「経営計画なんて、金融機関の融資の申し込みのとき以外作ったことがない」そんな中小企業が多いのではないでしょうか?
しかし、経営計画は自社があるべき姿に到達するための道しるべのようなものです。社長の頭の中だけにあった想いを社員全体で共有することができますし、判断に迷ったときは経営計画に立ち返って考えることができます。
計画通りにいかなかったときも、なぜ計画からずれたのかを分析することで、より良い解決策を見つけることができます。経営計画を作成することで、自社の成長を加速させることができるのです。
とはいえ、何のサポートもメリットもなければ、日々の仕事に忙殺されてなかなか計画作成までは手が回らないのが普通ではないでしょうか。そこで、せっかくなら作成することで何らかのメリットのある経営計画として「経営革新計画」を紹介します。
「経営革新計画」を作成し行政の承認を受けることで、融資の優遇措置などさまざまな支援を受けることができます。
経営革新計画とは
経営革新計画とは、中小企業等経営強化法という法律に基づく中小企業支援策の一環です。計画を作成し都道府県知事等の承認を得ることで、融資などさまざまな支援策が受けられます。
計画を作成することで、自社の課題や目標が明らかになるだけでなく、いわば知事のお墨付きをもらうことで、自社の信用性を高めることもできます。経営革新計画を承認された新規事業となれば、取引先や金融機関からの信頼度も高まるでしょう。
経営革新計画に承認されるメリット
では、経営革新計画で承認を得ると具体的にどのような支援が受けられるのかについて解説していきましょう。
融資で優遇措置
資金調達に欠かせない融資で、以下の優遇措置を受けることができます。
信用保証の特例
経営革新計画の承認事業に対する資金については、信用保証協会の保証額に別枠がプラスされます。保証枠が2倍になるため、金融機関から融資を獲得しやすくなります。
限度額 | 通常 | 別枠 | 合計 |
普通保証 | 2億円 | 2億円 | 4億円 |
無担保保証(うち特別小口保証※) | 8,000万円(うち2,000万円) | 8,000万円 | 1億6,000万円 |
また、国の保証である新事業開拓保証についても、経営革新計画の承認を受けた研究開発費用については、限度額が通常の2億円から3億円に引き上げられます。
日本政策金融公庫の特別利率による融資制度
経営革新計画の承認が得られれば、日本政策金融公庫から通常より優遇された利率で融資を受けることができます。
<中小企業事業(中小企業向け)>
新事業育成資金 | 新事業活動促進資金 | |
貸付限度額 | 6億円 | 設備資金7憶2,000万円(うち運転資金2億5,000万円) |
貸付利率 | 基準利率▲0.65% | 基準利率▲0.65% |
<国民生活事業(小規模事業者、個人事業主向け)>
新事業活動促進資金 | |
貸付限度額 | 設備資金7憶2,000万円(うち運転資金4,800万円) |
貸付利率 | 基準利率▲0.65% |
なお、経営革新計画の承認を受けたからといって、自動的に融資が決定するものではありません。あくまで融資にあたっては別途申込、審査があることにはご留意ください。
高度化融資制度
高度化事業とは、工業団地を建設するなど同じ目的を持つ企業同士で組織する中小企業組合等のグループを、都道府県と独立行政法人中小企業基盤整備機構が資金・アドバイスの両面で支援する制度です。経営革新計画の承認を得られた高度化事業を実施する組合等は、無利子で融資を受けることができます。
食品等流通合理化促進機構による債務保証
食品製造業者等が金融機関から融資を受ける際に、食品等流通合理化促進機構による債務保証を4億円まで受けられます。
販路開拓の支援
経営革新計画の承認を得ると、融資だけでなく販路開拓の支援を受けることができます
販路開拓コーディネート事業
首都圏・近畿圏マーケットに限られますが、中小企業基盤整備機構の販路開拓コーディネート事業を利用することができます。同機構には、商社・メーカーOB等それぞれの得意分野のマーケットを熟知した販路開拓コーディネーターが配置されており、マーケティングから特定市場へのテストマーケティングまで支援してもらえます。
新商品を開発して一番頭を悩せるのが販路開拓でしょう。広範なネットワークを有するコーディネーターが支援してくれたら心強いですし、テストマーケティングの結果を受けて、さらなる商品改良につなげることもできます。
新価値創造展(中小企業総合展)
さらに、展示会にも出展しやすくなります。中小企業基盤整備機構が主宰する新価値創造展(会場:東京ビッグサイトおよびオンライン展示会)は、全国の中小企業・ベンチャー企業の出展者と、全国から一堂に集結する幅広い業種の来場者が集まり、新たな価値を生み出すビジネスマッチングイベントです。
出展には審査をパスすることが必要ですが、経営革新計画の承認を受ければ、通りやすくなります。
海外展開での資金調達支援
経営革新計画の承認を得れば、海外展開についての資金調達もしやすくなります。
スタンドバイ・クレジット制度(株式会社日本政策金融公庫法の特例)
中小企業の現地法人など、海外関係法人等が現地(海外)の金融機関から1年以上の長期資金を借入する際に、日本政策金融公庫が最大4億5千万円までの信用状(スタンドバイ・クレジット)を発行し保証します。
クロスボーダーローン制度(株式会社日本政策金融公庫法の特例)
中小企業の現地法人など海外関係法人等に対し、国内親会社を経由せず、日本政策金融公庫が直接貸付けを行う制度です。タイ、ベトナム、香港の現地法人に限られますが、別枠で14億4,000万円まで貸し付けを受けることができます。
