新型コロナウイルスの影響が長期化しています。売り上げが不安定になったり、資金繰りに不安を感じられたりする事業者も多いのではないでしょうか?
今回は、専門家の支援を受けながら自社の経営状況を見直すことができる「早期経営改善計画策定支援事業」(通称:ポストコロナ持続的発展計画事業)を紹介します。
早期経営改善計画策定支援事業とは
早期経営改善計画策定支援事業とは、中小企業等が士業専門家など認定支援機関(※)の支援を受けて、早期経営改善計画の作成に取り組む費用を3分の2(上限20万円)まで支援してもらえる事業です。
ポイントは、早期ということで、金融機関への返済条件等の変更が必要な状況にまでなっていないことです。資金繰りが行き詰まってからではなく、早い段階で自社の経営状況を見直し、金融機関との円滑なコミュニケーションを図ることを目的とします。たとえるのであれば、病気になってから病院に駆け込むのではなく、健康なうちに状況を把握する経営の健康診断ともいえるでしょう。
なお、病気になってしまった場合、すなわち資金繰りが行き詰まり金融機関への返済条件変更が必要な段階になると、「経営改善計画策定支援事業」(通称:405事業)が利用できます。こちらも士業専門家等の支援費用を3分の2(上限200万円)まで補助してもらえます。
※:認定支援機関とは、中小企業を支援できる機関として、経済産業大臣が認定した機関です。全国で3万以上の金融機関、支援団体、税理士、中小企業診断士等が認定を受けています。
早期経営改善計画策定支援事業の概要
では、早期経営改善計画策定支援事業とは、具体的にどのような事業でしょうか?特徴など概要について解説しましょう。
特徴
早期経営改善計画策定支援事業の特徴としては、次の3点が挙げられます。
経営計画の早期作成
経営計画とは、会社を経営していく上での道標のようなものです。とはいえ、重要性を理解しながらも、多忙な業務の中なかなか経営計画作成まで手が回らないという経営者も多いのではないでしょうか?
本事業を利用すれば、専門家の支援を受けながら基本的な経営計画を作成することができます。また、資金計画予定表ツールなどを活用して、自力でゼロから経営計画を作成するよりは、スピーディーに作成することができます。
専門家のフォローアップ
計画を作成するだけでは意味がありません。達成状況をきちんと把握し、PDCAを回していくことが重要です。しかし、実際には「計画を立てただけ」といった事態に陥ることも少なくないでしょう。
その点、本事業を利用すれば、計画策定から1年後に専門家がフォローアップし、進捗を確認してくれます。計画通りに進んでいない場合、何が問題なのかアドバイスももらえますし、より計画の達成可能性が高まるといえるでしょう。
自社の状況を客観的に把握
一番重要なことは、自社の状況を客観的に把握できることです。専門家の支援も受けることで、より多面的な視点での分析が可能になり、新たな気づきが得られることも多いでしょう。
メリット
続いて、早期経営改善計画策定支援事業のメリットには次3点が挙げられます。
資金繰りの把握が容易になる
「かんたん資金予定表作成ツール」が用意されており、資金計画表を作成したことがない人でも、質問に答えるだけで簡単に資金計画表を作成することができます。資金計画表を作成することで、漠然とした資金繰りへの不安を解消することができます。
金融機関との円滑なコミュニケーション
計画書に基づき、現状や事業の将来像を金融機関と共有できるようになります。国の施策である本スキームを利用することで、金融機関も理解・協力しやすくなります。
費用の補助
専門家へ支払う支援費用を3分の2(上限20万円)まで補助してもらえます。全額自費となると躊躇してしまうかもしれませんが、補助を受けることで依頼しやすくなります。
こんな経営者におすすめ
経営計画作成の重要性を鑑みると、すべての中小企業経営者に必要な事業ですが、特に次のような経営者におすすめです。
- 資金繰りが不安定になっている
- 売り上げが減少し、先行きがわからず不安を感じている
- 自社の状況を客観的に把握し、経営課題や優先事項を把握したい
- できれば安い費用で、専門家の支援を受けて経営計画を作成したい
早期経営改善計画について
続いては、早期経営改善計画で作成する資料はどのようなものがあるのか、具体的に解説していきます。
ビジネスモデル俯瞰図
主な顧客と仕入れ先(外注先)を記載することで商流を見える化します。専門家と対話しながら課題を抽出し、改善策を検討します。
資金実績・計画表
今期を含めた過去の資金実績表を作成します。各項目の実績を月別に記載し、自社の資金の動きを把握します。現状が把握できたら、将来の資金計画表を作成します。
アクションプラン
ビジネスモデル俯瞰図と資金実績・計画表に基づき抽出した課題の解決方法を、具体的なアクションプランに落とし込みます。いつ、誰が、何をするか明確に記載するようにしましょう。
数値計画(損益計画)
アクションプランの改善効果を数値化し、損益計画に反映させます。専門家は、経営者と対話しながらアクションプランと数値計画の進捗状況を確認します。
早期経営改善計画イメージ(中小企業庁ホームページより引用)
早期経営改善計画策定支援事業利用申請の流れ
続いて、早期経営改善計画策定支援事業を利用する流れについて解説します。専門家(認定支援機関)および金融機関とタッグを組んで利用する流れとなっています。
利用申請
まずは、利用申請です。
中小企業等事業者は、専門家(認定支援機関)と連名で「経営改善支援センター事業利用申請書(早期経営改善計画)」を、経営改善支援センターに提出します。経営改善支援センターとは、経営改善計画策定支援事業のために設置された国の機関で、各都道府県に一つずつ設置されています。
