補助金は、一定の要件を満たして申請して採択を受けることにより、国などから返済不要な資金を受け取ることができる制度です。
中でも、事業再構築補助金は補助の上限金額が大きく、注目されている補助金の一つといえます。美容室でも事業再構築補助金を活用することは可能であり、いくつか採択事例も出ています。
今回は、事業再構築補助金を美容室が活用する方法や、実際の採択事例などについて解説します。
事業再構築補助金は美容室でも使える?
事業再構築補助金は、美容室でも使える可能性があります。ただし、要件を満たして申請をしたうえで、他の募集の中から選ばれて採択されることが必要です。
また、事業再構築補助金は事業を再構築する企業に対して交付される補助金あるため、美容室を営む事業者が新たにもう1店舗美容室を開店するなどの場合には、使うことができません。
美容室が事業再構築補助金の活用を検討する際には、募集の要件をよく確認しておきましょう。
事業再構築補助金とは
事業再構築補助金は、新型コロナ禍で売り上げが減少した中小企業者などが、事業の再構築を行うために必要な費用を国が補助してくれる制度です。要件を満たして採択されることで、通常枠の場合には最大8,000万円の補助を受けることができます。
新型コロナ禍という予測困難な事態が生じたことで、既存の事業のみを今後も継続していくことに不安を感じた事業者が多いのではないでしょうか。そのような事業者が新たな活路を見出すため、新規の事業を始めるなど事業の再構築を行う際に、事業再構築補助金が活用できる可能性があるのです。
美容室が事業再構築補助金を申請するための必須要件
事業再構築補助金の申請には、要件があります。要件を1つでも満たさない場合には、苦労をして申請をしたところで採択されることはありません。
事業再構築補助金の活用を検討する際には、まず要件を満たすことができそうかどうかよく確認するようにしましょう。自社が要件を満たしているかどうかを知りたい場合は、当社トライズコンサルティングまでお問い合わせください。
新型コロナ禍で売り上げが下がっていること
事業再構築補助金の1つ目の要件は、新型コロナ禍で売る上げが減少したことです。次の1と2のいずれにも該当する場合には、この要件を満たすものとされます。
- 2020年4月以降の連続する6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月間の合計売上高が、コロナ以前(2019年または2020年1月から3月)の同3か月の合計売上高と比較して10%以上減少していること
- 2020年10月以降の連続する6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月間の合計売上高が、コロナ以前の同3ヶ月の合計売上高と比較して5%以上減少していること
なお、これらの要件を満たせなかった場合であっても、次に該当すればこの要件を満たすものとして申請をすることが可能です。
- 2020年4月以降の連続する6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月の合計付加価値額が、コロナ以前の同3ヶ月の合計付加価値額と比較して15%以上減少していること
- 2020年10月以降の連続する6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月の合計付加価値額が、コロナ以前の同3ヶ月の合計付加価値額と比較して7.5%以上減少していること
新分野展開、業態転換、事業・業種転換、事業再編のいずれかに取り組むこと
事業再構築補助金の2つ目の要件は、事業の再構築に取り組むことです。
事業再構築は、次の4つに分類されます。自社が行おうとしている内容が、これらのうちのどれに該当し得るのか確認しておきましょう。
新分野展開とは
新分野展開とは、産業分類の大分類である「主たる業種」と産業分類の中分類以下である「主たる事業」のいずれも変更することなく、新たな製品を製造したり新たな商品やサービスを提供したりすることにより、新たな市場に進出することをいいます。
美容室であれば、美容室のくくりの中で新たなサービスを展開する場合がこれに該当します。
業態転換とは
業態転換とは、製品や商品、サービスの製造方法や提供方法を相当程度変更することをいいます。
たとえば、コロナの影響により利用客が減少し売上が大幅に減少した美容室が、外出の機会を減らしたいと考える利用客や移動が難しい高齢者向けに、訪問美容サービスを新たに開始することなどがこれに該当します。
事業・業種転換とは
事業転換とは、新たな製品を製造したり新たな商品やサービスを提供したりすることにより、主たる業種を変更することなく、主たる事業を変更することをいいます。また、業種転換とは、新たな製品を製造したり新たな商品やサービスを提供したりすることにより、主たる業種を変更することです。
たとえば、美容室が新たにエステサロンやネイルサロンを始める場合などがこれに該当します。
事業再編とは
