中小企業の社員教育では、業務知識等をOJTで習得させることが一般的です。ただ、業務をしながら場当たり的にOJTを実施するだけでは、どうしても習熟度合いにバラつきが出てしまいます。また、新入社員等ビジネス知識が不足している場合は、OJTだけで賄いきれるものではありません。
自社の社員をきちんと育成しようとすると、OJTとOFF-JTを組み合わせた一定の研修計画に基づいた育成が必要になります。今回は、自社で社員教育の計画を作成する際のポイントについて解説します。
社員教育の主な目的
まずは、自社で社員教育を実施する目的を明確化させましょう。一般的に、社員教育の目的としては、次の3つが挙げられます。
- 知識の増強
- スキルの向上
- 意識啓発
これらのうちどれか一つだけを目的とするのではなく、知識・スキル・意識の3つが高まった状態が、社員教育の目指す姿といえるでしょう。
知識の増強
商品知識等自社業務の知識に加えて、業界の専門知識や資格の取得等が挙げられます。社員の所属部門や階層によって必要とされる知識も異なりますので、それぞれに合わせた研修プログラムが必要になります。
スキルの向上
業務に必要な専門技術や語学力等はもちろん、プレゼンテーション能力や交渉力等、スキルの向上も社員教育の目的の一つです。
意識啓発
意識啓発も社員教育の重要な目的です。特に、経営理念の浸透が多くの企業で重要視されています。
経営理念は会社の価値観であり、理念が浸透すれば社員が一体となって同じ方向に進むことができます。しかし、経営理念は何もしなくても浸透するものではありません。そのため、社員教育によって、しっかり周知していく必要があります。
また、情報漏洩防止やコンプライアンス等についても、折に触れて社員に徹底していく必要があります。
社員教育の手段
続いて、社員教育の手段について確認していきましょう。
OJT
中小企業の代表的な教育手段といえるのはOJTです。OJTは現場に任せる部分が多いですが、会社としても効果的なOJTを支援するための施策を考えても良いでしょう。
OFF-JT
社員教育計画の中心となるのが、OFF-JTです。職場や通常の業務から離れて教育を受けるため、より深く学ぶことができます。場当たり的に実施するのではなく、会社としてしっかりした教育体系を持ったうえで実施すると効果的な育成ができます。
自己啓発
社員自らの意思で学ぶことが、自己啓発です。会社としてできることは、経費補助等社員の意欲を応援する支援策が中心となります。
社員教育計画の立て方のポイント
では、社員教育の計画を立てる際にはどのような点に気をつければ良いでしょうか?ここでは、社員の教育計画を立てる際のポイントについて解説します。
自社の経営計画とリンクさせる
社員計画は、単体で存在するものではありません。自社が求めている人材は、自社がどのような方向を目指しているかということに密接に関係してくるからです。そのため、社員教育の計画は会社の経営計画とリンクさせる必要があります。
経営計画を作成していない場合は、経営者や各部門長にヒアリングを行いましょう。今後の自社が目指す方向や強化したい分野、自社の課題等を踏まえて、社員教育の計画を作っていきます。
社員教育の目標を設定する
社員教育の目標を設定することも必要です。当然ながら、新入社員と幹部社員では求められる到達水準が異なります。役職ごとにどのような能力を到達目標とするかを考慮する必要があります。
ここでは、著名な「カッツモデル」が活用できます。カッツモデルとは、アメリカの経営学者ロバート・カッツ氏が提唱した『役職に応じて必要とされる能力』の割合を考えるフレームワークです。
【カッツモデル】
カッツモデルでは、仕事に必要な能力を3つに分類しています。
- テクニカルスキル
- ヒューマンスキル
- コンセプチュアルスキル
テクニカルスキルは、業務知識や技術力等特定の業務を遂行するために必要な能力で、仕事を進めていく上での基本的なスキルとなります。
ヒューマンスキルは、指導力や折衝力等、円滑な人間関係を構築するための対人関係能力です。
そして、コンセプチュアルスキルとは、複雑な情報や状況を概念化する能力、いわば本質をみる能力です。複雑な事象の中から本質を見抜き、論理的に判断する能力や新しい物事を考える企画力等が該当します。
職位の低いスタッフ層では、実務遂行能力として「テクニカルスキル」が重視されます。職位が上がるにつれて、実務ではなくより広い視野から会社の状況を俯瞰し、課題の本質を見抜いて解決に導く「コンセプチュアルスキル」が必要となります。一方、ヒューマンスキルについては、すべての階層で必要とされます。
このように、階層によって求められる能力が異なるため、階層に応じた教育の目標設定が必要となるのです。
人事制度とリンクさせる
社員教育計画は、人事制度とリンクさせる必要もあります。
