ドローンは、農薬の散布に代表されるスマート農業や外壁検査事業、広大な範囲の測量など多くの産業で活躍の場を広げています。経済産業省によると、日本国内のドローンビジネスの市場規模は、2020年度には前年比37%増の1,932億円に拡大しており、2025年度には6,427億円に達する見込みとなっています。
こうした背景から、自社でドローンの導入を検討するも、「ドローンの購入費が高い」「ドローンをどのように活用すれば良いかわからない」といった問題で導入を躊躇する企業も少なくありません。そこで、この記事ではドローンを導入する際に利用できる補助金制度である「ものづくり補助金」の概要と、ドローン事業をどのように展開していくのか、実際の採択例を交えながら紹介します。
ものづくり補助金とは
ものづくり補助金とは、中小企業庁が設立した補助金制度で、正式名称は「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」といいます。略して「ものづくり補助金」と呼ばれています。
補助金は設立目的に合致する取組を支援するために支払われる資金で、原則として返済する必要はありませんし、担保や保証人を用意する必要もありませんので、補助金利用を検討しやすい補助金です。
対象者
ものづくり補助金の対象者は、日本国内に本社と補助事業の実施場所がある中小企業や個人事業主です。中小企業に該当するかどうかは資本金または従業員数で定められていますが、業種によって基準が異なります。
業種 | 資本金 | 常勤の従業員数 |
製造業・建設業・運輸業 | 3億円 | 300人 |
卸売業 | 1億円 | 100人 |
サービス業(ソフトウェア業・情報処理サービス業・旅館業を除く) | 5,000万円 | 100人 |
小売業 | 5,000万円 | 50人 |
ゴム製品製造業(自動車又は航空機用タイヤ及びチューブ製造業並びに工業用ベルト製造業を除く) | 3億円 | 900人 |
ソフトウェア業又は情報処理サービス業 | 3億円 | 300人 |
旅館業 | 5,000万円 | 200人 |
その他の業種(上記以外) | 3億円 | 300人 |
また、企業の規模以外に、以下の要件を満たす3〜5年の事業計画を策定し、実行する必要があります。
- 付加価値額が年率で平均3%以上増加する
- 事業場内最低賃金が地域別の最低賃金より30円増加する
- 従業員への給与支給総額が年率1.5%増加する
その他、いわゆる「みなし大企業」や法人格のない任意団体が対象外だったり、類似の補助金を過去3年間に2回以上交付されている事業者が対象外だったりと、細かい規定が設定されています(詳しくはものづくり補助金の公募要領で確認してください)。
補助金額
ものづくり補助金には事業類型があり、それぞれの類型毎に補助金額や補助率が定められています。
事業類型 | 概要 | 補助上限額 | 補助率 |
一般型 | 新製品・新サービス開発・生産プロセスの改善に必要な設備投資及び試作品開発を支援 | 1,000万円 | 中小:1/2 小規模:2/3 |
低感染リスク型ビジネス枠 | 一般型の補助対象に加えて、広告宣伝・販売促進費も対象 | 1,000万円 | 2/3 |
グローバル型 | 海外事業(海外拠点での活動を含む)の拡大・強化等を目的とした設備投資等を支援 | 1,000万円 | 中小:1/2 小規模:2/3 |
2021年には、一般枠に「低感染リスク型ビジネス枠」という特別枠が新設されました。この枠は新型コロナウイルスに対応するための特別枠で、次のようなメリットがあります。
- 補助率が2/3に拡大する
- 広告宣伝・販売促進費も補助の対象となる
- 採択されなかった場合でも通常枠で優先的に採択される
低感染リスク型ビジネス枠で申請するためにはオンラインビジネスへの転換やロボットシステムの導入によるプロセス改善等に取り組む必要がありますが、上記のようなメリットがあることから、要件を満たす場合には特別枠で申請した方が有利です。
採択率
採択結果が発表されている7次までの採択結果は、次のようになっています。
採択発表日 | 応募者数 | 採択者数 | 採択率 | ||
1次 | 令和2年4月28日 | 2,287 | 1,429 | 62.5% | |
2次 | 令和2年6月30日 | 5,721 | 3,267 | 57.1% | |
3次 | 令和2年9月25日 | 6,923 | 2,637 | 38.1% | |
4次 | 一般型 | 令和3年2月18日 | 10,041 | 3,132 | 31.2% |
グローバル型 | 271 | 46 | 17.0% | ||
5次 | 一般型 | 令和3年3月31日 | 5,139 | 2,291 | 44.6% |
グローバル型 | 160 | 46 | 28/8% | ||
6次 | 一般型 | 令和3年6月29日 | 4,875 | 2,326 | 47.7% |
グローバル型 | 105 | 36 | 34.3% | ||
7次 | 一般型 | 令和3年9月27日 | 5,414 | 2,729 | 50.4% |
