新卒の社員が入社すると、多くの企業では新入社員教育が実施されます。また、中途採用の社員に対しても、入社時には同様の教育が実施されることでしょう。
しかし、社員教育の成果については、今ひとつ実感できていない経営者の方も少なくありません。そこで今回は、社員教育の目的と計画方法について詳しく解説していきます。なぜ会社では社員教育が必要なのかを改めて考え、自社の教育体制を確立する上での参考にしてみてください。
社員教育の目的
社員教育を計画・実施する目的には、主に次の4つが挙げられます。
- スキルアップ
- 企業理念や経営方針の浸透
- リスク対策
- 法令順守
ここでは、それぞれについて詳しく解説していきます。
スキルアップ
社員教育の目的の1つ目は、従業員のスキルアップです。
従業員に必要な業務スキルや知識は、所属部署や任されている職務によって異なります。また、役職が上がるにつれて実務担当者としてだけではなく、「労務管理」「人材育成」「経営層への報告」など、マネジメント的側面が強い業務を担うケースが増えていきます。
業務のパフォーマンスを高めるために、社員の所属・職務・役職に応じたスキルアップの機会を提供することは、社員教育の重要な目標の一つです。
企業理念や経営方針の浸透
社員教育の目的の2つ目は、企業理念や経営方針の浸透です。
社員教育を通じて会社の企業理念や経営方針について共有することにより、従業員の企業に対する理解を深め、所属意識を高めることにつながります。また、会社や経営者の考え方や方針が浸透することで、顧客や社会に対して、組織の一員としてどのように振る舞うべきかを、自律的に考えて行動できるようになります。
業績や景気が悪化する局面においては、従業員の不平や不満も聞こえてきやすくなります。社員教育を通じて、常日頃から企業理念や経営方針を浸透させることで、そのような事態であっても従業員の結束力を維持することができるかもしれません。
リスク対策
社員教育の目的の3つ目は、リスク対策です。
近年、情報機器の進化とともに、大容量のデータも容易に持ち運びが可能となりました。企業間のデータのやり取りも例外ではなく、情報機器の進化は利便性を高めた反面、企業の情報漏洩リスクも高めました。
このような社会的背景から、企業の情報セキュリティに対する世の中の目は、以前よりも厳しいものとなりました。そこで、社員教育の一環として、情報漏洩や個人情報流出のリスクと対策について学び、企業のリスク対策を講じることも社員教育の目的の一つです。
法令順守
社員教育の目的の4つ目は、法令遵守です。
企業活動を行う上で、コンプライアンスということばが世の中に浸透してから久しくなりました。コンプライアンスとは、企業がルールや社会的規範を守って行動することを指します。
セクシャルハラスメントやパワーハラスメントなどがあり、加害者側にコンプライアンス違反の自覚がなくても、被害者側がハラスメントを受けていると感じれば、コンプライアンス違反となります。
コンプライアンス意識の高まりに伴い、さまざまなハラスメントが台頭しており、企業のコンプライアンス意識の向上、労働環境の改善はますます重要になっています。そこで、従業員に対してコンプライアンス教育を実施し、社内外のトラブルを未然に防ぐことも、社員教育の目的の一つなのです。
社員教育の実施時期
次に、社員教育の実施時期について考えてみましょう。多くの企業では、社員教育の実施時期は次の5つに大別されます。
- 入社時
- 部署配属直後
- 昇進時
- 社内規範を周知するための定期教育
- 社員スキル向上のための定期教育
ここでは、それぞれについて詳しく解説していきます。
入社時
入社時の社員教育は、新卒採用か中途採用かで内容が異なります。
新卒採用向けの教育では、新たに社会に出る人達が対象となります。従って、社会人としての基礎的な心構えから教育する必要があり、時間やコストも中途採用者より多くかかります。
一方で、自社の企業理念や仕事の仕方が浸透しやすく、会社への所属意識も高まりやすいというメリットがあります。新卒採用者に対する教育は、「学生から社会人への意識の変化」「ビジネスにおける基礎的なスキルや知識の習得」「自社の風土や規範の浸透」が主な目的となります。
これに対して、中途採用者向けの教育では「学生から社会人への意識の変化」「ビジネスにおける基礎的なスキルや知識の習得」といった内容の教育は実施しません。前職での経験を生かし、自社で活躍できるよう「自社の風土や規範の浸透」を中心に実施します。
部署配属直後
