2022年に突入しても、新型コロナウイルスの感染拡大は止まることを知らず、いまだにアフターコロナを迎えることはできていません。そのような状況の中、最低賃金の引き上げやインボイス制度の導入などの法改正、IoT・DXへの対応や原油価格・材料費の高騰により、中小企業はかつてない窮地に立たされています。
今回は、そのような厳しい経営環境下にある中小企業様の事業継続のため、2022年にぜひ活用していただきたい主だった補助金について解説します。特に、コロナ禍を経て新設された制度や内容が変更になった点に焦点を当て、補助金に詳しくない方にもわかりやすく説明します。
ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)
「ものづくり補助金」は、主に製造業の生産性向上となる設備投資に利用されることの多い制度です。小売業やサービス業、建設業でも利用することは可能です。
補助金額は、例年募集されているものは1,000万円と比較的大きな金額となっており大変人気な制度ですが、その分、難易度も高めになっています。申請時に作成する3〜5年の事業計画においては次の条件を満たす必要があります。
- 付加価値額+3%以上/年
- 給与支給総額+1.5%以上/年
- 事業場内最低賃金≧地域別最低賃金+30円
「付加価値額」と「給与支給総額」に加え、「事業場内最低賃金」の要件が追加されました。これらの要件は、補助金入金後も事業期間にわたって毎年システム上で事務局に報告し、未達の場合には、補助金の返還を求められます。
2022年3月15日より募集が開始された10次締切分より、制度が大きく変更になっているため、そのポイントを解説します。
申請類型の創設
「一般型」に新たに3つの申請類型が創設されました。これらの申請類型に応募するには、前述した条件に加え、それぞれに設定された要件をクリアすることを求められます。
回復型賃上げ・雇用拡大枠
- 補助率:2/3
- 補助上限:750万円~1,250万円
デジタル枠
- 補助率:2/3
- 補助上限:750万円~1,250万円
グリーン枠
- 補助率:2/3
- 補助上限:1,000万円~2,000万円
なお、「グローバル展開型」については、これまでどおり継続となっています。
補助対象事業者の見直し
「特定事業者」のうち、資本金の額または出資の総額が10億円未満である事業者も申請できるようになりました。対象となる「特定事業者」は、従業員数が下表の数字以下となる会社または個人です。
業種 | 常勤従業員数 |
製造業、建設業、運輸業 | 500人 |
卸売業 | 400人 |
サービス業または小売業 (ソフトウェア業、情報処理サービス業、旅館業を除く) | 300人 |
その他の業種(上記以外) | 500人 |
なお、「特定事業者」とは、2021年8月に一部施行された「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律」において、新たに支援対象類型として追加された中小企業から中堅企業へと成長途上にある企業を指します。
従業員規模に応じた補助金額の設定
9次締切分までは、従業員の数で補助金額の上限に違いはありませんでしたが、10次締切分からは「一般型」について次のとおり変更されています。
通常枠、回復型賃上げ・雇用拡大枠、デジタル枠
- 従業員数5人以下:100万円〜750万円
- 6人〜20人:100万円〜1,000万円
- 21人以上:100万円〜1,250万円
グリーン枠
- 従業員数5人以下:100万円〜1,000万円
- 6人~20人:100万円〜1,500万円
- 21人以上:100万円〜2,000万円
補助金額は、すべて経費から消費税分を差し引いた金額に補助率を乗じたものになります。なお、「グローバル展開型」については、補助上限3,000万円と、これまでどおりの募集となっています。
小規模事業者持続化補助金
フリーランスや家族経営など比較的、小規模な事業者に使いやすい補助金が「小規模事業者持続化補助金」です。小規模事業者の販路開拓等に資する取り組みを支援する制度で、例年、補助率2/3、補助上限50万円で募集されています。
