新規事業の立ち上げには、マーケティングが必要不可欠です。しかし、マーケティングがなぜ必要なのか、具体的に何をすれば良いのか答えることのできる事業者は多くありません。
今回は、新規事業を開始するにあたり、マーケティングが必要な理由と行う際のポイント、具体的な手法について説明します。
マーケティングを行う必要がある理由
新規事業が成功するかどうかは、マーケティングにかかっているといっても過言ではありません。大企業でも専門の部門が設けられ、多くの予算と時間が割かれています。
また、資金も人材も乏しい中小事業者が新事業に取り組む場合は、なんとなくの希望的観測で取り組むのは大変危険な行為です。精緻な調査や分析を行って臨まなくては、貴重な経営資源を無駄に費やしてしまい、既存事業にも悪い影響を及ぼしてしまう可能性もあるからです。
新規事業のマーケティングにおいて押さえておかなければならない項目は次のとおりです。
ニーズの存在確認
ニーズは非常に重要なファクターであり、これなくして何も始まりません。
市場で価値を持つのは消費者のニーズを満たすものだけであり、このような買い手目線の商品・サービス開発の考え方は「マーケットイン」と呼ばれています。ニーズの検証を行い、自社が今後取り込むべき需要を見極め、具体的なペルソナ設定にまでに落とし込むことで、狙うべきターゲット層や市場、提供する商品やサービスの内容、オペレーションや販売促進など消費者へのアプローチ方法まで決定されます。
まさに、マーケティングのスタートラインとなる要素であるといえます。
市場規模の測定
仮にニーズがあったとしても、市場のボリュームが収益化に至る規模でないと新規事業として成立しません。
中小事業者の狙うマーケットは大企業が狙うようなマス市場でなく、ターゲットを絞り込んだニッチ市場とすることをセオリーとされています。ただし、あまりにニッチ過ぎる市場は競合が存在しない代わりに、ターゲットも少ないということもあり得ます。
競合他社
いざ新しい商品やサービスを市場に投入しても、既に他社がマーケットシェアのほとんどを獲得していたり、商品力や流通で自社より優位な立ち位置にあったりする場合は、撤退を余儀なくされる可能性もあります。
また、市場への参入障壁が低く新規参入が容易い場合には、模倣商品や代替サービスによってシェアを奪われてしまうこともあります。そのため、既存の競合以外にも注意の目を向けておく必要があります。
新規事業におけるマーケティングのポイント
新規事業のマーケティングを行う際には、押さえておかなければならないポイントがあります。ビジネスのスピード感が増している昨今、マーケティングばかりに時間を費やしてチャンスを逃してしまうのは本末転倒ですが、会社にとって致命的な失敗とならないよう最低限のリサーチは必須です。
自社の分析
新規事業のマーケティングでは、ニーズやターゲットが重要になってきますが、それと同じくらい自社の分析も大切です。素晴らしい新規事業の戦略も、自社の製造体制や技術が不足していたり、消費者にリーチするチャネルを保有したりしていなければ、絵に描いた餅です。
また、自社の強みや「コア・コンピタンス」を起因とした新規事業でなければ、たちまち他社に模倣されてしまうでしょう。そうならないためにも自社の分析を入念に行い、持続可能な新規事業の立案を目指しましょう。
ターゲットの明確化
ターゲットを「ペルソナ」にまで落とし込んで設定します。「ペルソナ」とは、ターゲットから更に詳細な個人にまで人物像を設定することで、ニーズをより詳しい把握やターゲットにリーチするアプローチができるといったメリットがあります。
たとえば、同じ「30台男性」だとしても、家族構成や年収、持ち家に住んでいるのか賃貸アパートに住んでいるのかといった要素の違いで、要求するサービスや支払える価格、情報に接触する場所などは異なります。
また、イメージする人物像によっては、検討しなくて良いことも明確になるため、必然的に業務も効率化されます。限られた予算や人員、時間の中で効果的なマーケティングを行うためにも、ターゲットの絞り込みには時間をかけましょう。
「仮説思考」による潜在ニーズ掘り起こし
新事業の商品開発には、ターゲットに対して自社が提供可能なサービスや解決策の仮説を立てることも重要です。消費者のニーズには、誰の目にも明らかになっている「顕在ニーズ」と消費者自身も言語化できていない「潜在ニーズ」があります。
有名な話に、「レビットのドリルの穴理論」があります。ホームセンターにドリルを買いに来た消費者が本当に欲しいのはドリルでなく、「穴」であるというものです。
ともすれば、ドリルではなくすでに穴の空いている材料の販売や材料を加工する代行サービスなどの新規事業が発想されます。表面的なニーズだけでは見えてこない、消費者の「本当のニーズ」を掴むためには、「もしかするとお客さんの求めているものは○○かもしれない」という仮説志向が大切です。
また、それらを立証するためにはリサーチが必要ですが、ついつい身近な人に聞いてしまいがちになるため要注意です。社内や知人など近しい同質性の高いコミュニティでは、リサーチの結果にバイアスがかかり、失敗してからターゲットと異なる人間にリサーチしていたと気づく場面も少なくありません。
