コロナ禍で苦境に陥った中小企業等が、業種転換など思い切った事業再構築を行う挑戦を支援してくれる事業再構築補助金。最高8,000万円(通常枠)という桁違いの金額の大きさから話題を集めた事業再構築補助金も公募を重ね、2022年7月現在では第7次公募の最中です。
当初のコロナ禍だけでなく、原油・物価高騰対策など新たなテーマも盛り込まれパワーアップしてきました。今回は、事業再構築補助金の概要や申請方法について解説します。
事業再構築補助金の概要
まずは、事業再構築補助金第7次公募の概要を紹介しましょう。
対象者
対象となるのは、以下の要件を満たす中小企業等です。
コロナ禍で売上が減少していること
対象となるのは、コロナ禍で売上が減少した事業者です。具体的な要件は次のとおりです。
- 2020年4月以降の連続する6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月の合計売上高が、コロナ以前(2019年または2020年1月~3月)の同3ヶ月の合計売上高と比較して10%以上減少していること
事業再構築指針に沿った事業計画作成
- 経済産業省が示す事業再構築指針に沿って事業計画を認定支援機関等と策定すること
事業再構築指針とは、いわば事業再構築のガイドラインです。詳細は後ほど紹介します。
認定経営革新等支援機関とは、中小企業を支援できる機関として経済産業大臣が認定した機関のことで、当社トライズコンサルティングも認定を受けています。
補助金額および応募要件
事業再構築補助金には、複数の応募枠があります。応募枠によって補助金額や応募要件が異なります。
補助金額および応募要件
「通常枠」を始め、「回復・再生応援枠」「最低賃金枠」「緊急対策枠」「大規模賃金引上げ枠」」「グリーン成長枠」の6つの応募枠があります。応募枠や従業員人数によって、補助金額が異なります。
企業の種類 | 応募枠 | 従業員数 | 上限額 | 補助率 |
中小企業または中堅企業※ | 通常枠 | 20人以下 | 100万円~2000万円 | 中小企業者等:2/3(6,000万円超は1/2) 中堅企業等:1/2(4,000万円超は1/3) |
21~50人 | 100万円~4000万円 | |||
51人以上~100人 | 100万円~6000万円 | |||
101人以上 | 100万円~8000万円 | |||
回復・再生応援枠・最低賃金枠 | 5人以下 | 100万円~500万円 | 中小企業者等:3/4 中堅企業等:2/3 | |
6~20人 | 100万円~1000万円 | |||
21人以上 | 100万円~1500万円 | |||
緊急対策枠 | 5人以下 | 100万円~1000万円 | 中小企業等:3/4(※1) | |
6~20人 | 100万円~2,000万円 | 中堅企業等:2/3(※2) | ||
21~50人 | 100万円~3,000万円 | (※1)従業員数5人以下の場合500万円を超える部分、 従業員数6~20人の場合1,000万円を超える部 分、従業員数21人以上の場合1,500万円を超える部分は2/3) | ||
51人以上 | 100万円~4,000万円 | (※2)従業員数5人以下の場合500万円を超える部分、 従業員数6~20人の場合1,000万円を超える部分、従業員数21人以上の場合1,500万円を超える部分は1/2) | ||
大規模賃金引上げ枠 | 101人以上 | 8000万円超~1億円 | 中小企業者等:2/3(6,000万円超は1/2) | |
中堅企業等:1/2(4,000万円超は1/3) | ||||
中小企業 | グリーン成長枠 | 100万円~1億円 | 1月2日 | |
中堅企業 | 100万円~1.5億円 | 1月3日 |
応募要件
応募枠によって、応募要件も異なります。通常枠の応募要件(共通の応募要件)にそれぞれの応募枠固有の要件が追加されます。
応募枠 | 主な応募要件 | |
通常枠および共通の応募要件 | ・2020年4月以降の連続する6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月の合計売上高が、コロナ以前(2019 年または 2020 年1月~3月)の同3ヶ月の合計売上高と比較して10%以上減少 ・事業再構築指針に沿って事業計画を認定支援機関等と策定 ・補助事業終了後 3~5 年で付加価値額の年率平均3.0%以上増加させること | |
回復・再生応援枠・ | 2021年10月以降のいずれかの月の売上高が対2020年または2019 年同月比で30%以上減少していること | |
最低賃金枠 | ・2020年4月以降のいずれかの月の売上高が対前年または前々年の同月比 30%以上減少していること ・2020年10月から2021年6月までの間で、3ヶ月以上最低賃金+30円以内で雇用している従業員が全従業員数の10%以上いること | |