入社時の教育が終わると、配属部署での教育が行われます。OJT教育を中心として、先輩社員と一緒に業務を学んでいきます。
OJT教育では、実際の仕事と教育を同時進行で行うため、即戦力化しやすいメリットがありますが、その成果は教育担当者のスキルに大きく影響するというデメリットがあります。従って、教育担当となる従業員の選定は慎重に行う必要があります。
また、フォローアップを定期的に行い、「配属された社員が職場に馴染んでいるのか」「自身のスキルにギャップはないのか」などを確認するようにしましょう。
昇進時
昇進により職位が上がると、より責任の重い業務を任されるようになります。また、部下から上司の立場に変わることで、マネジメント業務が増えてきます。
これまではプレイヤーとして活躍してきた人であっても、マネジメント業務に慣れず思うように活躍できない社員も出てくるかもしれません。そのため、昇進により新たに管理職となる従業員に対しては、マネジメント業務を行う上での手法や課題解決方法について、共有・提供できるような教育体制を整備しておくことが大切です。
社内規範を周知するための定期教育
入社から数年が経過し会社や仕事に慣れてきても、教育は定期的に継続して行うことが必要です。会社に慣れてしまうことで、規範意識やモチベーションが薄れてしまうケースは少なくありません。
仕事に慣れてきた中堅社員にこそ、企業理念の共有や社内ルールの周知を目的とした教育を定期的に実施しましょう。これにより、慣れによる思いも寄らないトラブルを未然に防ぐことができます。
社員スキル向上のための定期教育
ビジネスを行う上での事業環境は、技術革新・関連法規の改正などによって目まぐるしく変化しています。これらの変化に対応していくには、入社時の教育だけでは不十分です。
定期的に繰り返し教育を行うことで、業務に関する知識が深化・更新されスキルが向上していきます。ただし、従業員のスキルは個々の成長によってばらつきがあるため、それぞれの従業員の現状に合ったカリキュラムを受講させましょう。
社員教育計画の作り方・手順
続いて、社員教育計画の作り方・手順について解説していきます。社員教育計画の作り方・手順は、次の6つのステップに分けられます。
- 現状を把握し、課題を明確にする
- 社員教育の目標を設定する
- 社員教育の実施時期を決定する
- 社員教育の実施方法を決定する
- 教育効果の測定方法を決定する
- アフターフォローを決定する
ここでは、それぞれについて詳しく紹介していきます。
現状を把握し、課題を明確にする
1つ目のステップは、「現状を把握し、課題を明確にする」ことです。社員教育を計画する上では、「教育を行う目的」「教育によって解決すべき課題」を明確にすることが大切です。
会社という組織の中では、それぞれの部署や立場によって抱えている課題はさまざまです。自分の部署の立場だけで現状や課題を抽出するのではなく、部署を超えてヒアリングを行い現状と課題を明確にしましょう。
社員教育の目標を設定する
2つ目のステップは、「社員教育の目標を設定する」ことです。現状と課題を基に、教育の目標を設定します。
目標を達成するための教育を実施するためには、どのようなタイミングでどのような内容の教育を行うのかを決定する必要があります。また、目標によっては1回の教育だけでは解決できず、複数回に渡って行う必要がある場合もあります。
社員教育の実施時期を決定する
3つ目のステップは、「社員居郁の実施時期を決定する」ことです。設定した目標の達成に向け、教育の実施スケジュールを組み立てます。
実施するタイミングは、「定期的に実施される教育」と「他の出来事に伴う社員教育」の2つに大別されます。
定期的に実施される教育には、「社内風土と規範を守るための定期教育」「スキル向上のための定期教育」などがあります。また、他の出来事に伴う社員教育には、「入社時の教育」「昇格時の教育」「部署異動直後の教育」などがあります。
それぞれの状況に応じて実施すべきタイミングは異なるため、効果的な教育となるように余裕をもったスケジュールを作成する必要があります。
社員教育の実施方法を決定する
4つ目のステップは、「社員教育の実施方法を決定する」ことです。
教育の実施方法には、実際の業務の中で学習を行う「OJT(On The Job Training)」と、業務から離れて学習を行う「OFF-JT(Off The Job Training)」の2つに大別されます。また、OFF-JTの中にも対面によって行う「集合研修」や、Webを活用して行う「eラーニング」による学習があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。