たとえば、管理職への昇進要件が一定の判断力や説明力を持つこととするのであれば、中堅社員向けに判断力等の能力を伸ばす教育を実施します。役職に応じた教育を施し、一定の水準に達したら上位役職へ引き上げます。
また、職位が上がったら、新任管理職研修のように新たな職務に必要な研修を受講させるといったように、人事制度と社員教育計画を関連付けることが大切です。
社員教育の種類
社員教育にはどのようなものがあるでしょうか?代表的なOFF-JTの研修を紹介していきましょう。
階層別研修
OFF-JTの中心となるのが階層別研修です。新入社員研修や新任管理職研修、中堅職員研修等、勤続年数や役職等、役職に応じて異なる研修を実施します。
会社が求める役割を伝え、役職ごとに求められる能力やマインドを身につけてもらう位置づけで、中長期的に社員を育成することを目的とします。
部門別研修
部門別研修とは、営業部門研修や製造開発部門研修等部門で必要となる知識・能力を身につけることを目的とした研修です。階層別研修がマインドの醸成も重視していることに比べ、部門別研修は業務にすぐに活かせる実践的な内容となっていることが多いです。
選択型研修
選択型研修は、外部研修の中から希望者が受けたいテーマ、研修を選んで受講する研修です。自己啓発を支援する位置づけでもあります。
どんなに有益な研修を受講させても、受講者当人に「やらされ感」があれば、教育効果は高くなりません。特に、教育にかけられるリソースが限られる中小企業においては、まずは意欲のある社員を応援するために選択型研修を導入することも一つでしょう。
OJT支援等その他
最後に、OJT支援やその他の研修です。明確な定義があるわけではありませんが、OJTや人事考課を支援する研修等のことです。たとえば、メンター研修やトレーナー研修、評価者研修等が挙げられます。
計画作成の流れ
最後に、社員教育の計画を作成する際の流れを、4つのステップに分けて解説しましょう。
社員教育の体系を構築する
まずは、どういった社員を対象に、どんな教育を受けさせるか、大まかにでも良いので体系化させます。
下の表のように、縦軸に社内の役職または人事等級等を記入します。横軸には階層別研修等研修の種類を入れていきますが、自社の実態に合わせた研修内容を記入しましょう。
次に、階層や等級ごとに必要な研修を当てはめていきます。人事制度とリンクさせることも意識するようにしましょう。
<社員教育体系例>
なお、教育体系案ができたら、各部門長等の意見もヒアリングしましょう。人事部門だけでなく、できるだけ多くの部門の意見も反映させることが教育体系作成におけるポイントです。
教育の手段を決定する
教育体系ができたら、実際の教育手段を検討します。内部講師で対応する方法と、外部の研修会社等に依頼する方法に分けられます。内部社員で対応できれば低コストで済みますが、適任者がいない場合は外注することになります。
また、開催方法に関しても、社内で実施する方法と、外部研修に参加させる方法があります。社内で実施すればより自社課題に合わせた内容にカスタマイズできますし、対象者が多ければ外部研修に参加するよりは低コストで実施できます。
逆に、対象者が少なければ社内開催は非効率なうえ、コストがかさみます。開催方法は、対象者の人数に合わせて考えると良いでしょう。
また、オンラインでの研修サービスも増えています。豊富な研修メニューを定額で受けられるサービスも多く、自社開催が難しい場合はオンライン研修を検討しても良いでしょう。
年間計画を作成する
教育体系や教育手段が決まったら、年間計画に落とし込んでいきましょう。予算も考慮して、年間にどれだけの研修をどの時期に実施するのか決めていきます。また、毎年実施するのか、隔年で実施するのか等、開催頻度も検討する必要があります。
新入社員研修や新任管理職研修等は、対象者が発生した際にタイムリーに開催する必要があります。一方、時期を問わない研修で対象者が少ない場合等は、何年かにまとめて開催する方が効率的だといえます。
アフターフォローを実施する
社員教育を実施した後は、見直しが必要です。社員教育時にはアンケートを実施し、改善点を次回に反映させます。また、教育体系も状況に応じて修正を加え、定期的な見直しを実施するようにしましょう。
まとめ
社員教育の計画の立て方について解説しました。「人」への投資は、短期的なリターンはなくとも、長期的には間違いなく企業を成長させてくれます。貴社の社員教育に今回お伝えしたことを活かしてみてください。
当社トライズコンサルティングでは、社員教育をはじめとして経営に関するお悩みをお持ちの事業者の方を対象としたコンサルティングも実施しています。認定支援機関として多数の中小企業事業者の皆様の経営改善で得たノウハウを、貴社のビジネスにも活用していきましょう。
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