グローバル型 | 93 | 39 | 41.9% |
採択率は応募者数が増加した3次、4次では3割程度まで落ち込んだものの、そこからは増加傾向となり、7次では5割を超える採択率となっています。採択率の増加傾向の理由としては、ものづくり補助金の予算額が増えたこと、回数を重ねて採択される事業の傾向が見えてきたこと等が挙げられます。
ドローン事業はものづくり補助金の対象
続いては、ものづくり補助金の対象となる経費、つまりどのようなことにものづくり補助金を使っても良いのかに関して解説します。
ものづくり補助金で認められる経費
ものづくり補助金の対象経費は、申請区分によって次の10項目に区分されています。各経費に沿った資金使途でなければ補助金を申請しても採択されることはありません。
一般型(通常枠)の対象経費
まず、一般型(通常枠)で申請する際の対象経費は下記の通りです。
- 機械装置・システム構築費用:事業のために使用される機械装置、工具器具の購入、製作、借用に要する経費や、使用される専用ソフトウェア、情報システムの購入、構築、借用に要する経費、またこれらの修繕や据付に係る経費
- 技術導入費:事業の遂行のために必要な知的財産権等の導入に要する経費
- 専門家経費:事業の遂行のために依頼した専門家に支払われる経費
- 運搬費:運搬料、宅配、郵送料等に要する経費
- クラウドサービス利用費:クラウドサービスの利用に関する経費
- 原材料費:試作品の開発に必要な原材料及び副資材の購入に要する経費
- 外注費:新製品、サービスの開発に必要な加工や設計デザイン、検査等の一部を請負や委託等の外注する場合の経費
- 知的財産権等関連経費:新製品、サービスの開発成果の事業化にあたり必要となる特許権等の知的財産権等の取得に要する弁理士の手続代行費用や外国特許出願のための翻訳料等、知的財産権等取得に関連する経費
一般型(低感染リスク型ビジネス枠特別枠)の対象経費
一般型(低感染リスク型ビジネス枠特別枠)で申請する際には、上記の8項目に加えて下記の項目も対象となります。
9. 広告宣伝・販売促進費:事業で開発する製品、サービスにかかるパンフレットや動画、写真等の広告の作成及び媒体掲載、展示会出展、セミナー開催、市場調査、営業代行利用、マーケティングツール活用等に関連
グローバル展開型の対象経費
最後にグローバル展開型の対象経費ですが、一般型(通常枠)の8項目に加えて、下記の項目も対象となります。
10. 海外旅費:海外事業の拡大、強化等を目的とした、ものづくり補助金に係る事業に必要不可欠な海外渡航及び宿泊等に要する経費
ドローン事業で対象となる経費
ものづくり補助金の対象経費は10項目に分類されていることを説明しましたが、ドローンを導入する際にはどのようなものが経費になるのでしょうか?
たとえば「機械装置・システム構築費」は機械装置や専用ソフトウェア等の制作、購入、借用のような取り組み、「運搬費」は運搬料や郵送などの取り組みが対象となります。
ドローンを導入するとなると、ドローン本体の機体代金はもちろんのこと、その輸送費であったり、事業遂行のためのノウハウを導入したり専門家に意見を聞いたりする費用が発生します。その多くがものづくり補助金の対象経費となりますので、ものづくり補助金を上手に活用できれば、ドローン事業をスムーズに軌道に乗せることができるはずです。
ドローン事業に関する取組の採択例
ドローン事業といえば農業というイメージが強いかもしれませんが、実際にはさまざまな分野でドローンは活用されています。ここでは、ドローンの導入にものづくり補助金を活用する際の活用イメージと、実際に採択された事例を紹介します。
ドローン事業の活用例
ドローンは、人の手を使って地道に行わなければならない大掛かりな作業を、効率的かつスムーズに完遂させることを目的として導入されます。
たとえば、農薬や肥料を空中から散布することによって農作業を効率化できますし、住宅の屋根や壁の検査をドローンで行うことによって高所作業をなくし安全性を高め、点検できる人材を増やして点検事業を拡大することができます。
また、ものづくり補助金が「革新的なサービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善」に必要な設備投資を支援することを目的としているように、ドローンを飛行させ行う事業だけでなく、ドローンの機体や部品自体の開発も対象となる事業なのです。
過去の採択事例を紹介
それでは、上記の活用例を踏まえて、実際の採択事例を見てみましょう。多くのドローン事業のうち、ものづくり補助金で多く採択されている分野の事業を中心に紹介します。「自社で参入するならどの事業か」をイメージしながらお読みください。
農業
- ドローン・ロボット田植機導入によるコロナ時代に適した農業生産プロセス構築
- カスタマイズしたドローンを活用し精密農業システムを構築する革新的なサービスの提供
- 産業用ドローンによる点検業務とスマート農業支援サービスの開発脱炭素社会へ向けて、ドローン&スイングヤーダ導入によるスマート林業の実現
測量
- 最新式ドローンによる効率的な測量で受注拡大と働き方改革を実現
