中小企業の設備投資を最高1,000万円まで支援してくれる通称ものづくり補助金(正式には「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」といいます)。2020年度から公募が年に複数回実施されるようになり、申請しやすくなりました。
さらに、新型コロナウイルス対策として「低感染リスク型ビジネス枠(新特別枠)」が設定され、補助率も従来の1/2から2/3にアップされています。今回は、2021年度のものづくり補助金について解説していきます。
ものづくり補助金の概要
まずは、ものづくり補助金の概要を紹介しましょう。
対象者
日本国内に本社または補助事業の実施場所がある中小企業や小規模事業者、特定非営利活動法人が対象です。社会福祉法人や医療法人等は対象になりませんが、個人開業医であれば対象になります。また、個人事業主も対象になります。
対象となる取り組み
対象となる取り組みは、「中小企業が行う革新的な製品・サービス開発」または「生産プロセス・サービス提供方法の改善」に必要な設備・システム投資です。したがって、単なる既存事業の設備更新等では対象になりません。
さらに、事業類型として「一般型」と「グローバル型」があります。
一般型では、「通常枠」と「低感染リスク型ビジネス枠(新特別枠)」が設けられています。新型コロナウイルス対策の低感染リスク型ビジネス枠は、対人接触を減らす取組み等が対象になり、補助率が高くなります。
補助率が高いだけでなく、優先的に採択されます。もし低感染リスク型ビジネス枠で不採択だったとしても、通常枠で再度審査されるため、低感染リスク型ビジネス枠の方が有利と言えます。少しでも対人接触を減らす要素があれば、低感染リスク型ビジネス枠で申請するようにしましょう。
また、一般型の他に「グローバル型」があり、こちらは文字通り海外事業拡大のための取組みが対象となります。
事業類型 | 応募枠 | 対象となる取り組み |
一般型 | 通常枠 | 中小企業者等が行う「革新的な製品・サービス開発」又は「生産プロセス・サービス提供方法の改善」に必要な設備・システム投資等 |
一般型 | 低感染リスク型ビジネス枠 | ・物理的な対人接触を減じることに資する革新的な製品・サービスの開発 ・ウィズコロナ、ポストコロナに対応したビジネスモデルへの抜本的な転換に係る設備・システム投資 |
グローバル型 | - | 海外事業の拡大・強化等を目的とした「革新的な製品・サービス開発」又は「生産プロセス・サービス提供方法の改善」に必要な設備・システム投資等 |
補助金額
補助金額は次のとおりです。必要経費の全額が補填されるのではなく、企業規模や応募枠に応じて1/2から2/3が補助されます。
事業類型 | 応募枠 | 補助上限額 | 補助率 |
一般型 | 通常枠 | 100万円~1,000万円 | 中小企業者:1/2、小規模事業者:2/3 |
一般型 | 低感染リスク型ビジネス枠 | 100万円~1,000万円 | 2/3 |
グローバル型 | - | 1,000万円~3,000万円 | 中小企業者:1/2、小規模事業者:2/3 |
※単価50万円以上の設備投資が必要
なお、補助金は補助事業が完了してから支払われる後払いです。立替払いが必要となるため、資金繰りに留意しましょう。
要件
ものづくり補助金の大きな特徴は、3~5年後に給与総額を年平均1.5%以上増加させることと、付加価値を年平均3%以上増加させることが要件となっていることです。付加価値とは、営業利益と人件費、減価償却費の合計額で、以下の増加基準を満たす3~5年計画の作成が必須です。
3~5年の事業計画期間において
- 給与支給総額を年率平均1.5%以上増加させる
- 事業場内最低賃金(事業場内で最も低い賃金)を地域別最低賃金+30円以上の水準にする
- 事業者全体の付加価値額を年率平均3%以上増加させる
なお、給与総額の増加については、従業員に「表明」しなければなりません。「表明」は、「賃上げ計画の表明書」を作成し、従業員に署名・捺印してもらうことで対応します。この「賃上げ計画の表明書」を、補助金申請時に他の申請書類と一緒に提出します。
給与総額の増加目標または事業内最低賃金目標が未達だと、補助金の返還を求められる可能性があるため注意してください。
対象経費
補助金の対象となる品目は、必要経費のうち以下の10品目です。製品開発に必要な機械やシステム導入費の他、開発に必要な助言を求める専門家経費などが対象になります。また、低感染リスク型ビジネス枠のみ広告宣伝費も対象になります。
なお、パソコンやタブレット、車両など汎用使用ができるものは対象になりません。