事業再編とは、合併や会社分割、事業譲渡など会社法上の組織再編行為を行い、新たな事業形態のもとに、新分野展開、事業・業種転換、業態転換のいずれかを行うことをいいます。
組織再編を行うのみで新分野展開などを行わない場合には、要件を満たせない点に注意しましょう。
認定経営革新等支援機関と事業計画を策定すること
事業再構築補助金の3つ目の要件は、認定経営革新等支援機関(認定支援機関)の支援を受けて、事業計画を策定することです。
認定支援機関とは、中小企業支援に関する専門的知識や実務経験が一定レベル以上にある者として、国の認定を受けた支援機関です。税理士や税理士法人、公認会計士、中小企業診断士、商工会・商工会議所、金融機関などが認定を受けていることが多いでしょう。
なお、受けようとする補助金の額が3,000万円を超える場合には、税理士などのみならず、金融機関も参加して策定する必要があります。
事業計画では、補助事業の終了後3年から5年のうちに次のいずれかの達成を見込む内容で策定なければなりません。
- 付加価値額の年率平均3.0%以上の増加
- 従業員一人当たり付加価値額の年率平均3.0%以上の増加
中小企業者または中堅企業に該当すること
事業再構築補助金の4つ目の要件は、申請する事業者が中小企業者または中堅企業などに該当することです。美容室の場合には、次のいずれかを満たす場合に、中小企業者に該当します。
- 資本金額が5,000万円以下
- 常時使用する従業員が100人以下
ただし、大企業の子会社であるなど実質的に大企業と変わりがない場合には、これらを満たしても中小企業者には該当しません。また、中小企業者に該当しなかったとしても、資本金等の額が10億円未満であるなどの場合には中堅企業に該当し、補助金の要件を満たすことが可能です。
事業再構築補助金で美容室が受けられる補助金額
事業再構築補助金で美容室が受け取ることができる補助金の額は、通常枠の場合、従業員の数に応じて次のとおりです。
なお、補助率は企業の規模に応じて、次のように異なります。
- 中小企業者等:3分の2(6,000万円超は2分の1)
- 中堅企業等:2分の1(4,000万円超は3分の1)
従業員数20人以下の場合
従業員数が20人以下の場合に受け取れる可能性がある事業再構築補助金の額は、100万円~4,000万円です。
従業員数21〜50人の場合
従業員数21〜50人の場合に受け取れる可能性がある事業再構築補助金の額は、100万円~4,000万円です。
従業員数51人以上の場合
従業員数51人以上の場合に受け取れる可能性がある事業再構築補助金の額は、100万円~8,000万円です。
美容室が事業再構築補助金を受けるためのモデルケース
事業再構築補助金事務局から、補助金を受けるためのモデルケースがいくつか公表されています。このうち、美容室に関する事例には、次のものがあります。
- コロナの影響により利用客が減少し売り上げが大幅に減少した美容室が、外出の機会を減らしたいと考える利用客や移動が難しい高齢者向けに、訪問美容サービスを新たに開始した事例(業態転換)
なお、この内容で事業再構築補助金を申請する場合には、次の事項を事業計画内で示す必要があります。
- 新規性要件を満たしていること
- 商品等の新規性要件または設備撤去などの要件を満たしていること
- 3年から5年の事業計画期間終了後、訪問美容サービスの提供による売上高が総売上高の10%以上となること
美容室以外にもさまざまなモデルケースが掲載されていますので、参考にすると良いでしょう。
美容室が事業再構築補助金を採択された具体的な事例
事業再構築補助金のホームページでは、実際に採択された事例が業種ごとに公表されています。ここでは、第2回公募で採択された事業のうち、美容室に関連するものをピックアップして紹介します。
- 美容室を2フロアから1フロアに集約し、空いたフロアを改装してスペースと設備を時間単位でフリーの美容師に賃貸するシェアサロンを新たに展開する事例
- 美容室を営んでいた事業者が、総合的な美容サービスを展開するエステ事業に新たに進出する事例
- 美容室内で新たに脱毛サロンを展開する事例
- 美容室、アイブロウ、よもぎ蒸し、ネイル、まつ毛エクステ、脱毛などが個室で施術できる総合美容サロンを新規で立ち上げる事例
- 美容室が新たに自宅や施設への訪問サービスを開始する事例
- 美容室経営ノウハウとデータ資産を活かし、美容室の経営支援プラットフォームを開発する事例
他にも多くの事例が掲載されていますので、こちらに目を通すことで、新たに展開する事業のヒントが得られるかもしれません。
美容室が事業再構築補助金で補助を受けられる対象経費
事業の再構築に必要となる資金だからといって、すべてが補助の対象となるわけではありません。美容室が事業再構築補助金を受ける場合に補助対象となり得る経費には、次のようなものがあります。
建物費
事業再構築補助金は、建物費が対象経費となる点で珍しい補助金です。建物費とは、もっぱら補助事業のために使用される事務所、生産施設、加工施設、販売施設、検査施設、共同作業場、倉庫その他事業計画の実施に不可欠と認められる建物の建設・改修に要する経費を指します。
