できるものの限られます。
必要な教科書・教材の購入費
学科や実技の訓練等を行う場合に必要な教科書や教材の購入費も、助成対象となります。
ただし、教科書については、頒布を目的としていて発行される出版物に限られます。
訓練コースの開発費
大学や高等専門学校、専修学校などに職業訓練の訓練コースなどを委託して開発した場合において、開発に要した費用やそのコースなどの受講に要した費用は助成対象となります。
事業外訓練
事業内訓練の場合、受講に際して必要となる入学料や受講料、教科書代など、あらかじめ受講案内等で定めている費用が助成対象となります。ただし、国や都道府県から補助金を受けている施設が行う訓練の受講料や、受講生の旅費などは対象となりません。
「事業展開等リスキリング支援コース」の対象となる人材開発はトライズコンサルティングへお任せください
当社トライズコンサルティングでは、DX人材の開発や育成研修などを行っています。
企業がDXの推進に取り組もうにも、適切な人材がおらず二の足を踏むケースは少なくないでしょう。しかし、多くの企業がDXを導入しコスト削減や納期短縮などに取り組むなか、自社だけがDXに取り組まなければ、競争上不利となるおそれも否定できません。
そのため、長期的な視点で見れば、企業のDXは避けられないでしょう。
トライズコンサルティングによるDX人材の育成研修は、他の要件を満たした場合、人材開発支援助成金のリスキリング支援コースの助成対象とすることも可能です。DX人材の開発でお困りの際は、トライズコンサルティングまでご相談ください。
当社では、人材開発助成金の申請に関するコンサルティングまで、一貫した対応が可能です。
まとめ
人材開発支援助成金の「リスキリング支援コース」について解説しました。
従業員のスキル向上や職務に関する新たな技能習得の必要性は感じていても、コスト面から対応できていないこともあるようです。しかし、人材開発支援助成金をうまく活用することで、一定の賃金や訓練等にかかる経費を国に負担してもらいつつ、従業員研修を実施することが可能となります。
当社トライズコンサルティングではDX人材の開発・育成研修を行っているほか、人材開発助成金の申請に関するサポートも行っています。人材開発支援助成金の「リスキリング支援コース」を活用してDXに対応できる人材の育成をご検討の際などには、当社トライズコンサルティングまでお気軽にご相談ください。