- 機械装置・システム構築費
- 技術導入費
- 専門家経費
- 運搬費
- クラウドサービス利用費
- 原材料費
- 外注費
- 知的財産権等関連経費
- 海外旅費(グローバル型のみ)
- 広告宣伝費・販売促進費(低感染リスク型ビジネス枠のみ)
ものづくり補助金の採択率
ものづくり補助金一般型の採択率は、概ね30%~40%代で推移しています。ただ、2021年の6月に発表があった第6次公募では、採択率が47.7%と5割近くまでアップしました。
これは、同時期に募集されていた事業再構築補助金の影響があるかもしれません。事業再構築補助金は、補助金上限額6,000万円、予算総額1兆1,000億円と、とにかく大型の補助金で注目を集めています。本来ものづくり補助金に申請するような事業者も、事業再構築補助金に流れた可能性があり、その分ものづくり補助金の申請が減った可能性があります。
だとすれば、事業再構築補助金が実施される2021年度は、ものづくり補助金が狙い目かもしれません。
ものづくり補助金申請の流れ
続いては、ものづくり補助金を申請する際の手順について解説していきましょう。
申請手続き
申請書類作成
革新的な製品開発等についての事業計画書を作成します。事業計画書は
- その1:補助事業の具体的取組内容
- その2:将来の展望
- その3:会社全体の収支計画
から構成され、自社の強みや特長、補助事業で行う取り組みの優位性などを記載していきます。なお、事業計画書はその1、その2合わせてA4サイズ10枚以内に収めなければならないため、コンパクトにまとめる必要があります。
電子申請
ものづくり補助金は、「Jグランツ」という補助金申請システムから申請手続きをします。申請にはgBizIDプライムアカウントが必要で、アカウント取得には3週間以上かかります。
gBizIDプライムアカウントをまだお持ちでない場合は、まずはアカウントを取得しましょう。gBizIDプライムアカウントの取得方法等詳細は、こちらのURLを参照してください。
スケジュール
従来、ものづくり補助金は単年度予算で実施され、公募も年に1~2回でした。そのため、次の公募があるのかどうかはすべて次年度の国家予算次第なので、先が見通しにくいところがありました。
しかし、2021年現在実施されている令和元年度補正予ものづくり補助金は、2020年3月の第1次公募から3箇年予定で実施されることが決まっており、2021年7月現在では第7次の公募受け付け中です。しかも、通年募集に変更され、締め切りが年4回設定されているので申請しやすくなりました。たとえ不採択になったとしても、次の公募で再申請することができます。
2021年7月現時点で発表されている公募スケジュールは次の通りです。
公募回 | 締め切り |
第7次公募 | 2021年8月17日 |
第8次公募 | 2021年11月頃 |
第9次公募 | 2022年2月頃 |
第10次公募以降はまだ発表されていませんが、当初予定では2022年度も実施されることになっています。
採択後の流れ
採択後の流れは次の通りです。採択となっても、実際に補助金が振り込まれるのは1年近く先になる場合もありますので、資金計画を十分に考慮するようにしましょう。
項目 | 内容 | 期間 |
採択決定、交付申請、交付決定通知 | 採択されたら、見積書等必要書類を添えて、交付申請手続きをします。その後交付決定通知が到着します。 | 約1ヶ月間 |
補助事業の実施 | 補助事業を事業計画書通りに実施し、完了したら30日以内に実績報告書を提出します。 | 10ヶ月以内(グローバル型は12ヶ月以内) |
補助金請求、支払い | 実績報告書の提出後補助金が振り込まれます。 | 約1ヶ月 |
事業化状況・知的財産権等報告書の提出 | 補助事業終了後も、5箇年にわたって毎年、付加価値額向上及び賃金引上げ状況等を報告します。 |
ものづくり補助金の審査
では、ものづくり補助金ではどういった項目が審査されるのでしょうか?ここでは、ものづくり補助金で審査される主な項目を紹介しますので、申請を検討されている方は参考にするとよいでしょう。
審査項目
ものづくり補助金は、申請書類に基づき「技術面」「事業化面」「政策面」の3つの観点で設定された、以下の審査項目によって審査されます。
- 技術面:革新性、課題解決方法の明確さおよび優位性、技術的能力 など
- 事業化面:実施体制、市場ニーズ、競合に対する優位性、収益性、費用対効果 など
- 政策面:地域経済への貢献、ニッチ分野での差別化、ウィズコロナ・ポストコロナに向けた経済構造の転換など
加点項目
上記の審査項目だけでなく、賃上げ等特定の要件を満たせば審査で加点され、有利になります。加点項目は次の4つがあります。