消費者の課題解決となっているのか
ニーズをもとに開発した商品・サービスが、消費者の求める課題解決になっているのかを測定する必要もあります。需要に対して機能が足りていないことはもちろん、過剰過ぎることも失敗の要因と成り得ます。
株式会社ZOZOのPB(プライベートブランド)商品進出失敗の事例がまさにそれです。
通販で服を購入する際の最大のネックである「サイズがわからない」という消費者の悩みを解決するため、着用することで身体を採寸できる「ZOZOSUIT」を配布し、一人ひとりにジャストフィットした服を届けるというサービスで、PB商品の増収を見込んでいました。
しかし、採寸作業があまりに煩雑であることから、多くの消費者には利用されず、一過性のものとなってしまいました。
株式会社ZOZOで販売する商品は、Tシャツやデニムなど日常的な服であるため、気軽に購入したいと考えている消費者からはズレが生じてしまったと考えられます。また、PB商品についても想定した程度には求められておらず、マーケティング不足であったといえるでしょう。
競合優位性の構築
ニーズがあると考え新規事業を展開しようとする領域は、もちろん他社も狙っています。もしくは、既に他社が存在し、自社は後発となる場合も想定されます。
もし、狙っているターゲットや解決しようとする消費者の課題が似通っていた場合、他社に対して何かしらの差別化を行い、競争優位性を構築しなければ、お互いにシェアを奪い合い、不毛な安売り合戦へと移行する恐れがあります。
そうならないためにも、前述した自社の分析をしっかりと行い、強みや「コア・コンピタンス」を明確にしておくとともに、マーケット内の競合を分析し、他社にはない価値を消費者に提供する必要があります。
新規事業におけるリサーチ手法
では、実際に新規事業のマーケティングを行う際の具体的なリサーチ手法について解説します。
新規事業の企画、提供する商品・サービスを検討、消費者の課題解決の仮説立証などフェーズに応じて、必要なリサーチとその手法は異なります。新規事業がどの段階なのかを意識してリサーチを進めていきましょう。
また、かけられる資金や人手にも制限があるため、自社にとって適切な手法を選択するということも重要です。
フレームワークによる分析
新規事業を継続して実施していくには、事前の外部環境、とりわけ「マクロ環境」の分析が欠かせません。「マクロ環境」とは、自社でコントロール不可な外部環境のことで、まだ基盤が確立されていない新規事業は影響を受けやすく、ちょっとした「マクロ環境」の変化で事業が頓挫してしまう可能性があります。
PEST分析
「マクロ環境」を分析するフレームワークとしては、現代マーケティングの第一人者として有名なフィリップ・コトラー氏が提唱した「PEST分析」という手法が代表的です。
「政治(Politics)」「経済(Economy)」「社会(Society)」「技術(Technology)」という4つの視点から分析を行う手法であり、それぞれの頭文字をとって「PEST分析」という名前が付けられました。具体的には、それぞれ次のような項目に注目します。
- 政治(Politics):法律の改正、税制の変更、政権交代など
- 経済(Economy):経済成長、物価・為替・株価変動など
- 社会(Society):流行、人口動態・年齢構成、宗教・言語など
- 技術(Technology):インフラ、特許、イノベーションなど
「PEST分析」を行うことで、自社の新規事業に大きな影響を与える外部要因をマクロな視点で把握することができ、市場に参入した際のチャンスやリスクに備えることができます。
たとえば、自動車業界を例にした分析では次のようになります。
- 政治(Politics):電気自動車関連事業への後押し
- 経済(Economy):カーシェアなど新たなサービスの普及
- 社会(Society):環境に配慮した自動車の購入や移動手段の選択
- 技術(Technology):AIによる自動運転の実現
現段階で見える要因だけでなく、今後どうなっていきそうかという視点で読み取っていくことが重要です。
3C分析
もう一つ、マーケティングの戦略策定に外すことのできないフレームワークとして「3C分析」があります。3Cとは、「市場・顧客(Customer)」「競合(Conpetitor)」「自社(Company)」の3つの頭文字から取ったもので、この3つを分析することにより、市場や顧客にとって価値のある商品やサービスを提供するものです。
3C分析は、外部環境の「ミクロ環境」を分析するために用いる分析手法です。「ミクロ環境」とは、前述した「マクロ環境」とは反対に、ある程度は自社でコントロールが可能な外部環境のことです。「3C分析」で分析する要素は、次のとおりです。
- 市場・顧客(Customer):市場規模、消費動向、ニーズ・トレンドなど
- 競合(Conpetitor):競合のシェア・強み、差別化要因、新規参入・代替品など
