現在募集されている「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」(ものづくり補助金)は、2020年3月の開始以来、通年で公募が実施されており、11次公募が2022年8月18日(木)締切で募集されています。
ポータルサイトによると、2022年度は応募期間を2ヶ月、審査期間を約1ヶ月取り、6月・9月・12月・3月の四半期ごとに採択発表を行うと記載されており、13次公募まで見込まれています。
ものづくり補助金は大変難度の高い補助事業であるため、どんなに有用な取り組みであっても、ただ実施したいことを思いのまま記入した計画書では採択を望むことはできません。
今回は、ものづくり補助金の採択事例を分析し、さらにその特徴を解説することで、採択率を上げる事業計画書の作り方を説明します。
ものづくり補助金の採択結果
2019年度・2020年度補正予算のものづくり補助金では、「一般型」「グローバル展開型」「ビジネスモデル構築型」の3つの申請類型が設けられました。2022年6月末現在、公表されている9次公募までのものづくり補助金全体の採択率を単純平均すると46.3%となり、ハードルは決して低くないことがわかります。
では、それぞれ申請類型ごとに採択率を確認していきましょう。
一般型
「一般型」の公募回ごとの応募・採択者数、採択率は次のとおりです。
公募回 | 応募者数 | 採択者数 | 採択率(%) |
1次 | 2,287 | 1,429 | 62.4 |
2次 | 5,721 | 3,267 | 57.1 |
3次 | 6,923 | 2,637 | 38.0 |
4次 | 10,041 | 3,123 | 31.1 |
5次 | 5,139 | 2,291 | 44.5 |
6次 | 4,875 | 2,326 | 47.7 |
7次 | 5,414 | 2,729 | 50.4 |
8次 | 4,584 | 2,753 | 60.0 |
9次 | 3,552 | 2,223 | 62.5 |
「一般型」では、「通常枠」の他に、2次から4次まで「特別枠」、5次から9次まで「低感染リスクビジネス枠」も併設されました。公募回の前半と使いやすく、不採択となっても「通常枠」で再審査される「低感染リスクビジネス枠」創設以降の採択率が高くなっています。
グローバル展開型
「グローバル展開型」の公募回ごとの応募・採択者数、採択率は次のとおりです。
公募回 | 応募者数 | 採択者数 | 採択率(%) |
4次 | 271 | 46 | 16.9 |
5次 | 160 | 46 | 28.7 |
6次 | 105 | 36 | 34.2 |
7次 | 93 | 39 | 41.9 |
8次 | 69 | 27 | 39.1 |
9次 | 61 | 24 | 39.3 |
「グローバル展開型」は、海外事業の拡大・強化を目的とした取り組みへの支援を目的としています。「一般型」へ申請する中小企業がほとんどで、申請者は限られているため、直近3回での応募数は2桁となっています。
ビジネスモデル構築型
「ビジネスモデル構築型」の公募回ごとの応募・採択者数、採択率は次のとおりです。
公募回 | 応募者数 | 採択者数 | 採択率(%) |
1次 | 356 | 18 | 5.0 |
2次 | 101 | 28 | 27.7 |
「ビジネスモデル構築型」は他の2類型とは毛色が異なり、他の中小企業の成長や生産性向上を支援する取り組みを対象としています。そのため、極端に採択率は低くなりますが、「グローバル展開型」同様、一般の中小企業が申請することは少ないと考えられます。
ものづくり補助金の採択事例の調べ方
自社のものづくり補助金申請の参考とするための採択事例の探し方には複数の方法があります。ここでは代表的な4つの方法を紹介します。
グッドプラクティス集・もの補助成果事例検索
最も一般的な方法は、ものづくり補助金の運営事務局である全国中小企業団体中央会が管理する「ものづくり補助金総合サイト」に掲載されている「グッドプラクティス集」と「もの補助成果事例検索」の活用です。
