企業経営者であれば、誰しも一度は資金繰りに悩んだことがあるのではないでしょうか?たとえ黒字であったとしても、支払いが必要な日に必要な資金がなければ、企業は倒産してしまいかねません。
この記事では、企業の資金繰りを改善する方法について詳しく解説します。
企業が資金繰りを改善させるメリット
はじめに、企業が資金繰りを改善させるメリットを確認しておきましょう。主なメリットは次の4点です。
- 黒字倒産の危険を避けられる
- 安心して経営ができる
- 次の成長へ向けた投資がしやすくなる
- 企業の信用が向上する
黒字倒産の危険を避けられる
企業が最も避けるべき事態は、倒産です。
儲かってさえいれば倒産とは無縁であると考える方もいるかと思いますが、実はそうではありません。たとえ決算書上は黒字経営であったとしても、支払いが必要な日に支払いに必要な資金が準備できなければ、企業は倒産してしまいます。
たとえば、3月10日に1,000万円の売掛入金がある予定であるにもかかわらず、3月1日に買掛金300万円の支払いが必要であり、3月1日時点では300万円の用意ができない場合などがこれに該当します。
たとえ黒字経営であったとしても、資金がうまく回っていなければ、倒産のリスクは避けられません。資金繰りをモニタリングし、改善することで、このようなリスクを減らすことが可能となります。
安心して経営ができる
資金繰りが不安定では、企業経営に常に不安が付きまといます。
売掛金の入金が1件遅れたり入金がされなかったりすることで連鎖的な倒産のリスクがある状況が続くようであれば、綱渡りのような不安定な経営であると言わざるを得ません。資金繰りを改善することで常に不安を抱える状態から脱却し、安心して経営をすることが可能となります。
次の成長へ向けた投資がしやすくなる
資金繰り計画ができておらず不安定な状況であれば、安心して次へ向けた投資をすることが困難です。また、どんぶり勘定で思い切って投資をしたところで、思ったように資金が回らず資金繰りに窮してしまうかもしれません。
資金繰り計画を作成して「見える化」したうえで資金繰りの改善を行えば、次の企業成長へ向けた投資の決断がしやすくなります。
企業の信用が向上する
融資を受ける際などには、企業の資金繰り計画を金融機関へ提出することが一般的です。
この際、提出のために急ごしらえで計画を作成することもあるかと思いますが、その場合には説得力に欠けてしまうケースが少なくありません。日頃から資金繰り計画を作成して入出金状況を把握していれば、なぜ融資を受けたいのかなどの説明にも説得力が増します。
また、日々資金繰りを改善し、最新の資金繰り計画表を定期的に金融機関へ提出することで、企業の信用がより向上するでしょう。
資金繰り改善策0:自社の資金繰り状況や問題の把握
ここからは、具体的な資金繰り改善策を解説します。
資金繰り改善をするにあたってまず行うべきことは、資金繰り計画表を作成したうえでの資金繰りの状況と問題点の把握です。
資金繰り計画表とは、企業の入出金状況の予測を将来に向けて記録しするものです。決まった様式があるわけではありませんが、中小企業庁が様式の例をホームページに掲載していますので、こちらが参考になります。
たとえば、健康状態を改善したいのであれば、はじめに身体測定や健康診断を行い、その結果を踏まえて具体的な改善に取り組むことが効果的でしょう。これと同様に、まずは資金繰り計画を作成して資金繰りの健康状態を把握し、問題点を知ることが重要です。これが、他のすべての資金繰り改善策の土台となります。
資金繰り状況が把握しづらい理由
損益の把握は行っているかた、これとは別に資金繰り計画表など作成する必要はないと考える方もいるかもしれません。
しかし、損益の計画のみから資金繰りを把握することは困難です。なぜなら、資金繰りで確認したい入出金の状況と損益とでは、ズレが生じる場面が少なくないためです。
損益と入出金とにズレが生じる具体的な内容としては、主に次のものが挙げられます。
借入金
新たに借り入れをした場合、企業のお金は一気に増えることとなります。一方で、これは損益には一切影響しません。
預貯金勘定が増える一方で、借入金勘定が増えるのみであるためです。同様に、借入金の返済時にもズレが生じます。なぜなら、借入金を返済した際には元本と利息分のお金が企業から出て行きますが、経費として計上することができるのは利息分のみであるためです。
元本の返済は単に借入金勘定が減るのみであり、損益には一切影響しません。
儲かっているはずなのにお金が増えないなどと企業経営者が言うことがありますが、それはこの借入金返済に関する損益と入出金とのズレが原因であることが多いでしょう。
設備投資
設備投資をして建物や機械器具、車両などを購入した場合、ローンなどの例外はあるものの、原則として購入の時点で企業からお金が出ていきます。
しかし、原則としてその購入時点で購入対価が経費となるわけはありません。なぜなら、これらは数年や数十年に渡り、減価償却で少しずつ経費とされるルールとなっているためです。