- 自社(Company):自社の商品・サービス、ビジネスモデルなど
3つの要素から自社が進むべき方向性を決定し、自社のマーケティング戦略とします。最も重要となる点は、分析を行う順番です。
まず、「市場・顧客(Customer)」を分析し、市場の動向等を把握します。市場を把握しなくては、「競合(Conpetitor)」が定まらず、その後に続く、「自社(Company)」の戦略策定を立案できません。
「市場・顧客(Customer)」「競合(Conpetitor)」と分析して、外部環境に応じた戦略を立案、最後に「自社(Company)」のどの経営資源を当てはめるか考えることで、実現性の高い新規事業につなげることができます。
オープンデータの活用
ターゲットや市場の規模の測定には、官公庁などが公表している「オープンデータ」を使用することが一般的です。「オープンデータ」について、総務省のホームページには次のように定義されています。
国、地方公共団体及び事業者が保有する官民データのうち、国民誰もがインターネット等を通じて容易に利用(加工、編集、再配布等)できるよう、次のいずれの項目にも該当する形で公開されたデータをオープンデータと定義する。
- 営利目的、非営利目的を問わず二次利用可能なルールが適用されたもの
- 機械判読に適したもの
- 無償で利用できるもの
参照元:オープンデータ基本指針(平成29年5月30日高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議決定)
つまり、新規事業の創出やそれに伴う経済の活性化を目的に、国や自治体、企業などが無償で公開する統計データ等のことです。これらを活用することで、新規事業のターゲットとなる属性の人口や市場規模などを推測することが可能です。
国内のオープンデータを集約したポータルサイトとして、総務省の運営する「データカタログサイト」があります。
しかし、中小事業者が狙うマーケットはニッチな市場であることが多く、公表されている統計データでは、具体的な分析を行うことは困難な場合があります。
そうした場合の手法として、「オープンデータ」と「フェルミ推定」を組み合わせて市場規模を類推する方法があります。「フェルミ推定」とは、「日本にはマンホールはいくつあるか」のような、一見予想もつかないような問いに対して論理的にアプローチし、概算して数値で答えを出すフレームワークです。
たとえば、有名な例題に「シカゴには何人のピアノの調律師がいるのか?」という問題があります。シカゴの人口は2019年時点で271万人というデータが出ており、1世帯平均3人とすると約90万世帯となります。
ピアノを所有するのは10世帯に1世帯とし、約9万台のピアノが存在すると推定できます。調律師が平均1日3台を調律するとすれば、250日稼働で1年間に750台調律できます。
一般的に、ピアノは1年に1回調律するとすれば、9万台/750台で120人の調律師がシカゴにいると推測できます。掛け合わせる要素を間違えなければ、より現実に近い数値を推定することができます。
クラウドファンディングの起案
顧客へのアンケート調査やインタビューなどのように、消費者やターゲットの声を直接聞くことができる手法として「クラウドファンディング」があります。
「クラウドファンディング」とは、2000年代にアメリカで始まったネットを通じて不特定多数から資金を募る仕組みのことで、日本では2011年の「東日本大震災」発生時の復興支援に利用され、広く認知されたといわれています。国内で広まった経緯から「寄付」のイメージが強いですが、事業者のマーケティングとしても有効であり、その活用シーンは「コロナ禍」を経て増加傾向にあります。
これから取り組もうとしている新規事業の内容を記載したランディングページを制作し、その取組みに共感した不特定多数の支援者から支援金を募り、その対価として「リターン」と呼ばれるお返しを提供するというのが一般的な流れになります。
新規事業が「お金」というシビアな基準で支援に足る取り組みか否かが評価されるため、ニーズや需要が本当に存在するかということを把握することができます。また、こうした支援者の多くは「アーリーアダプター」と呼ばれる所謂「新し物好き」の方が多く、そうした消費者に早い段階で新規事業の取組みを体験してもらうことで、商品やサービスのブラッシュアップや広告宣伝に繋がるというメリットもあり、特にエンドユーザー向けの商品・サービスを販売する新規事業の場合、大変有効なマーケティング手法といえます。
まとめ
新規事業のマーケティングの必要性とそのポイント、取り組み方について解説しました。
マーケティングは1回で成功するということはほとんどなく、上手くいかなければ、市場・競合分析やターゲットの選定、仮説の見直しなど何度も後戻りして、少しずつ進めていくというものになります。ビジネスにスピードが重要になっている現代では、プロに依頼するというのも立派な戦略の一つです。
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