当該機関は、ものづくり補助金の前身である補助事業が開始された2013年から現在に至るまで事務局を務めており、2019年時点で約7万者の支援を行っています。その中から申請者の事業化に向けた課題解決の糸口になる取り組みをまとめた事例集やデータベースを作成しています。補助事業の事務局が公表しているため、質・量ともに最も優れているといえます。
補助金虎の巻
中小企業庁の運営する「ミラサポPlus」でも事例が公表されています。
「ミラサポPlus」は、中小企業や小規模事業者向けの補助金・給付金等の事業のサポートを目的としたサイトです。各種施策を知ってもらい、使ってもらうため、制度の検索機能や説明が掲載されています。
その中に「補助金虎の巻」というコンテンツがあり、ものづくり補助金をはじめとした施策を活用した経営改善の事例が掲載されています。広く施策の普及を目的としているため、ものづくり補助金だけを見たい場合には少し使いづらいかもしれません。
採択された事業者からヒアリング
ものづくり補助金に採択された知り合いの事業者に話を聞いてみるという方法も考えられます。サイトに掲載された情報も有用ですが、編集者により加工された情報であるため、今イチ掴みづらいところがあるかもしれません。
そんな場合、気軽に聞くことができる事業者仲間がいれば、生の声を聞くことができます。しかし、業況や今後の戦略など社外秘部分も多くあるため、教えてもらう際の聞き方には注意しましょう。
認定支援機関・民間コンサルタントに相談
実績のある支援機関やコンサル会社も多くのノウハウの蓄積があるため、そうした支援者に相談するという手法も有効です。守秘義務があるため、事業計画そのものを見るということは難しいかもしれませんが、実際に複数の中小企業の案件を取り扱った経験から、会社名を伏せた形で採択事例を教えてもらえるかもしれません。
また、支援を依頼することで、採択事例から得た知見をもとにしたアドバイスがもらえるため、実質的に採択事例を活用したことになるでしょう。
ものづくり補助金の採択事例:プラスチック成型加工
では、実際に採択されたものづくり補助金の事例を紹介していきましょう。まず紹介するのはプラスチック成型加工の事例です。
事業計画名:
- ピックアップレンズトレイの取出し方式の開発による生産性向上および不良の削減(平成26年度補正)
取り組み内容:
- 最新の電動射出形成機導入による歩留率の改善及び主力商品であるピックアップトレイの最鋭機の試作検証
特徴・ポイント:
- 取引先の課題解決に繋がり、信頼関係が醸成されることで次の仕事に結びついている
- 創業後間もない時期に採択されたことで、成長のターニングポイントとなった
- 若き後継者の存在が、積極的な投資を促した
今後の展望
- 使用できる成形材料の幅が広がったことで、新たな分野の受注可能性が広がり、当社の提案力の強化につなげる
ものづくり補助金の採択事例:金属製品製造
続いて紹介するのは、金属製品製造の事例です。
事業計画名:
- 若手技能者の未熟度を補うロボットシステムを融合した生産体制の構築(平成30年度補正)
取り組み内容:
- 包丁やナイフの持ち手(ハンドル部分)の研削・研磨作業を担うロボットシステムを導入して生産性を高め、ベテラン技能者から若手への指導時間を確保
特徴・ポイント:
- 自社ブランドの展開により、第2創業とも言える企業成長を促している
- 現場負荷を軽減し、新たな活動への自主的・能動的にチャレンジする意欲を高めている
- 事業への取り組みに若手社員を抜擢し、その成長を実感できている
今後の展望:
- 問屋やOEM発注元の意向に左右されない経営基盤が確立され、今後はSDGsも視野に入れながら、ライフスタイルの中で必要とされる付加価値の高めた製品づくりを行っていく
ものづくり補助金の採択事例:印刷業
続いて紹介するのは、印刷業の事例です。
事業計画名:
- 最新設備導入による印刷製造プロセスの抜本的改善計画(平成27年度補正)
- 医薬品添付文書向けの品質管理体制の構築と、多品種・小ロット生産の実施(平成29年度補正)