緊急対策枠 | 足許で原油価格・物価高騰等の経済環境の変化の影響を受けたことにより、2022年1月以降の連続する6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月の合計売上高が、2019年~2021年の同3ヶ月の合計売上高と比較して10%以上減少していること等 | |
大規模賃金引上げ枠 | ・補助事業実施期間の終了時点を含む事業年度から3~5年の事業計画期間終了までの間、事業場内最低賃金を年額45円以上の水準で引き上げること ・補助事業実施期間の終了時点を含む事業年度から3~5年の事業計画期間終了までの間、従業員数を年率平均1.5%以上(初年度は1.0%以上)増員させること | |
グリーン成長枠 | ・補助事業終了後3~5年で付加価値額の年率平均5.0%以上増加 ・グリーン成長戦略「実行計画14分野に掲げられた課題の解決に資する取り組みであって、その取組に関連する2年以上の研究開発・技術開発または従業員の一定割合以上に対する人材育成をあわせて行うこと |
さらに、応募枠によって採択率も異なります。たとえば、第5次公募の採択結果では、通常枠の採択率が39.7%であったのに対し、最低賃金枠の採択率は79.4%。実に2倍近い開きがあります。これは、最低賃金枠で不採択となっても、通常枠で再審査されるため審査上有利となるからです。
第7次公募でも、同様に審査で優遇されると公募要領に明記されている回復・再生応援枠や最低賃金枠、緊急対策枠の採択率が高くなると予想されます。したがって、応募枠の選び方も採択につながる大きなポイントです。応募要件をよく確認して、できるだけ有利な応募枠で申請するようにしましょう。
対象経費
補助金の対象となる経費は、次の費目です。機械等の設備購入費だけでなく建物の建築費も対象になります。
ただし、新築については必要性が認められた場合に限ります。新たに店舗建物を購入するといった不動産取得費も対象になりません。また、車両やPC、タブレット、家具類など汎用使用ができるものや消耗品は対象外です。
- 建物費(建物の建築・改修、建物の撤去、賃貸物件等の原状回復)
- 機械装置・システム構築費(設備、専用ソフトの購入やリース等)、クラウドサービス利用費、運搬費
- 技術導入費(知的財産権導入に要する経費)、知的財産権等関連経費
- 外注費(製品開発に要する加工、設計等)、専門家経費
- 広告宣伝費・販売促進費(広告作成、媒体掲載、展示会出展等)
- 研修費(教育訓練費、講座受講等 補助対象経費総額(税抜き)の3分の1が上限)
事業再構築指針とは
事業再構築補助金は、事業再構築指針に沿った事業計画を作成しなければなりません。事業再構築指針では、次の5つの分類とそれぞれの定義、要件が示されています。いずれかの分類を選択し、要件を満たすことを事業計画の中で説明する必要があります。
分類 | 新規性要件 | 事業・業種変更 | 売上要件 | |
業態転換 | 製品等の新規性 | 製造方法等の新規性 | 新製品の売上が全体の10%以上となること | |
商品等の新規性または設備等撤去等要件(商品またはサービスの提供方法を変更する場合) | ||||
新分野展開 | 製品等の新規性 | 市場等の新規性 | 新製品の売上が全体の10%以上となること | |
事業転換 | 製品等の新規性 | 市場等の新規性 | 事業の変更 | 新事業の売上が、売上高構成比の中で最も高くなること |
業種転換 | 製品等の新規性 | 市場等の新規性 | 業種の変更 | 新業種の売上が、売上高構成比の中で最も高くなること |
事業再編 | 合併など会社法上の組織再編を伴う |
着目すべきは、5年後の売上についての要件です。「新分野展開」と「業態転換」が、「5年後に新たな製品の売上が全体の10%以上となること」に対し、「事業転換」と「業種転換」は「5年後に新たな事業・業種の売上が、売上高構成比の中で最も高くなること」が求められます。つまり、既存事業ではなく新規事業の方が大きな売上になるということで、大胆な変革が必要になります。
なお、どの分類を選んでも採択率に変わりはないとされています。そのため、分類に自社の計画を合わせるのではなく、極力自社の計画にあった分類を選ぶようにしましょう。
事業再構築補助金の申請方法
続いて、事業再構築補助金の申請方法について解説していきましょう。
準備する書類
事業再構築補助金の主な申請書類は次のとおりです。下記以外にも、応募枠によっては追加の添付資料が求められます。
- 事業計画書(15枚以内、補助金額が1,500万円以下の場合は10枚以内)
- 認定経営革新等支援機関の確認書
- 金融機関の確認書(補助金額が3,000万円を超える場合)
- コロナ以前に比べて売上高が減少したことを示す書類
- 決算書(直近2年間の貸借対照表、損益計算書、 製造原価報告書、販売管理費明細、個別注記表)
- ミラサポplus「電子申請サポート」の事業財務情報
- 従業員数を示す書類(労働者名簿など)
書類がとにかく多いことが特徴ですが、一番大変なのはなんといっても15枚におよぶ事業計画書の作成です。
申請手続き
申請手続きは次の流れとなります。
事業計画書の作成