自社の目的や状況に応じて、最適な社員教育の方法を選ぶようにしましょう。
教育効果の測定方法を決定する
5つ目のステップは、「教育効果の測定方法を決定する」ことです。
教育は実施するだけではなく、教育を実施した後に評価を行い、効果を測定することが必要です。社内教育の場合、受講生に対してアンケート調査を実施して、満足度の評価を行います。
スキルアップを目的として研修であれば、効果測定テストを実施やレポートを提出させる等の方法も有効です。また、研修を受けた社員だけではなく、所属部署の上司に対して組織としてどのような変化があったか意見を聞き、教育に対するフィードバックを図りましょう。
アフターフォローを決定する
6つ目のステップは、「アフターフォローを決定する」ことです。教育は実施して終わりではなく、定期的なアフターフォローが必要です。
「エビングハウスの忘却曲線」と呼ばれる研究では、新しく学んだ内容はその場限りの知識で終わってしまう傾向があると指摘しています。実施した教育内容を定着させるには、定期的なアフターフォローが必要です。
多く取り入れられている手法に「フィードバックサイクル」と呼ばれるものがあります。フィードバックサイクルでは、次の4つを順番に行い、何度も繰り返すことにより成長へつなげていきます。
- ①周囲からのフィードバックを受ける
- ②自分自身で課題に気づく
- ③どう変えるべきかを考える
- ④実際に行動に移す
社員教育の種類・実施方法
続いては、社員教育の実施方法について代表的なものを3種類紹介していきます。社員教育の実施方法は、次の3つに大きく分けられます。
- OJT(On The Job Training)
- 集合研修
- eラーニング
それぞれの方法にメリット・デメリットがありますので、自社の状況や目的に応じて最適な方法を選択するようにしましょう。
OJT
OJT(On The Job Training)とは、実際の業務の中で学習していく方法です。
OJTのメリットには「実践的な知識や技術が習得できる」「社内の人間関係が強固になる」「フィードバックを即時に受けられる」などがあります。デメリットには「教育担当者によって学習効果が異なる場合がある」「網羅的な指導を行いづらい」などがあります。
集合研修
集合研修とは、社員を一同に集めて教育を行う方法です。社外で行われる座学形式の教育も集合研修に含まれます。
集合研修のメリットには、「同じ空間に集まる事による士気向上」「他の受講者や講師との繋がりにより人脈が広がる」「その場で質疑応答ができるため、深い理解が得られる」などがあります。デメリットには、「人を集めるために費用や労力がかかる」「個別の理解度に合わせた対応は難しい」「開催日などにより受講機会が制限される」などがあります。
eラーニング
eラーニングとは、ネット環境を活用して教育を行う方法です。
PCやスマートフォンがあれば、いつでもどこでも受講可能であり非常に利便性が高いです。近年では、多くの企業が社員教育においてeラーニングを採用しています。
eラーニングのメリットには、「教育コストを削減できる」「学習機会を平等に提供できる」「学習履歴や成績の管理が容易」「教材の更新や転用がスムーズにできる」「受講者の習熟度に合わせたプログラムも作成可能」などがあります。デメリットには、「利用には一定のITリテラシーが必要」「教材コンテンツの作成に時間がかかる」「集合研修に比べて強制力が弱い」などがあります。
まとめ
社員教育の目的と計画方法について詳しく解説してきました。社員教育の効果を最大限発揮するためには、目的に応じた計画を立てることが重要なポイントです。
社員教育の内容は、「毎年実施しているから今年も同じ内容でやろう」という風に形骸化してしまっていることも少なくありません。しかし、目まぐるしく変化するビジネス環境に適応していくためには、自社の教育体制も必要に応じて見直していく必要があります。
自社の状況・目標を明確にし、効果的な実施方法を選択肢、求めた成果が得られる社員教育を実施しましょう。社員教育にお悩みの経営者の方は、専門家によるサポートやコーチングなどを受けることも選択肢の一つです。
当社トライズコンサルティングでは、認定支援機関として多数の中小企業事業者の皆様の経営改善に尽力しています。その中で得られた知見を活かし、経営者の方へのコーチングを実施しています。
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