新たな事業を立ち上げようとしても、斬新なアイディアというものはなかなか生まれないものです。仮に思いついたとしても、それをどのように商品・サービスといった形にし、消費者に提供していけば良いのかということも検討しなくてはなりません。
また、そうして市場に投入した商品・サービスは自社の利益をもたらすかは未知数であり、可能な限り消費者のニーズや市場動向も分析しておく必要があります。
そのような状況で助けになるのがフレームワークです。フレームワークは新規事業立ち上げなどビジネスの現場における思考が必要なときに、一定の枠組みを使って情報を整理し、アイディアを抽出したり、課題の解決策を見つけるために先人たちが編み出したりしたツールです。
今回は、新規事業立ち上げの際に有効となるフレームワークを紹介していきます。
自社の経営資源や事業環境を分析するフレームワーク
新規事業を立ち上げるためにはまず、自社の置かれた現況を正確に把握する必要があります。どんなに素晴らしいビジネスアイディアでも、競争優位性のないものでは他社に簡単に真似されてしまいますし、今後の変化していく消費動向や社会情勢、法改正から衰退していくことが決まっている商品・サービスに投資していくことは好ましくありません。
はじめに、自社の内部環境と外部環境を把握するためのフレームワークについて解説します。
VRIO分析
自社の内部環境を分析するフレームワークとしては、アメリカの経営学者であるジェイ・B・バーニーによって考案されたVRIO分析があります。自社の経営資源を「経済的価値(Value)」「希少性(Rarity)」「模倣可能性(Imtability)」「組織(Organization)」の4つの視点から分析を行う手法で、それぞれの頭文字をとってVRIO分析と呼ばれています。
それぞれの評価の観点は以下のとおりです。
- 経済的価値(Value):その経営資源を保有していることでピンチに対応し、被害を最小限に食い止められるか、チャンスを最大限に生かし、売り上げを増大させることができるか
- 希少性(Rarity):その経営資源は業界で希少性を有しているか、競合他社も保有していないか
- 模倣可能性(Imtability):その経営資源を保有していない企業は、その経営資源を獲得あるいは開発する場合、多くのコストやリソースを必要とするか
- 組織(Organization):その経営資源をフルに活用するための組織的な方針や手続きが整っており、長期にわたって維持できる仕組みとなっているか
自社の経営資源が上記の4つの視点に当てはまるかどうかを順番に「YES」か「NO」で判断します。
「YES」が多い経営資源ほど他社に対して持続的な競争優位を持ち、反対に「NO」の多いものは自社の弱い部分であるといえます。すべて「YES」となった経営資源をコアコンピタンスとした新規事業を模索することで、自社の強みを活かしたビジネス展開が可能になります。
PEST分析
自社の外部環境を分析するフレームワークとしては、マーケティング分野の第一人者として著名なフィリップ・コトラーの提唱したPEST分析が代表的です。「政治(Politics)」「経済(Economy)」「社会(Society)」「技術(Technology)」という4つの視点から分析を行う手法で、それぞれの頭文字をとってPEST分析と呼ばれています。
それぞれ、具体的には次のような項目に注目します。
- 政治(Politics):法律・法改正、増税・減税、政権交代、裁判制度、政治団体・デモなど
- 経済(Economy):景気動向、経済成長率、物価、消費動向、為替・株価・金利変動・原油など
- 社会(Society):人口動態、流行・世論、宗教・教育・言語など
- 技術(Technology):インフラ、特許、イノベーション、技術開発など
PEST分析を行うことで、自社の新規事業に大きな影響を与える外部要因をマクロな視点で把握することができ、市場に参入した際のチャンスやリスクに備えることができます。
注意点としては、状況を現在という点でなく、今後どうなっていきそうかという視点で読み取っていくことです。そうして分析した将来のリスクについて、どのように解決していくかを考えていくことも求められます。
新規事業の方向性を定めるフレームワーク
続いては、新規事業の戦略立案について解説します。物を作れば売れた「プロダクトアウト」の時代はとうに終了し、自社の強みを消費者のニーズに即した形で提供する「マーケットイン」の視点を持つ必要があります。
ここでは、自社のコアコンピタンスを市場のトレンドにどのような形で提供していくかという大まかな方向性を定める戦略立案のためのフレームワークについて解説します。