また、利用申請にあたっては金融機関から事前相談書を取り付け、上記利用申請書と合わせて経営改善支援センターへ提出します。経営改善支援センターで申請内容を確認し、支援が適切と判断されたら専門家(認定支援機関)へ通知が行きます。
計画策定
中小企業等事業者は、専門家(認定支援機関)と一緒に、前述のビジネスモデル俯瞰図など早期経営改善計画の資料を策定します。出来上がった計画は金融機関にも提出します。
単に書面を提出するだけでなく、金融機関担当者に計画を説明する場を設定してもらっても良いでしょう。金融機関に自社の事業をより理解してもらえるため、支援を取り付けやすくなります。
支払い申請
中小企業等事業者は、専門家(認定支援機関)と連名で「経営改善支援センター事業費用支払申請書(早期経営改善計画)」を、経営改善支援センターに提出します。
このときに、受取書など金融機関へ計画を提出したことを確認できる書面も一緒に提出ます。経営改善支援センターは、早期経営改善計画と支払申請書を確認し、中小企業事業者が専門家に支払った早期経営改善計画策定費用のうち3分の2(上限額20万円)を交付します。
モニタリング
専門家(認定支援機関)は、計画策定の1年後に進捗を確認するモニタリングを実施します。その後、経営改善支援センターに対し、モニタリング費用支払申請書(早期経営改善計画)およびモニタリング報告書を提出します。
経営改善支援センターは、モニタリング報告書と支払申請書を確認し、中小企業事業者が専門家に支払ったモニタリング費用のうち3分の2(上限額5万円)を交付します。
なお、本事業全体の補助上限額が20万円であるため、早期経営改善計画策定費用で交付された金額が20万円に達した場合は、モニタリング費用は補助されません。
早期経営改善計画策定支援事業の活用事例
最後に、早期経営改善計画策定支援事業の活用事例を紹介しましょう。
事例1:即席めん類製造業
まずは、製造業の事例を紹介します。
申請時の状況
保有している機械が小ロット向きで、大量生産の受注があると作業効率が落ちることが課題だった。また、追加の設備投資をしたくても、手元資金に余裕がなく、調達の目処も立ちにくい状況であった。
経営改善計画の主な内容
- 経営戦略の見直し
- アクションプランの策定
- 営業活動内容の社内共有
- 計数・借入金返済計画の作成
策定の効果
- 自社の強み(小ロット生産が可能)を再認識できた。
- オリジナル商品や販促品の製作など、少量生産を希望する先の新規開拓に活路を見出した。結果として新規取引先を10社獲得し、売上・利益とも増加したうえ、設備稼働率も向上した。
- 銀行に金融支援(債務の一本化)に応じてもらい、返済負担の軽減につながった。
- 従業員ともビジョンが共有でき意欲向上につながった。
第三者である専門家(認定支援機関)と一緒に計画策定する中で、自社の強みややるべきことが明確になった好事例です。
本事例では、課題だと考えていた小ロット生産が逆に強みであることに気づくことができました。経営者だけでは気づきにくい強みも、専門家との対話の中で気づかされることもあります。
また、早期経営改善計画策定支援事業は、金融機関への返済条件変更を目的とはしていませんが、結果的に金融機関の理解を得られたことで、本事例のように金融支援に応じてもらえる場合もあります。
事例2:飲食業
続いて、飲食業の事例を紹介します。
申請時の状況
メニューを増やし売り上げを伸ばしたものの、利益につなげることができず資金繰りが苦しくなってしまった。恒常的に運転資金が不足しており、借入金の資金繰り調整が煩雑で、支払利息の負担も過大であった。
経営改善計画の主な内容
- 経営戦略・営業戦略の見直し
- 高利益率品目の販売強化施策の実行
- 税理士と連携して資金繰り管理の実施
- 計数・借入金返済計画
策定の効果
- 人件費以外に新たなコスト削減の余地を見出すことができた。
- 売掛金・買掛金のズレの発生タイミングと原因がわかり、資金ショートの懸念の解消に目処がついた。
- 品目ごとの収益性を把握でき、適切な価格設定の方法がわかった。
- 収益性が改善し、長期借入金の返済に目処がたち、資金繰りの懸念も解消。税理士に資金繰り管理を支援してもらい、本業に専念できるようになった。
- 銀行とコミュニケーションが取れるようになり、金融支援につながった。
本事例では、収益性や資金繰りの改善ができました。普段から資金繰り表を作成している中小企業は意外に少ないと聞きます。
しかし、資金繰りをきっちり管理できていないと、儲かっているのに現金が足りないという事態にもなりかねません。最悪の場合、黒字倒産にもつながってしまいます。本事例では、早期経営改善計画策定支援事業をきっかけに、税理士に資金繰り支援をしてもらえるようになりました。
また、事例1、2とも金融機関との関係性が改善しています。専門家(認定支援機関)も交えて、早期経営改善計画策定支援事業のスキームを活用することで、金融機関とのコミュニケーションを円滑にすることができるのです。
まとめ
早期経営改善計画策定支援事業について解説しました。
補助金の獲得のように、直接的な利益につながるものではありませんが、間違いなく会社を長期的に強くしてくれる事業です。ぜひ一度利用を検討されてはいかがでしょうか?
なお、この事業は専門家(認定支援機関)とタッグを組むことが必須になっています。当社トライズコンサルティングも認定支援機関として、多数の中小企業事業者の皆様の経営改善に尽力しております。ご相談は無料ですので、ぜひお気軽にお問い合わせください。