- 政策加点:創業・第二創業後間もない事業者(5年以内)
- 賃上げ加点等
- 成長性加点:経営革新計画の承認を取得した事業者
- 災害等加点:事業継続力強化計画の認定を取得した事業者
政策加点:創業・第二創業後間もない事業者(5年以内)
政策加点として、創業または第二創業から5年以内の事業者は加点してもらえます。
賃上げ加点等
ものづくり補助金では、以下の要件があります。
- 補助事業終了後3~5年で給与支給総額を年平均1.5%以上増やすこと
- 事業場内最低賃金を地域別最低賃金+30円増やすこと
これらの要件を満たせない場合は返金を求められることもありますが、さらに上回る賃上げ等の計画を作成すれば加点措置が受けられます。具体的には次の要件です。
- 給与支給総額を年率平均2%以上増加させ、かつ、事業場内最低賃金を地域別最低賃金+60円以上の水準にする計画を有し、従業員に表明すること
- 給与支給総額を年率平均3%以上増加させ、かつ、事業場内最低賃金を地域別最低賃金+90円以上の水準にする計画を有し、従業員に表明すること
- 健康保険、厚生年金の被用者保険にパート社員等を加入させる適用拡大は、現在501人以上の大企業が対象となっているが、中小企業が制度改革に先立ち任意適用に取り組むこと
成長性加点:経営革新計画の承認を取得した事業者
経営革新計画とは、中小企業が経営計画を作成し都道府県知事等の承認を得る制度です。承認を受けるとものづくり補助金の加点だけでなく、日本政策金融公庫の特別利率による融資制度などさまざまな優遇措置を受けることができます。
- 経営革新計画(中小企業庁 2021年度経営革新計画進め方ガイドブック)
災害等加点:事業継続力強化計画の認定を取得した事業者
事業継続力強化計画とは、自然災害等による事業活動への影響を軽減し、事業継続または早期の事業回復を目指した取り組みについて記載したものです。
以前は自然災害への対応が中心でしたが、現在では新型コロナウイルスへの対応も求められるようになりました。事業継続力強化計画を作成し、経済産業大臣より認定された事業者は、ものづくり補助金の加点だけでなく、税制や金融の支援等を受けることができます。
- 事業継続力強化計画(中小企業庁)
なお、経営革新計画と事業継続力強化計画は、共にものづくり補助金申請時に承認を受けている必要があります。承認を得るのに2ヶ月程度かかりますので、直近の応募には間に合わない可能性が高いです。場合によっては、まずは経営革新計画や事業継続力強化計画の作成と承認に挑戦し、ものづくり補助金は次回の公募で申請するというのも一つの手でしょう。
ものづくり補助金申請書作成のポイント
最後に、ものづくり補助金の申請書を作成する際に押さえておきたいポイントをお伝えしていきます。
わかりやすさを大切にする
ものづくり補助金の採択審査は、申請書類のみで判断されます。しかも、審査員は短期間で大量の申請書類を読み込むうえ、申請者の事業分野に精通しているとは限りません。いくら良い内容の計画を立てていたとしても伝わらなければ意味がないので、専門用語は極力使わず、図表や写真を使用しビジュアルでも訴え、とにかくわかりやすく書くようにしましょう。
ストーリーを意識する
ものづくり補助金で大切なことは、自社の強みを補助事業によってどれだけ革新化させ、売り上げ向上につなげていくかというストーリーです。「なぜ補助事業が必要なのか」「自社の強みをどう活かせるか」などについて、実現可能性をしっかり裏付けたうえで書くようにしましょう。
また、補助金の財源は税金です。自社利益だけのために税金が投入されることはありません。補助事業で地域経済等にどう貢献できるか、公益性の観点も盛り込むようにしましょう。
革新性を盛り込む
ものづくり補助金で一番求められているのは、「革新的なものづくり」です。既存のありふれた取り組みや製品では採択は難しめです。これまでになかった取り組みや業界初、商圏初といった革新性を意識して書くことをおすすめします。
まとめ
2021年現在のものづくり補助金の概要について詳しく解説しました。果たして、自社が採択されるのだろうかと不安に思われた方もいらっしゃるかもしれませんね。
そんなときは、専門家のサポートを受けると良いでしょう。申請書の作成を依頼できたり事業計画作成のアドバイスを受けられたりします。 当社トライズコンサルティングでも、ものづくり補助金の申請サポートを実施しています。当社がサポートを手がけた案件の採択率は、97%(2019年度、2020年度)と非常に高いことがおわかりいただけるでしょう。相談は無料ですので、まずはお気軽にお問合せください。