中小企業中小企業信用保険法の特例
海外直接投資事業の融資を受ける際に、海外投資関係保証の限度額が2億円から3億円に引き上げられます。
その他
資金調達以外にも、次のようなメリットがあります。
ものづくり補助金の審査が優遇される
ものづくり補助金とは、中小企業の設備投資を最高1,000万円まで支援してくれる補助金です。採択審査があり、採択率3~4割以下という難関ですが、経営革新計画の承認を受けていたら審査で加点され、採択されやすくなります。
ものづくり補助金についてはこちら:
地方自治体の補助金・助成金
自治体によっては、経営革新計画の承認と補助金・助成金の交付を関連付けているところがあります。
<事例>
経営革新実行支援補助金(コロナ緊急対策)(福岡県)
新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う経営環境の変化に対応するため、経営革新計画を策定し、新たな取り組みにチャレンジする中小企業を支援。補助金上限額50万円
経営革新計画の書き方のポイント
経営革新計画では、企業の経営革新を促進するため、「新事業活動」と「経営の相当程度の向上」を盛り込むことが求められます。では、項目ごとに内容を解説していきましょう。
新事業活動
計画を作成するタイミングは新しい取り組みをする場合がほとんどですが、経営革新計画の作成においても、次のいずれかの新たな取り組みを計画することが求められます。
- 新商品の開発または生産
- 新サービスの開発または提供
- 商品の新たな生産または販売の方式の導入
- サービスの新たな提供の方式の導入
- 技術に関する研究開発およびその成果の利用その他の新たな事業活動
新商品や新しいサービスなどの計画がポイントになります。なお、自社にとって新たな取り組みであれば、基本的に承認対象となります。
ただし、競合企業等の多くで導入されているような技術などの場合は承認されないこともあります。競合の大半ですでに実施されていることを実施しても企業成長にはつながりにくいため、理にかなっているといえます。
経営の相当程度の向上(目標設定)
計画には目標の設定がつきものですが、経営革新計画では経営の相当程度の向上を目標にします。具体的には、付加価値額と給与支給総額の伸び率を指標にした下記の数値目標が設定されています。
付加価値額とは、営業利益と減価償却費、人件費の合計額です。売上目標を設定する企業は多いですが、経営の一面しか見ることができません。企業活動の全体を把握するために、営業利益だけでなく活動の源となる雇用(人件費)と投資(減価償却費)を加えています。
この数値目標が達成されているかどうかを確認するため、承認後も行政当局によるフォローアップ調査が行われますので、無理な目標ではなくあくまで実現可能な目標を設定しましょう。
付加価値額又は一人当たりの付加価値額の伸び率 | 給与支給総額の伸び率 | |
事業期間が3年の場合 | 9%以上 | 4.5%以上 |
事業期間が4年の場合 | 12%以上 | 6%以上 |
事業期間が5年の場合 | 15%以上 | 7.5%以上 |
内容 | |
付加価値額 | 営業利益+減価償却費+人件費 ※一人当たり付加価値額は、従業員人数で割ったもの |
給与支給総額 | 役員報酬+給料賃金+賞与+各種手当 |
なお、給与支給総額とは役員報酬も含みますが、福利厚生費は含みません。
経営革新計画の承認手続き
最後に、経営革新計画承認手続きの流れを解説しましょう。
必要書類を作成する
申請書式があり、都道府県のホームページからダウンロードできます。記載内容は新事業活動の種類、新商品開発など新事業の取り組み内容、現状の課題、競合との違い、実行計画、収益計画など多岐に渡ります。
作成には骨が折れるかもしれませんが、新規事業を多面的に考えることができ、事業の成功確率を高めることができるため、作成プロセスそのものに価値があるといえます。また、社長の頭の中だけにあった新規事業プランを、文書化することで社内共有化も図れますし、融資の申込や補助金の申請書の下準備にとしても活用できます。
都道府県部局へ提出する
原則として都道府県知事の承認となるため、都道府県の担当部局に提出しましょう。ただし、事業が広域にわたるなど複数県にまたがる場合は、経済産業省の地方局や中小企業庁が提出先となる場合もあります。
なお、承認にあたっては審査があり、申請したからといって必ず承認されるわけではありません。
では、気になる承認率はどれくらいでしょうか?明確な数字は公表されていませんが、3社に1社、場合によっては10社に1社程度しか承認されないといわれています。さまざまな支援措置を受けられるだけあって、それなりに高いハードルがあるようです。
なお、申請にあたっては各都道府県等中小企業支援センターや、商工会・商工会議所等を始めとする経営革新等支援機関でも相談に乗ってもらえます。経営革新等支援機関とは、中小企業を支援できる機関として、経済産業大臣が認定した機関で、全国で3万以上の金融機関、税理士、中小企業診断士等が認定を受けています。
いわば、経営や事業計画、資金計画作成のプロなので、自社だけで手ごわいと感じたら外部機関もうまく利用すると良いでしょう。
まとめ
経営革新計画について詳しく解説しました。さまざまな支援策が受けられる反面、承認される企業数の少なさに躊躇される方もいらっしゃるかもしれませんね。
そんな場合は、前述のとおり専門家に相談してみるのが早道です。当社トライズコンサルティングも認定経営革新等支援機関として、多数の経営革新計画作成支援に携わっています。ご相談は無料ですので、ぜひお気軽にお問い合わせください。