そのため、購入初年度は、お金は出ていくものの、経費となるのは購入対価のうちごく一部です。一方、翌年度以降は、お金は出ていかないものの、経費として一定額が計上されることとなります。
売掛金
商品やサービスを販売した際、通常はその商品の引き渡し時など、請求書を発行した時点で売上が計上されます。
一方、販売が掛けやクレジットカード払いである場合には、売り上げた時点で企業にお金が入ってくるわけではありません。実際に入金されるのは、1ヶ月や2ヶ月程度先となります。そのため、売り上げた時期と入金時期とに差が生じます。
在庫
販売用に仕入れた商品などの在庫は、原則として購入をした時点で企業からお金が出ていきます。
一方で、仕入の対価は仕入れの時点ですぐに経費として計上されるわけではありません。商品の仕入代金が経費として計上されるのは、実際にその在庫が商品として販売された時点です。
期末時点で倉庫に眠っている在庫はその期の経費とはならず、単に現預金が在庫として形を変えているのみの状態といえます。
資金繰り改善策1:入出金サイクルの見直し
資金繰り改善先の1つめは、入出金サイクルの見直しです。では、具体的に解説していきましょう。
入出金サイクルの見直しとは
資金繰りを改善するためには、入金はできるだけ早くする一方、支払いはできるだけ遅くすることが鉄則といえます。具体的には、売掛債権の回収をできるだけ早め、買掛金や経費支払いの時期をできるだけ遅くすることです。
入出金サイクルの見直しが資金繰り改善につながる理由
なぜ入出金サイクルの見直しが資金繰り改善につながるのかといえば、資金繰り改善とはすなわち、今すぐに使えるお金をできるだけ増やすことであるためです。
仮に3月末に入金される予定である1,000万円の売掛金があったとしても、この1,000万円は3月10日の時点では使うことができません。1,000万円の売掛金はあくまでも将来お金を得る権利でしかなく、お金そのものではないためです。
一方で、この売掛金の入金時期が仮に2月末であれば、3月10日にこの1,000万円を使うことができます。同様に、2月末時点で支払うべき500万円の代金があれば、この500万円は2月末時点で企業から出ていくため、3月10日時点ではもはや使うことができません。
この500万円の支払い時期が3月末であったのであれば、3月末までの間はこの500万円を自由に使うことが可能です。入出金サイクルを改善させることで企業にとって使えるお金が増え、資金繰りの改善につながります。
入出金サイクルを改善する方法
企業が入出金サイクルを改善させる方法としては、主に次の2点が考えられます。
取引先と交渉する
入出金サイクルを改善させる方法の1つめは、取引先と交渉をすることです。売掛金の入金サイクルが長い販売先には入金サイクルを早めてもらうよう交渉し、仕入先には支払時期を遅らせてもらうよう交渉すると良いでしょう。
クレジットカードを活用する
入金サイクルを改善する方法の2つめは、企業で使用する消耗品などを購入する際に、現金払いではなくできるだけクレジットカード払いにすることです。クレジットカード払いとすることで、支払い時期を1ヶ月程度遅らせることが可能となります。
資金繰り改善策2:借入金のリスケや追加借り入れ
資金繰り改善策の2つめは、借入金を増やしたり借入金返済のリスケをしたりすることです。では、具体的にみていきましょう。
借入金のリスケや追加借り入れとは
借入金のリスケとは「リスケジュール」の略であり、月々の返済額を減らしてもらうよう金融機関と交渉をすることを指します。また、追加借り入れとは、新たに借り入れをして借入金を増やすことです。
リスケや追加借り入れが資金繰り改善につながる理由
リスケをして月々の返済負担が軽くなれば、その分だけ企業に残るお金が増え、資金繰りに余裕が生まれます。同様に、追加で借り入れることができれば企業が使えるお金が増えることとなるため、資金繰りが改善します。
ただし、やみくもに追加借り入れをしてしまうと、返済にあたってさらに資金繰りが悪化するリスクがあるため、事前に専門家へ相談して将来に向けた返済計画を練るべきでしょう。
リスケや追加借り入れをする方法
リスケや追加借り入れをするには、次の方法を検討しましょう。
金融機関と交渉する
1つは、自分で金融機関と交渉することです。交渉の際には、なぜリスケや追加借り入れが必要なのか、資料をもとに明確に説明できるようにしましょう。
専門家の支援を受ける
もう1つは、専門家の支援を受けたうえで金融機関と交渉することです。
資金繰りの専門家の多くは、金融機関が知りたいポイントを押さえた資金繰り計画表や事業計画を作成までサポートをしてくれます。事前に計画や資料を詰めておくことで、安心して交渉に臨むことが可能となります。
資金繰り改善策3:在庫や不要な固定資産の売却
資金繰り改善策の3つめは、倉庫に眠った在庫やほとんど使っていない固定資産を売却することです。では、なぜこれらを行うことが資金繰りの改善につながるのでしょうか?