3C分析
3C分析はマーケティングの戦略策定に外すことのできないフレームワークの一つです。3Cとは、「市場・顧客(Customer)」「競合(Conpetitor)」「自社(Company)」の3つの頭文字から取ったもので、この3つを分析することにより、市場や顧客にとって価値のある商品やサービスを提供するものです。
- 市場・顧客(Customer):市場規模、消費動向、ニーズ・トレンドなど
- 競合(Conpetitor):競合のシェア・強み、差別化要因、新規参入・代替品など
- 自社(Company):自社の商品・サービス、ビジネスモデルなど
3つの要因から自社が進むべき方向性を決定し、自社のマーケティング戦略とします。
最も重要となる点は分析を行う順番で、まず「市場・顧客(Customer)」を分析し、市場の動向等を把握してから、次に「競合(Conpetitor)」を分析して、外部環境に応じた戦略を立案、最後に「自社(Company)」のどの経営資源を当てはめるかを考えることで、実現性の高い新規事業につながります。
クロスSWOT分析
SWOT分析は自社の内部環境を「強み(Strength)」と「弱み(Weakness)」、外部環境を「機会(Opportunitey)」と「脅威(Threat)」の4つ要因に分け、目標に対するプラスの要因とマイナスの要因を抽出するためのツールです。クロスSWOT分析では、そこからさらに踏み込み、4つの要因を組み合わせることで、選択すべき自社のマーケティング戦略を明確にするためのフレームワークです。
- 「強み(Strength)」×「機会(Opportunitey)」=「強み」を生かして「機会」を最大化する
- 「弱み(Weakness)」×「機会(Opportunitey)」=「弱み」を補って「機会」を掴む
- 「強み(Strength)」×「脅威(Threat)」=「強み」生かして「脅威」を切り抜ける
- 「弱み(Weakness)」×「脅威(Threat)」=「弱み」を補って「脅威」を最小化する
最も重要視されるのは、「強み」を生かして「機会」を最大化するビジネスモデルです。特に、中小企業においては少ないリソースで最大限に効果を得るための基本的な選択となります。
注意点として、クロスSWOT分析の基となるSWOT分析は、達成しようとする目標によって抽出される要因が異なる点です。最初の目標設定がずれていると、まったく見当違いの戦略となってしまう可能性があります。「○○の市場シェアを拡大したい」などゴールを明確にしてSWOT分析を行うことが重要であるといえます。
アイディア創出のフレームワーク
新規事業の大まかな方向性が決まれば、それをどのようにして実現していくかを検討していかなければなりません。ここでは、目標を達成するために具体的な商品・サービスのアイディアを創出するフレームワークについて解説します。
マンダラート
マンダラートは、最近ではロサンゼルス・エンジェルスの大谷翔平選手が高校生の頃に目標達成のために使用していたことで有名となりました。マンダラチャートとも呼ばれます。
設定したテーマに関連するアイディアを周りに書き込んでいくことで発想を広げ、取り組むべきことを明確にするフレームワークです。具体的なやり方は次のとおりです。
- 3×3の9つのマスを書き、中央のマスに達成したい目標やテーマを記入する
- 周辺の8マスに中央のマスに関連する語句を記入する
- 周辺の8マスを中央とした新たな9マスを派生させる
- 81マスの語句からアイディアを抽出する
最終的には、テーマに沿った64個の関連語句が記載された81マスが展開されます。その中から新規事業の切り口となりそうな語句や何度も出てくる語句に注目して深堀してみたり、似たような語句をグループ化して抽象化してみたりすることで、具体的な新規事業の形にしていきます。
SCAMPER法
SCAMPER法は、考案者の名前をとってオズボーンのチェックリストとも呼ばれます。「代用(Substitute)」「結合(Combine)」「応用(Adapt)」「修正(Modify)」「転用(Put to other uses)」「削減(Eliminate)」「逆転・再編成(Reverse・Rearrange)」の切り口をもとにアイディアを発想するフレームワークです。
- 代用(Substitute):他のものに置き換えることができないか
- 結合(Combine):他のものと組み合わせることができないか
- 応用(Adapt):他に類似したものがないか