小規模事業者の定義は次に示すとおりです。
- 宿泊業・娯楽業を除く商業・サービス業においては5名以下
- サービス業のうち宿泊業・娯楽業においては20名以下
- 製造業その他の業種で20名以下
申請のための事業計画はA4サイズに5〜8枚程度と、他の補助金と比較して申請は簡易です。その分、競争率も高くなります。
過去には、西日本豪雨や新型コロナの対策として、補助率・補助上限を引き上げ、対象経費を拡大した特別枠も募集されています。2019年度補正予算から引き続いて募集されていますが、第8回受付から制度が大幅に変更されているため、そのポイントを解説します。
6つの申請類型の創設
2022年の募集では、賃上げやインボイス制度の導入等を受け、次のとおり「通常枠」を含む6つの申請類型が準備されています。
通常枠
- 補助上限:50万円
- 補助率:2/3
賃金引上げ枠
- 補助上限:200万円
- 補助率:2/3※赤字事業者については3/4
卒業枠
- 補助上限:200万円
- 補助率:2/3
後継者育成枠
- 補助上限:200万円
- 補助率:2/3
創業枠
- 補助上限:200万円
- 補助率:2/3
インボイス枠
- 補助上限:100万円
- 補助率:2/3
「通常枠」以外へ申請する場合は、小規模事業者であることはもちろん、それぞれに設定された要件を満たす必要があります。
加点項目の追加
2021年に募集されていた「一般型」や「低感染リスクビジネス枠」と比較して、審査の加点項目が拡充されています。それぞれ該当する要件は次のとおりです。
- パワーアップ型加点:地域資源等を活用し、地域外への販売や新規事業立ち上げを行う「地域資源型」と地域の課題解決や暮らしの需要に応えるサービスを提供する「地域コミュニティ型」の2類型
- 赤字賃上げ加点:「賃金引上げ枠」に申請する事業者のうち、赤字である事業者
- 経営力向上計画加点:「中小企業等経営力強化方」に基づく「経営力強化計画」の認定を受けている事業者
- 電信申請加点:補助金申請システム(名称:「Jグランツ」)を用いて電子申請を行った事業者
- 事業承継加点:代表者の年齢が満60歳以上で、かつ、後継者候補が補助事業を中心となって行う場合
- 東日本大震災加点:東京電力福島第一原子力発電所の風況被害を克服するため、新たな販路開拓等に取り組む太平洋沿岸部に所在する水産仲買業者及び水産加工業者
- 過疎地域加点:過疎地域に所在し、地域経済の持続的発展につながる取り組みを行う事業者
- 災害加点:2022年3月16日に発生した福島県沖を震源とする地震の影響により、再建が極めて困難な状況にある地域に所在する事業者
- 事業環境変化加点:ウクライナ情勢や原油価格、LPガス価格等の高騰による影響を受けている事業者
加点の適用を受けるためには、公募要領に記載された手続きを踏む必要があります。
ウェブサイト関連費の補助上限
2022年の募集から大きく変更された点としては、「ウェブサイト関連費費」に対し、補助金額の上限が設定されたことが挙げられます。販路開拓等への取り組みを目的とした制度であるため、これまで数多くの小規模事業者がこの制度を利用して自社ホームページや通販サイトを構築してきましたが、今回より次の制限が設けられました。
- 補助金交付申請額の1/4が上限
たとえば、決定した補助金額を50万円と仮定した場合、その1/4である12.5万円までを「ウェブサイト関連費」として対象経費とすることが可能です。なお、ウェブサイト関連費のみによる申請は受け付けられません。
事業再構築補助金
2021年より、ウィズコロナ・アフターコロナでの事業転換に取り組む中小企業を支援する目的で募集されている補助金が「事業再構築補助金」です。毎回2万社を超える申し込みが行われ、コロナ禍で影響を受けた飲食業や宿泊業、思い切った設備投資を行う製造業をはじめ、業種まんべんなく採択されています。申請するための基本となる要件は次のとおりです。
- コロナ以前と比較し、売上高が10%以上減少していること
- 「新分野展開」「業態転換」「事業・業種転換」「事業再編」のいずれかに取り組むこと
