2022年6月9日(木)に事業再構築補助金の第5回公募の採択結果が公表されました。2022年度は残り3回の公募が予定されており、これから申請しようと考えている方や不採択のリベンジに燃えている方もおられることでしょう。
今回は、そんな方々の参考になるよう、事業再構築補助金の目的や採択結果に触れつつ、これまで採択されてきた事例やその特徴について解説していきます。
事業再構築補助金の目的
新型コロナの感染拡大の影響により、当面の需要や売上が減少し、仮にポストコロナ・ウィズコロナ時代になったとしても現状のビジネスモデルでは、営業を継続することが困難と見込まれる中小企業の事業の再構築を支援する目的で創設されました。
事業再構築補助金の採択結果の概要
事業再構築補助金は、これまで5回の採択結果の公表が行われました。採択率は第1回公募こそ35%前後でしたが、それ以降は45%ほどで、直近の第5回公募では約46%となっています。
その要因としては、第1回公募では書類不備などによる申請の不受理が15%近くあったものの、事務局サイドからの注意喚起や申請サイドのノウハウの蓄積により減少したためと推察されます。
事業再構築補助金で採択された具体例:業種別
ここからは、実際に事業再構築補助金の採択を受けた具体例を紹介していきます。事業再構築補助金では、毎回幅広い業種で採択を受けており、特に製造業や卸売・小売業、宿泊業・飲食サービス業の割合が高くなっています。
飲食業の事例:レストランから食料品小売業に業態転換
- 事業概要:埼玉県内で8店舗のイタリアンレストランを運営し、地元で生産されるヨーロッパ野菜にこだわった料理を提供
- 課題:コロナ禍の時短営業や会食等の自粛の影響により、売上が7割減少する店舗も発生
- 事業再構築の取り組み:第1号店をセレクトショップに改装して、地元産食材の商品開発・販売を開始し、セントラルキッチンともすることで、レストランの仕込みも可能にする
- 期待される効果:新メニューの開発による新たな需要の創設及びセントラルキッチンによる生産性向上とシェフのモチベーションアップ
小売業の事例:地域の生産者と連携したマルシェ事業
- 事業概要:つくば市内に3店舗を展開する洋菓子店で地域の厳選した素材を使用した商品は多くの支持を得て、SNSのフォロワーは3万人を突破
- 課題:コロナ禍で祝い事や外出等の自粛を受け、贈答品・嗜好品である洋菓子の需要が減少
- 事業再構築の取り組み:生産者と消費者が直接交流できるマルシェ事業へ進出し、店内にプロジェクターで映像を流すことで実際に産地を訪問しているような演出やAIレジの導入により少ない接触で買い物ができるなどの工夫を実施
- 期待される効果:商品開発力と発信力を生かし、いずれは「つくばブランド」の発信拠点となることを目指し、生産者や筑波大学と連携し、6次産業化を模索中
サービス業の事例:地域主導型観光ビジネスモデルの構築
- 事業概要:沖縄発着のツアー企画やレンタカー事業を営む旅行業者
- 課題:マス・マーケティングが主流となっている旅行業のビジネスモデルへの問題意識に加え、コロナ禍で売上が8割減少し事業も縮小
- 事業再構築の取り組み:宿泊、レンタカーなどを利用者が自由に組み合わせて予約することができるプラットフォームを構築し、観光関連業者の企画や情報を販売・発信することで、市場に対し的確にアプローチ
- 期待される効果:これまでの代理店発信から観光地自体が主体となって、地域の魅力を発信できる場を提供することで、これまで扱えなかった旅行商品も付加価値生む新たな商材とすること展開することが可能になり、沖縄の観光発展に貢献
製造業の事例:ハイブリット車向け部品分野に進出
- 事業概要:大手自動車メーカーに対して、内燃機関車用の部品を供給
- 課題:電動自動車への移行が始まっており、コロナの影響によるメーカーの生産調整を受けて売上が2割減少
- 事業再構築の取り組み:独自の加工技術を生かし、ハイブリット車の搭載する電動化技術部品の製造に着手
- 期待される効果:自社を取り巻く国内外の市場変化に合わせガソリン車・ハイブリット車ごとに生産を調整することで企業の持続的成長を見込む
食品製造業の事例:レトルト食品のOEM事業
- 事業概要:独自の密閉方法で長い賞味期限を実現し、コンクール受賞歴もあるオリジナルプリンをはじめとする青森県産のこだわりの逸品を取り揃えたカフェとセレクトショップの運営
- 課題:コロナ禍により、カフェとセレクトショップの売上が40%ダウン
- 事業再構築の取り組み:独自製法を活用できる保存食品のOEM生産を小ロットで提供し、商品企画から販路開拓までワンストップで提案
- 期待される効果:事業チャネルの多展開化や事業者間・異業種間の連携によるシナジーを見込む
情報処理業の事例:医療介護向けAIカメラの開発
- 事業概要:画像解析技術を活用したAI製品の受託開発
- 課題:受注から入金までのサイクルが長く、継続的に受注しないければならないビジネスモデル
- 事業再構築の取り組み:医療介護向けのAI見守りカメラを開発し、病院や介護施設、一般消費者にレンタルで提供
- 期待される効果:月額利用料制による収益の安定化に加え、エンドユーザーへ直接提供できることによるエンジニアのモチベーション向上
事業再構築補助金で採択された具体例:分野別
事業再構築補助金の支援対象となるためには、5つの申請類型のうち、申請者が1類型を選択し、それぞれに定められている要件を満たす計画である必要があります。ここでは5類型ごとの採択事例を紹介していきます。
新分野展開:ワーケーション滞在向けコワーキング機能付宿泊施設の開業