- 修正(Modify):大きさや色を変更することができないか
- 転用(Put to other uses):他の使い道がないか
- 削減(Eliminate):何か取り除けるものがないか
- 逆転・再編成(Reverse・Rearrange):逆にしたり、並び替えられたりしないか
まったくのゼロからアイディアを創造するというよりも、自社の経営資源や市場のニーズなど一つの事柄に対してこれらの項目を問いかけ、発想を発展させることを目的としています。
そうして出てきた発想の中には、既存の商品・サービスには存在しないものがあり、それが画期的なアイディアとなる可能性があるといえます。
商品・サービスを具体化するフレームワーク
最後に、創出した商品やサービスなどのアイディアをどのようにして消費者へ届けていくのかを検討するためのフレームワークについて解説します。
素晴らしい商品・サービスも消費者にリーチしなければ宝の持ち腐れです。立地、価格、告知など最も有効なものを模索し、自社が十分な収益を確保できるよう新規事業を組み立てていきます。
4C・4P分析
4C分析と4P分析は、比較して説明されることの多いフレームワークです。
4C分析は「顧客価値(Customer Value)」「コスト(Cost)」「顧客利便性(Convenience)」「コミュニケーション(Communication)」の4要素の頭文字を取って表され、「顧客側の目線」で事業を捉え戦略を練るものです。
- 顧客価値(Customer Value):顧客から見た便利さ・性能などの品質、デザイン・ブランドイメージ
- コスト(Cost):顧客が商品やサービスに支払う費用
- 顧客利便性(Convenience):商品・サービスの入手方法、店舗のアクセスしやすさ、ECサイトの分かりやすさ、決済方法
- コミュニケーション(Communication):店舗やイベント、SNSなど顧客との良好な関係のための接点を持つ方法
一方、4P分析は顧客視点の4C分析と異なり、「製品(Product)」「価格(Price)」「流通(Place)」「販売促進(Prmotion)」の4要素の頭文字を取って表され、「企業側の目線」で事業を捉えます。
- 製品(Product):自社商品・サービスの強みやコンセプト
- 価格(Price):市場価格や競合他社との比較、利益の確保
- 流通(Place):ターゲットに即した販売場所、コストを抑えた流通経路
- 販売促進(Prmotion):使用する宣伝媒体、プロモーションイメージ
効果的なマーケティングを行うためには、4C分析と4P分析のうち片方だけ行うのではなく、2つを組み合わせるマーケティングミックスを実施する必要があります。2者間の整合性が取れているか慎重に確認しながら戦略を決定していくことで自社の取組むべき具体的な行動が明確になります。
5フォース分析
5フォース分析は、ハーバード・ビジネス・スクールの教授であるマイケル・E・ポーターが考案した業界全体の状況を可視化し、その中で自社が利益を上げることができるかを分析するフレームワークです。5フォース分析では、自社に影響を与える要因として、「既存の競合の脅威」「新規参入の脅威」「代替品の脅威」「売り手の交渉力」「買い手の交渉力」の5つを挙げています。
- 既存の競合の脅威:競合他社とのパワーバランス
- 新規参入の脅威:参入障壁の高低
- 代替品の脅威:商品・サービスの独自性の有無
- 売り手の交渉力:仕入れ先との力関係
- 買い手の交渉力:顧客の力関係
自社が新規事業を展開しようとしている業界に関して、それぞれの脅威が強い場合、自社が利益を確保できる余地は少ないと考えることができ、それらを回避するために対策を検討することができます。
また、業界内を分析することで自社の強みを発見することができ、自社の収益を上げるための戦略立案にもつながります。
まとめ
新規事業を市場に打ち出すまでの流れに沿ってフレームワークを紹介しました。今回紹介したもの以外にも、多くのフレームワークが存在しています。
重要なことは、フレームワークの特性や使い方を正しく理解した上で、自社の状況や展開しようとしている商品・サービスに適合したものを選択していくことです。
また、フレームワークは一つでも思考法として大変有用ですが、組み合わせて使うことでその効果はさらに増します。加えて、補助金等を申請する際にもこうしたフレームワークを使用して説明することで、漏れや過不足なく、説得力のある事業計画を策定することが可能になります。
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