事業計画書の様式は特に定められていませんが、次の4つの項目から構成されます。
- 補助事業の具体的な取り組み
- 将来の展望
- 本事業で取得する主な資産
- 収益計画
「1. 補助事業の具体的な取り組み」で、自社の強みや弱み、事業再構築の必要性、補助事業の取り組み内容などを記載し、「2. 将来の展望」で売上の見込みなどを記載します。これらの内容を15枚以内にまとめる必要があります。
補助事業の具体的な取り組みと将来の展望を合わせて13枚程度、本事業で取得する主な資産、収益計画が各1枚ずつほどの配分となるでしょう。
15枚というと多く思われるかもしれませんが、写真や図表も盛り込み事業再構築の投資内容を詳細に記述していくと、あっという間に規定枚数を超えてしまいます。特定の項目に記述が偏りすぎないよう、バランス良く書いていく必要があります。
なお、計画書は、認定経営革新等支援機関と相談しながら進めていきましょう。
電子申請
申請書類の準備ができたら、「Jグランツ」というシステムに登録して電子申請をします。書類などをすべてPDFにして登録します。
以降の採択決定や交付申請等の手続きもすべてJグランツで行います。Jグランツの利用には、gBizIDプライムアカウントが必要です。gBizIDプライムアカウントをまだお持ちでない場合は、まずはアカウントを取得しましょう。
スケジュール
公募は、四半期ごとに行われます。公募以降のスケジュールは次のとおりです。
項目 | 内容 | 期間 |
公募、申請 | Jグランツより電子申請します。 | 締切から採択発表まで2ヶ月程度 |
採択決定、交付申請、交付決定通知 | 採択されたら、見積書等必要書類を添えて、交付申請手続きをします。その後、交付決定通知が到着します。 | 約1ヶ月 |
補助事業の実施 | 補助事業を事業計画書通りに実施します。完了したら、30日以内に実績報告書を提出します。 | 交付決定から12ヶ月以内(グリーン成長枠は14ヶ月以内) |
補助金請求、支払い | 実績報告書の提出後補助金が振り込まれます。 | 約1ヶ月 |
事業化状況・知的財産権等報告書の提出 | 補助事業終了後も、5箇年にわたって毎年、付加価値額向上および賃金引上げ状況等を報告します。 |
採択通知が来たら交付申請手続きを行い、事業を実施します。
採択が決定したら、自動的に補助金がもらえるわけではありません。交付申請手続きから実績報告までの一連の手続きが必要となります。どれか一つでも欠けたら補助金はもらえません。
さらに、補助金が実際に支払われるのは事業実施後です。場合によっては1年くらい先になることもあるため、資金繰りにはくれぐれも留意してください。
事業再構築補助金の審査
事業再構築補助金の採否は、申請書類に基づいた書類審査で決定されます。審査員は、原則として申請書類以外の情報は参照しません。そのため、専門用語は使わず、表や写真などを盛り込んで、ビジュアルにも訴えかける分かりやすい申請書作成を心がけましょう。
審査項目
審査項目は、「事業化点」「再構築点」「政策点」の3つの観点が設定されています。したがって、どんなに良いことを書いていても、審査項目から外れていれば加点になりません。そのため、審査項目を網羅するつもりで記載しましょう。
事業化点
実施体制、市場ニーズ、競合に対する優位性、収益性、費用対効果など
再構築点
事業再構築指針に沿った取り組みであるか。事業再構築の必要性、自社の強みをふまえた取り組みであるかなど
政策点
地域経済への貢献、ニッチ分野での差別化、デジタル技術、低炭素技術等の活用など
加点項目
事業再構築補助金には、要件を満たせば審査で優遇される加点措置があります。主な加点措置には次のものがあります。
- 加点①:2021年10月以降のいずれかの月の売上高が対 2020年または2019年同月比で30%以上減少していること
- 加点②:中小企業活性化協議会等から支援を受けており、再生計画等を「策定中」または過去3年以内に「策定済」
- 加点③:足許で原油価格・物価高騰等の経済環境の変化の影響により、2022年1月以降のいずれかの月の売上高が、2019年~2021年同月と比較して10%以上減少していること
たとえ要件を満たしていても、加点措置の申告およびそれを証明する書類の提出がなければ加点措置は受けられません。自社が該当する加点措置がないか十分に確認するようにしましょう。
まとめ
事業再構築補助金申請方法について解説しました。
事業再構築補助金は、公募回を重ねるごとに改定が行われ、制度が複雑化している印象があります。たくさんの応募枠や加点措置を正しく理解し、「攻略」する必要があります。
「申請がややこしそう」「自社で手掛けるのは大変すぎる」そう思われたら、事業計画作成に⾧けた専門家の力を借りるのも一つです。
当社トライズコンサルティングでは、補助金の申請支援を多数手がけています。2019、2020年度の申請支援を手掛けた補助金採択率は97%です。中小企業の皆さまに寄り添い、一緒に事業計画を作っていくことで採択を目指します。 ご相談は無料ですので、ぜひお気軽にお問い合わせください。