たとえば、美容室の一角をエステサロンに改装するための工事に要する費用や、あらたに脱毛サロンを営むための建物を建設するための費用などがこれに該当します。なお、建物や土地の購入費は、対象となりません。
機械装置・システム構築費
機械装置・システム構築費とは、もっぱら補助事業のために使用される機械装置などの購入などに要する経費や、もっぱら補助事業のために使用される専用ソフトウェア・情報システムなどの購入などに要する経費、これらの据え付けにかかる費用などです。
専門家経費
専門家経費とは、本事業遂行のために依頼した専門家に支払われる経費のことです。
ただし、専門家の類型ごとに1日あたりの謝金に上限が設けられているほか、 応募申請時の認定経営革新等支援機関等に対する経費や事業計画の作成を支援した外部支援者に対する経費は専門家経費の補助対象外となる点には注意してください。
広告宣伝・販売促進費
美容室が新たな取り組みをする際には、その取り組みを顧客に知ってもらう必要があります。そのためのチラシ作成費用やホームページの制作費用なども、原則として補助の対象となります。
研修費
研修費とは、事業の遂行のために必要な教育訓練や講座受講などにかかる経費です。
たとえば、美容室が新たに脱毛サロンを始めるために、従業員に脱毛についての研修を受けされる費用などがこれに該当すると考えられます。
美容室が事業再構築補助金を申請する際の注意点
美容室が事業再構築補助金を申請する際には、次の注意点についてよく理解しておくようにしましょう。
必ずしも採択されるとは限らない
事業再構築補助金は、上で記載をした要件を満たして申請したからといって、必ず補助金が受け取れるわけではありません。要件を満たして申請を行い、さらにその中から採択されることが必要です。
事業再構築補助金のホームページには採択結果が掲載されています。これによれば、第1回公募の採択結果は次のとおりであり、要件を満たした件数に占める採択事業の割合は、42%程度でした。
- 応募件数:22,231件
- 応募のうち申請要件を満たしたもの:19,239件
- 採択件数:8,016件
また、第2回公募の結果は次のとおりであり、要件を満たした件数に占める採択率は51%程度です。
- 応募件数:20,800件
- 応募のうち申請要件を満たしたもの:18,333件
- 採択件数:9,336件
いずれも他の補助金と比べて比較的低い採択率となっており、競争率が高いことがわかります。要件を満たしても、約半数は採択がされないことを知っておきましょう。
土地や建物の購入費は補助対象とならない
事業再構築補助金では、補助事業に必要となる建物を新築する費用や改装する費用は補助の対象です。一方で、土地や建物などの購入費は補助対象となりません。
美容室が新たな事業を始めるにあたり、土地の購入や既存建物の購入が必要となる場合もあるかと思います。これらの費用は、事業再構築補助金の対象にはならないことを知っておきましょう。
単なる新店舗出店は対象外
先ほど解説したように、事業再構築補助金は事業の再構築に対して受けられる補助金です。そのため、たとえば美容室を営む事業者が単に美容室の2号店を出店するというのみでは、要件を満たす可能性は低いでしょう。
採択後も報告などの手続きが必要となる
事業再構築補助金は、採択の時点ですべて完了するわけではありません。
その後、実際に申請をした事業を実施して、その結果を報告する必要があります。報告内容に問題がないと判断されて、ようやく補助金を受け取ることができるのです。
この、採択後の報告にも、相応の手間がかかることを知っておきましょう。
補助金は後払い
事業再構築補助金を受け取ることができるタイミングは、事業実施後の後払いです。つまり、たとえ補助金が採択されたとしても、いったんは融資など他の方法で調達した資金で事業を実施する必要があります。その後、支払われた補助金にて融資を返済するという流れです。
採択がされたからといってすぐにお金が受け取れるわけではありません。全体の流れをしっかりと把握しておいてください。
まとめ
事業再構築補助金は、美容室でも活用することが可能です。
新型コロナの影響で利用を控えた顧客が増えたことで売り上げが減ってしまった美容室は少なくないかと思います。事業再構築補助金を活用して、新たな事業の柱をつくることを検討してみてはいかがでしょうか?
しかし、事業再構築補助金は要件も複雑であり、自社のみで申請することは決して容易ではありません。事業再構築補助金の申請をしたいとお考えの方は、当社トライズコンサルティングへご相談ください。
当社は、クライアント様に寄り添いながら限りなく高品質な事業計画書の策定を支援します。たとえば「ものづくり補助金」では、2019・2020年度採択率97%という高い補助金採択率を誇り、採択後も補助金を受け取れるまでしっかりとサポートしております。
また、代表の野竿は認定経営革新等支援機関として事業再構築補助金の申請サポートを実施しています。ぜひ当社をご活用いただき、新たな事業へ向けた確実な一歩を踏み出してはいかがでしょうか?