取り組み内容:
- 最新鋭の4色印刷機導入にし、弱点であった多色刷に対応することで、これまで受けられなかった業務の受注、新たな顧客の開拓に寄与(平成27年度補正)
- 印刷物検査機の導入によるネック工程作業の自動化と顧客からの信頼獲得(平成29年度補正)
特徴・ポイント:
- 精度の高い印刷機の導入により、自社の持つデザイン力をより強く訴求できるようになった
- 最新鋭機器の導入による自動化が会社の業務内容をオペレーションからクリエーションへシフトさせている
- 事業への取り組みが社員のベクトルの一致に好影響をもたらし、さらなるモチベーション向上につながっている
今後の展望:
- 来るDX化の流れに乗り遅れないよう社内でプロジェクトを発足し、特色ある強みを持った全国に散在する意欲的な企業とアライアンスを組み、業界が新たな付加価値を提供できるよう転換を目指す
ものづくり補助金の採択事例:金属製品製造
続いて紹介するのは、金属製品製造の2つの事例です。
事業計画名:
- 世界最高水準の高付加価値部品加工の事業化と多品種少量型QCD基盤の底上げ(平成29年度補正)
- 大型設備導入と分散工程集約による脱炭素プラント受注の拡大(令和元年度補正)
取り組み内容:
- 全自動システムバンドソーを導入し、川上工程のボトルネックであった鋼材の切り出し作業を自動化(平成29年度補正)
- ユニット化や発電プラント等に代表されるタービンやコンプレッサーなど主要部品の大型化へのニーズが高まっている大手顧客の発注に対応するため、大型部品の加工を実現する加工機導入に加えて、作業工程の一部内製化し、リードタイムを短縮(令和元年度補正)
特徴・ポイント:
- 中核を担う人材が育成されることで、積極的な設備投資の企業成長が促される
- 支援期間との協調による補助事業への取り組みが、社員の知見獲得につながっている
- 効率的で精度の高い加工を実現する設備等の導入により、顧客に対し、より大きい信頼感と安心感を与えている
今後の展望:
- 属人的でクローズされた職人仕事の生産現場をよしとせず、企業を成長させるための必要とされる設備投資とマネジメントのできる人材の育成を進めていく
ものづくり補助金の採択事例:生産用機械器具製造業
続いて紹介するのは、生産用機械器具製造業の事例です。
事業計画名:
- 半導体製造装置向けの高精度部品の難削材加工プロセス改善による差別化(平成29年度補正)
- 半導体製造装置向け高精度部品の平面研磨加工プロセス改善による差別化(令和元年度・令和二年度補正)
取り組み内容:
- 高精度縦型マシニングセンタを導入し、ステンレス等難削材加工の自動化による時間を短縮(平成29年度補正)
- 最新の平面研削盤を導入による半導体製造装置の精度向上(令和元年度・令和二年度補正)
特徴・ポイント:
- 立地的に物流や通信等であった反面、品質や技術の研磨を続け、ニッチな分野で全国的に顧客の評価と信頼を受けており、それが補助事業をより効果的にしている
- 社内に有機的なグループ組織体制を構築しており、補助事業に関してもプロジェクト・チームを組成し、意識や情報の共有化を行い、社員の創意工夫も引き出している
- 補助事業による設備投資を皮切りに、社員が成功のプロセスを模索し切り開くことで自信獲得と人材育成につながり、企業評価を高めている
今後の展望:
- 産業界や地域の一部での趨勢に左右されず、属人的な作業の機械化などによる生産基盤の強化を行い、外部・内部データの分析・活用により、顧客発注の予測精度やQCDレベルの向上を目指す
ものづくり補助金の採択事例:建設コンサルタント
続いて紹介するのは、建設コンサルタントの事例です。
事業計画名:
- ドローンを用いた、3D測量技術を応用したインフラ構造物への対応技術サービス(平成28年度補正)
- 3Dスキャナ技術を活用した、施工シュミレーションモデルの活用技術サービス(平成30年度補正)
取り組み内容:
- ドローンをはじめとしたさまざまな機器・ソフトウエアを導入し、3D測量技術を展開、構造物等を計測する手法を確立(平成28年度補正)