- 事業計画を「認定経営革新等支援機関」(補助金額が3,000 万円を超える案件は、「認定経営革新等支援機関」および金融機関(金融機関が「認定経営革新等支援機関」であれば当該金融機関のみでも可))と策定していること
- 補助事業終了後3〜5年で付加価値額の年率平均 3.0%以上増加、または従業員一人当たり付加価値額の年率平均3.0%以上増加する見込みの事業計画を策定すること
2022年6月8日に受付が開始された第6回公募より、制度が大幅に変更されているため、そのポイントを解説します。
売上高10%要件の緩和
基本の申請要件のうち、「コロナ以前と比較し、売上高が10%以上減少していること」の要件が緩和されました。第3回公募から募集時の変更で追加された次の項目が撤廃されています。
- 2020年10月以降の連続する6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月間の合計売上高がコロナ以前と比較して5%以上減少していること
これにより、売上高減少要件は次の項目のみとなります。
- 2020年4月以降の連続する6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月間の合計売上高が、コロナ以前(2019年または2020年1~3月)の同年3ヶ月の合計売上高と比較して10%以上減少していること
この変更により、さらに多くの中小企業の申請が可能になりました。
申請類型の創設
第6回・第7回公募時において、新たに3つの申請類型が追加されました。それぞれの補助率・補助金額は次のとおりです。
回復・再生応援枠
- 補助率:
- 中小事業者等:3/4
- 中堅企業等:2/3
- 補助金額:
- 従業員数5人以下:100万円〜500万円
- 従業員数6〜20人:100万円〜1,000万円
- 従業員数21人以上:100万円〜1,500万円
グリーン成長枠
- 補助率:
- 中小事業者等:1/2
- 中堅企業等:1/3
- 補助金額:
- 中小企業者等:100万円〜1億円
- 中堅企業等:100万円〜1.5億円
緊急対策枠
- 補助率:
- 中小事業者等:3/4(従業員5人以下の場合500万円を超える部分、従業員数6〜20人の場合1,000万円を超える部分、従業員21人以上の場合1,500万円を超える部分は2/3)
- 中堅企業等:2/3(従業員5人以下の場合500万円を超える部分、従業員数6〜20人の場合1,000万円を超える部分、従業員21人以上の場合1,500万円を超える部分は1/2)
- 補助金額:
- 従業員数5人以下:100万円〜1,000万円
- 従業員数6〜20人:100万円〜2,000万円
- 従業員数21〜50人:100万円〜3,000万円
- 従業員数51人以上:100万円〜4,000万円
これらの申請類型に申請する場合には、基本の申請要件のほかに、それぞれに設定された要件が追加で求められます。
また、不採択の場合は「通常枠」で再審査され、「回復・再生応援枠」の場合は、事業者の手続きは不要ですが、「グリーン成長枠」と「緊急対策枠」の場合は、売上高等減少要件を満たすことを示す書類を提出する必要があります。
なお、これらの創設に伴い、「緊急事態宣言枠特別枠」・「卒業枠」・「グローバルV字回復枠」は廃止となりました。
通常枠の補助上限の見直し
また、「通常枠」の補助上限について、中小企業等・中堅企業等ともに従業員数に応じて次のとおり変更されました。
- 従業員数20人以下:100〜2,000万円
- 従業員数21人〜50人:100〜4,000万円
- 従業員数51人〜100人:100〜6,000万円
- 従業員数101人以上:100〜8,000万円
第5回公募時と比較して、従業員数100人以下の企業がそれぞれ補助金額を引き下げられています。
IT導入補助金
中小企業等が自社の課題やニーズにあったITツールを導入し、経費の一部を補助することで、業務の効率化や売上向上を支援するものが「IT導入補助金」です。
事務局に登録されている「IT導入支援事業者」から提案されるITツールの導入が補助対象となっています。