- レーザードローンの導入による安全で革新的な高精密測量の実現
- ドローン規制緩和を睨んだ3次元測量体制の構築による生産性向上計画
- BIM/CIM対応のクラウド型ドローンによる低感染型測量事業
点検
- 最新測位技術搭載ドローンによる【密にならない橋梁点検】の実現
- 赤外線カメラ付ドローンを利用した新たな外壁検査サービスの提供
- 対人接触減少・脱炭素を叶えるドローンを用いた建物外壁検査事業
映像
- 日本初の農業分野に特化したドローン空撮利活用支援サービスの開発
- 高性能赤外線カメラ搭載ドローンによる防水・修繕調査サービスの提供
- 産業用ドローン撮影事業への本格的進出と技術者育成へむけた事業
ドローン開発
- 産業用ドローンエンジンの拡販に向けた新規シリンダ素材の開発
- 長距離飛行・多貨物積載型VTOL固定翼ドローンの開発
- 自動飛行機能を有する風力発電機ブレード点検ドローンの開発
ものづくり補助金でドローン事業が採択されるために
ものづくり補助金はドローン事業に活用できる魅力的な補助金制度ですが、申請すれば誰でも受給できるわけではありません。採択率が増加傾向とはいえ、申請者の半分は不採択となっているのです。
最後に、ものづくり補助金で採択されるためのポイントを解説します。こちらを参考にして、採択される可能性を少しでも高めてください。
公募要領を読み込む
まず、ものづくり補助金のホームページに掲載されている公募要領をじっくりと読み込んでみましょう。ものづくり補助金の申請の準備に時間を割いていても、万が一自社が対象外だった場合は、すべてがムダになってしまいます。
会社の規模は適格か、これから始めようとする事業はものづくり補助金の制度に合致するかなど、申請要件を確認しながら具体的な事業イメージが膨らむかがポイントです。
事業計画書を練る
具体的な事業イメージが膨らんだら、次はそのイメージを事業計画書に落とし込んでみましょう。その際に、次のポイントに気を配ってみると、審査員にしっかりと伝わる事業計画書を作成できるはずです。
- 図や画像を使う
- 数字を使って説得力を持たせる
- 専門用語は使わない
画像や表を使う
事業計画書には、グラフなどの画像やわかりやすく整理された表をふんだんに使用しましょう。
数字を使って説得力を持たせる
事業計画書の中に具体的な数字を織り混ぜると、説得力のある文章が出来上がります。
たとえば、ものづくり補助金には「付加価値額が年率で平均3%以上増加する」といった申請要件がありますが、事業計画書ではこの数字をどのように達成するかを説明しなくてはなりません。
この場合に、以下のどちらの文章に実現可能性を感じるでしょうか?
- 補助金を使って設備投資を行い、付加価値により客単価の向上を目指します。
- 補助金を使って設備投資を行い、付加価値により客単価500円向上を目指します。
前者のような曖昧な表現よりも、後者の「500円」という具体的な数字を出し、その数字を算出した根拠を示すことで事業計画書は強い説得力を持つのです。
専門用語は使わない
事業計画書の文章では専門用語はできるだけ排除し、誰が読んでも理解できる表現をするように心がけましょう。
ものづくり補助金で申請される事業はドローン事業だけではなく多岐にわたっているため、ご自身の申請書類を読む審査員はドローンについて詳しくないかもしれません。ドローンについてあまり知識がない上に聞いたこともない専門用語が並んでいれば申請書の内容をうまく読み取れない可能性が高いですし、場合によっては心証が悪くなる可能性もあります。
ですので、ドローンの専門家でなくとも事業の内容が理解できるよう、表現を工夫してみてください。
専門家に依頼する
「ドローン事業でものづくり補助金を活用したい」「ものづくり補助金の申請に取り組んでいるけど、難しい」こういった場合は、補助金申請のプロに依頼するのも選択肢の一つです。
補助金申請の経験が豊富なプロに依頼することで、次のメリットを受けられます。
- 採択率が上がる
- 補助金額がアップする
- 採択までの時間を短縮できる
- 申請をプロに任せ、自身は事業に専念できる
- 経営相談を受けることができる
専門家はこれまでのものづくり補助金申請の経験から、どのように事業計画書を練れば採択されやすいのか、ドローンをどのように活用すれば経営が伸びるのか、補助金申請から今後の経営までサポートしてくれるのです。
もちろん報酬を支払う必要はありますが、スピーディーに採択を得られ、事業を発展させていく方が得るものは多いはずです。
まとめ
ドローン事業は今後活用範囲が広がり、市場規模も拡大していくことが見込まれます。ドローン事業に参入しようと考えているのであれば、ものづくり補助金を活用し早めに参入することで、競合他社に差をつけることができるでしょう。
当社トライズコンサルティングは、ものづくり補助金では、2019・2020年度採択率97%という高い補助金採択率を誇り、採択後も補助金を受け取れるまでしっかりとサポートしています。質の高い事業計画書の策定から猥雑な事務手続きまでサポートいたしますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。