- 事業概要:観光・ビジネス等を滞在目的とした単発の個人客が売上のメインである宿泊事業者
- 課題:コロナ禍による移動制限や地域の賑わい喪失
- 事業再構築の取り組み:近隣の宿泊施設の別館施設としてワーケーション滞在に特化した施設をオープン
- 期待される効果:飲食提供など既存事業とのシナジーや法人契約等による売上の平準化
事業転換:ブルワリーを持つ自然派食品店に事業転換
- 事業概要:飲食店向けの酒類販売、オーガニック食品と酒類の小売店運営
- 課題:新型コロナウイルスによる影響で飲食店の売上が大きく減少
- 事業再構築の取り組み:メインの卸売事業を譲渡し、自社製造の酒類とオーガニック食品の小売店舗にリニューアル
- 期待される効果:ターゲットとなる健康意識の高い30〜40代の女性が入店しやすい外観を整え、店内のワークショップエリアでイベントを開催し、ファンを獲得
業種転換:事業承継、M&Aのオンラインプラットフォームの構築
- 事業概要:M&A及び事業承継のアドバイザリーサービス
- 課題:社会問題としてニーズは高まっているものの、緊急事態宣言下で対面営業ができなかったり、買い手の計画を見直したりする必要が発生
- 事業再構築の取り組み:売り手と買い手のマッチングから最終契約まですべてオンライン上で完結するシステムの開発
- 期待される効果:人手のかからないM&A支援を行うことで、これまで契約できなかったスモールM&Aを手掛け、売上増加と採算性向上を目指す
業態転換:デジタル化での広報支援事業
- 事業概要:住宅・不動産会社を中心にした集客イベントの企画および販促
- 課題:コロナによるイベントの減少及びWebなど広告媒体の多様化
- 事業再構築の取り組み:ドローン、動画・VRを活用した広報支援及び空撮写真のECサイトでの販売
- 期待される効果:自社の強みであるクリエイティブな能力を損なうことなく紙媒体からの移行が可能であり、ECサイトから新たな受注も見込む
事業再編:開発した植物性乳酸菌を活用した「家飲み」需要の獲得
- 事業概要:清酒・果肉入りリキュール等の製造販売事業
- 課題:コロナにより居酒屋向けの業務用商品の消費量が大幅ダウン
- 事業再構築の取り組み:「家飲み」需要を狙ったリキュール等による小売マーケットへの進出
- 期待される効果:リキュール製造のノウハウとのシナジーにより差別化された商品製造と飲料製造以外の他分野への展開を検討
具体例からわかる事業再構築補助金の採択事例の特徴
事業再構築補助金に採択された事例から、どのような計画が採択されやすいのかその特徴・ポイントを解説します。計画書を作成する際には、これらのことに留意すると採択率がグッと高まるはずです。
徹底した事業戦略
新型コロナウイルスによって減退した事業を回復させるために取り組む事業については、次の点を押さえておきましょう。
事業環境・市場を詳細に分析する
採択された事例には、自社がどのような市場にいるのか、事業環境は新型コロナウイルスによってどのように変化し、今後どうなっていきそうなのかということが綿密に記載されています。行政や関係団体の提供する一次データや実際の市場データ等を根拠として記載し、再構築の必要性や取り組みむ事業に説得力を持たせています。
強みを活用する・既存事業とシナジーを生む取り組みにする
採択された事例には、再構築で行う事業が自社の持つ強みを活かしたものであったり、既存事業と何らかのシナジーを生む取り組みであったりする場合が多いことがわかります。まったくの新しい分野よりも、少なくとも業界もしくは技術・ノウハウを活かせる分野の方が、成功の可能性が高いと捉えられるためでしょう。
地域に貢献するものにする
自社の業績だけでなく、自社が事業を再構築することで利益をいかに地域に還元できるかという点もポイントです。たとえば、事業展開によるさらなる雇用や地域の賑わい創出などが見込まれるなどが該当します。
事業計画書の品質
また、ポイントに留意したとしても、どのように記載していくかにより、審査員の理解や納得に差が生じ、採択可能性にダイレクトに影響します。次のようなポイントにも注意して記載するようにしてください。
フォントや色使い等に注意する
- 文字のフォントやサイズを統一する
- 全体の色使いを絞る
- インデント(字下げ)を揃える
といったことをするだけで、計画書はグッと読みやすくなります。簡単なことだからこそ、できていなければ反対に質の低い計画書であるというイメージを読む前から持たれてしまいます。
結論までを流れるように記載する
事業環境の分析から外部・内部環境の分析、取り組みむ事業の市場性や解決すべき課題、将来展望までを自然な流れになるように記載します。順番に記載していくよりも、まずは計画書全体のアウトラインを決めてから書き出すようにしましょう。
フレームワークを活用する
読み手に理解されやすい書き方として、フレームワークの活用があります。多くの採択事例で「クロスSWOT分析」が用いられており、「なぜこの事業に取り組むのか」がわかりやすく記載されています。他にもさまざまなフレームワークが開発されていますので、場面に応じて活用していきましょう。
まとめ
事業再構築補助金は他の補助事業と比較して、申請・採択件数や実際に採択を受けた計画などのデータが公表されているため、分析がしやすくなっています。この他にも多くの事例が公表されていますので、ぜひサイトで事例を確認し、採択の可能性を少しでも上げましょう。
当社トライズコンサルティングでは、過去に携わった案件から採択された計画書を分析し、ノウハウを蓄積しています。事業再構築補助金の申請にお困りの際には、ぜひご相談ください。