2022年の募集では、「通常枠」の「A類型」「B類型」に加え、「デジタル基盤導入枠」として「デジタル化基盤導入類型」・「複数社連携IT導入類型」と「セキュリティ対策推進枠」が設けられました。今回は、特に支援の手厚い「デジタル化基盤導入類型」について解説します。
補助率の引き上げ
「通常枠」の「A類型」「B類型」において補助率は1/2以内となっていますが、「デジタル化基盤導入類型」では補助金額に応じて次のとおり引き上げられています。
- 5万円〜50万円以下:3/4以内
- 50万円超〜350万円:2/3以内
クラウド利用費最大2年分
「デジタル化基盤導入類型」では、「通常枠」の「A類型」「B類型」では1年分であった「クラウド利用料」が最大2年分まで拡充されています。DX推進の波により、クラウド型サービスの利用に対する需要を見据えたものと考えられます。
ハードウェア購入費も補助対象
「デジタル化基盤導入枠」では、自治体の募集する多くの補助金で対象外となっている「ハードウェア購入費」も経費として認められています。
PC・タブレット・プリンター・スキャナーおよびそれらの複合機器
- 補助率:1/2以内
- 補助上限額:10万円
レジ・券売機等
- 補助率:1/2以内
- 補助上限額:20万円
事業承継・引継ぎ補助金
2022年8月現在、「事業承継・引継ぎ補助金」は2021年度補正予算と2022年度当初予算が同時に募集されています。
代表者の高齢化する中、なかなか事業承継が進まない状況で、新型コロナウイルスの影響で休業・廃業を考える中小企業が増えています。こうした状況の中、長年蓄積された技術やノウハウなどの経営資源の喪失、地域の活力減退にブレーキをかけるため、国は手厚い支援を用意しています。
今回は、2022年7月25日に募集が開始された2022年度当初予算について解説していきます。
3つの事業を設定
2022年度当初予算の「事業承継・引継ぎ補助金」には、次の3つの支援の枠組みがあります。
- 経営革新:「創業支援型(Ⅰ型)」「経営者交代型(Ⅱ型)」「M&A(Ⅲ型)」の3つの類型が設けられ、事業承継を契機とした経営革新に係る取組みに要する設備投資や販路開拓等に係る取組費用の一部を補助
- 専門家活用:「買い手支援型(Ⅰ型)」「売り手支援型(Ⅱ型)」の2つの類型が設けられ、事業の再編や統合による経営資源の引継ぎに係る経費の一部を補助
- 廃業・再チャレンジ:廃業・再チャレンジを行う中小企業等を支援し、「経営革新」「専門家活用」事業との併用申請と単独申請の2類型を設定
補助上限・補助率の減額
2021年度補正予算と比較して、補助率・補助上限額が減額されています。
申請類型 | 2022年当初予算 | 2021年度補正予算 |
経営革新 | 補助率:1/2以内 補助上限:500万円以内(※生産性向上に関する要件などを満たす場合) | 補助率:2/3以内(※補助額が400万円を超える部分は1/2以内) 補助上限:600万円以内(※生産性向上に関する要件などを満たす場合) |
専門家活用 | 補助率:1/2以内 補助上限:400万円以内(※引継ぎが実現しない場合は200万円以内) | 補助率:2/3以内 補助上限:600万円以内(※引継ぎが実現しない場合は300万円以内) |
廃業・再チャレンジ | 補助率:1/2以内 | 補助率:2/3以内 |
中小M&Aの手数料も補助対象
「専門家活用」事業における委託費のうち、FA・仲介業務に係る相談料、着手金、成功報酬等は、「M&A支援機関登録制度」に登録された業者が支援したものに限り、補助対象とすることが可能です。
まとめ
2022年に募集されている補助金について、特に変更のあった点に焦点を当てて解説しました。
新型コロナウイルスの拡大や原油価格の高騰等を受け、目まぐるしく変わる環境に対応するため、国もさまざまな取り組みを行っています。日々の情報収集を積極的に行い、ぜひ御社の発展に活用していきましょう。
当社トライズコンサルティングでは、支援先における高い補助金の採択率を有し、クライアントの状況に合わせたベストなご提案をすることが可能です。相談は無料ですので、ぜひお気軽にお問い合わせください。