- モバイル3Dスキャナを導入することで、樹木などの障害物によりドローンによる地形測量が不可能なエリアやトンネル・洞窟内などGPSが機能しない場所でのデータ取得を可能にする手法の確立(平成30年度補正)
特徴・ポイント:
- 革新技術応用へのチャレンジが新しいビジネス・モデルを創造し、拡大するマーケットの中でライバルの一歩先を行く原動力になっている
- 地元沖縄に根付くことがビジネスの自由度、快適度を高め、行政の地域計画・整備事業への参画や産学連携等を円滑にしている
- 補助事業がベンチャー企業のスタートアップの加速剤となっている
今後の展望:
- 当初は東京進出を考えていたが、コロナ禍以降、どこにいてもクライアントとの意思疎通に問題なく、むしろ海外への交通が便利な沖縄を基盤に、インフラ等構造物をはじめ、防災分野にも注力していく
ものづくり補助金に採択された事例の特徴
最後に、5つのものづくり補助金採択事例から見える特徴を3つ挙げていきます。ぜひこれらの事業者の取り組みを真似していただき、採択を勝ち取っていただきたいと思います。
社内の担当者が中心となって計画を策定している
まず、補助事業を含めた設備投資に伴うプロジェクト全体に対して社内の担当者をつけているという点が挙げられます。担当者には次のような方が任命される場合が多いようです。
- 代表者
- 後継者
- 中堅層
- 若手社員
- 複数の社員でのプロジェクトチーム
ものづくり補助金のような補助事業の申請においては、外部の専門家に依頼するということも多くありますが、いずれにしても社内の担当者をつける必要があるでしょう。なぜなら、会社のことを最もよく知っているのは代表者や社員だからです。
内部の人間が当事者意識を持って会社をより良くしようと計画を立案し、その実行に向けて行動しなければ成果を出すことは決してできません。採択事例では、補助事業を通じて自社をより知るきっかけになったり、任命されたことでモチベーションの向上につながったり、社員の能動的な学びやチャンレンジを促進したりしたという副次的効果も確認できました。
適切な相談相手が存在する
次に、支援機関など適切な相談相手の存在です。採択事例では次のような方に相談しています。
- 金融機関
- 経営コンサルタント
- 大学教授
その他にも、商工会や商工会議所など無料で相談できる公的な機関の利用も考えられます。
特に初めてものづくり補助金に取り組む場合は、こうした支援機関に早目に相談し、一緒に進めていくことをおすすめします。自社にないノウハウを活用することができるため、採択可能性を上げることができます。
また、中小企業については、現場の仕事もしながら計画書の作成、補助事業に取り組んでいくことになるため、スピード感をもって効率的に行なうためにも外部の知見を利用すべきです。
補助事業後の将来展望が明確化されている
最後は、補助事業終了後の将来展望が明確にあるということです。ものづくり補助金では、単に設備が欲しいからという理由で申請しても採択される可能性は低くなります。
その設備を導入することで現状がどのように改善されるのかという点はもとより、そのビジネスがどのように展開し、将来的に自社がどのような企業へと成長していく助けになるのかということを記載する必要があります。なぜなら、国はものづくり補助金をはじめとする補助事業等での中小企業支援は投資と考えており、最終的にはその効果で収益をあげてもらい、税金として回収をしたいという目論見があるからです。
そのため、中小企業が中長期的にはどのようなビジョンを描いているのか、また、収益性や実行可能性はどれほどなのかという点が併せて精査されています。
まとめ
ものづくり補助金の採択事例とその特徴について解説しました。
当該補助事業は10年継続実施されており、今回紹介した以外にも多くの事例を見つけることができます。同業者やこれから取り組もうと考えていることに近い事例もあるはずなので、ぜひ探して事業計画の参考にしてください。
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