在庫や固定資産の売却が資金繰り改善につながる理由
在庫や固定資産は、本来、企業にお金を生むために存在すべきものです。
500万円のお金をそのまま持っていても、それは500万円のお金のままでしかありません。このお金を使って在庫を仕入れたり、加工用の機械を購入して付加価値をつけて販売したりすることなどで、500万円の元手が600万円となるなど、企業にさらなるお金を生んでいくのです。
しかし、倉庫に眠ったままの在庫や固定資産は、何ら企業にお金を生んでいません。それどころか、貴重な企業のお金が在庫や固定資産へと形を変えて固定化されてしまっていることで、本来別の用途に使えるはずのお金が使えない状態となっている状態です。
そのため、倉庫に眠った在庫やほとんど使用していない固定資産は、売却を検討すると良いでしょう。たとえ売却損が生じたとしても、使っていない資産をお金に戻すことで企業が使うことのできるお金が増え、資金繰りの改善につながります。
資金繰り改善策4:売掛債権管理の徹底
資金繰り改善策の4つめは、売掛債権の管理を徹底することです。
売掛債権の管理とは、掛けで売り上げた売上代金を回収まできちんとモニタリングして、支払いの遅延がないよう徹底することを指します。
売掛債権の管理徹底が資金繰り改善につながる理由
「貸倒れ」とは、企業が本来回収できたはずのお金が回収できなくなる事態のことです。たとえば、500万円を売り上げて3月末の時点で支払ってもらう約束をしていたにもかかわらず、3月末時点で入金がされずその後も回収できなくなることなどがこれに該当します。
貸倒れが生じてしまうと、企業は本来得られるはずであった代金を得ることができないのみならず、その売上を立てるために要した材料費や人件費などの費用のすべてが無駄となってしまいます。そのため、貸倒れは企業にとって特に避けたい事態であるといえるでしょう。
しかし、資金繰りの管理をきちんと行っていない企業では、債権回収の管理がきちんとできていない場合が少なくありません。損益計算上は請求書を発行した時点などで売上が確定するため、その時点で満足してしまい、回収までモニタリングができていないのです。
中には、多少入金が遅れても気付かない場合もあるほどでしょう。しかし、そのような甘い管理をしていると、債権の貸倒れが生じてしまったり、支払い遅延が常態化してしまったりするかもしれません。
債権管理を徹底することで支払い遅延や貸倒れを減らすことができ、結果として資金繰りの改善へとつながります。
資金繰り改善策5:リースの活用
リースとは、機械器具などの固定資産を購入するのではなく、月々のリース料を支払ってレンタルすることです。固定資産の購入とリースを比較した際に、リースを選択した方が資金繰りにとってはプラスとなります。
その理由は、次のとおりです。
リースの活用が資金繰り改善につながる理由
リースの場合には固定資産の購入とは異なり、当初のまとまった資金投入が必要ありません。そのため、固定資産の購入よりも、手元にお金が残りやすくなります。
たとえば、1,000万円の機械を一括払いで購入した場合には、購入した時点でその1,000万円は企業の手元から出て行きます。一方で、この機械を年100万円の10年リースで契約した場合には、初年度に出ていくお金は100万円のみです。
つまり、リースで固定資産を導入することで、追加での借り入れをすることと同じ効果を得ることができ、企業の資金繰り改善につながります。
まとめ
資金繰り改善の第一歩目は、資金繰り計画表を作成することで資金繰りの現状と問題点とを正しく把握することです。まずは資金繰りの現状を把握し、必要な資金繰り改善策を検討しましょう。
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