新規事業を立ち上げようとする際、最初にやるべきことがアイデア出しです。しかし、いざアイデアを出そうとしても「まったく思いつかない」と悩む方は多いと思います。
それもそのはずで、既存の事業を発展させたり既存事業を上回るような新分野へ容易に進出できたりするようなアイデアは、何となくの発想で思いつくものではないからです。価値のある事業アイデアを生み出すには、アイデアの発想方法や活用するべきフレームワークを知っておく必要があります。
この記事では、新規事業のアイデアに価値を持たせる基準やアイデア出しの前にやるべきこと、新規事業のアイデア発想法など、新規事業のアイデアの考え方をテーマに多くの切り口から解説していきます。
新規事業のアイデアに価値を与える基準
新規事業のアイデアを考えるにあたっては、押さえておくべきポイントがあります。新規事業の成功率は決して高くありませんので、思いつきで始める事業が失敗することは目に見えているからです。
これから紹介する3つのポイントのどれが欠けても、誰にも必要とされない価値のない事業になってしまいます。ここではアイデアに価値を与える基準を確認します。
オリジナリティに溢れているか
世の中には、すでに多くの商品やサービスで溢れています。「これはいける」と思ったアイデアでも、調べてみると既にどこかの会社が商品化、サービス化していることがほとんどです。
だからこそ、アイデアには他にはない人の目を引くオリジナリティが求められます。他社に真似できないアイデアで事業を展開すれば、開拓した市場で一人勝ちできるからです。
また、既に競合他社がひしめいているレッドオーシャンの市場では、大企業の資本に物を言わせた価格競争に巻き込まれる可能性がありますが、オリジナリティを加えることで新しい価値を生み、価格競争に巻き込まれることなくその市場を席巻できる可能性があるからです。
アメリカのApple(アップル)社が超巨大企業になったのは、iPhoneというAppleにしか作れないオリジナリティに溢れたスマートフォンを開発できたからです。オリジナリティのある事業を展開することは、それほど強い力を持つということです。
問題の解決にフォーカスしているか
世の中でヒットする商品やサービスは、誰かの不便や不満、悩みなどの問題を解決することにフォーカスされたものばかりです。
たとえば、ダイエット食品が次から次に発売されるのは、「太っているのが悩み、痩せたい」という人の問題を解決しているからですし、美容商品が売れるのは「若く綺麗でいたいけれど、シミやシワが気になる」という問題を解決しているからです。テレビ番組で占いが流行っているのも同じ原理で、将来への不安を解決してくれるからです。
つまり、世の中に溢れる「不」(不便、不満、不安、不足……)を解決できるアイデアを多くの人は欲しがっているため、成功につながりやすくなるということです。この点を踏まえていないと、オリジナリティはあっても誰にも欲しがられない商品やサービスを展開する事業となり、失敗してしまいます。
安定した収益は見込めるか
事業は、収益化できないと立ち上げる意味がありません。立派な理念や誰かの力になりたいという社会貢献の意識はもちろん大切ですが、事業はボランティアではないのです。
特に、新規事業は黒字化するまでに時間がかかることが多いため、思いついたアイデアを事業化した場合、どの期間までにどの程度の収益が見込めるのかという点は、しっかりと意識しておかなくてはなりません。
新規事業のアイデアを考える前にやるべきこと
新規事業のアイデア出しに取り掛かる前に、まずは興味のある分野や既に成功している事例の情報を大量にインプットすることをおすすめします。
たとえば、海外で成功した事業例をインプットすれば、日本で類似のサービスを展開できたり、同じ仕組みを他のテーマに転用して事業を展開できたりと、インプットし続けることで優れた新しいアイデアを生み出すことができるようになるからです。
アイデアは自分の頭の中にある情報からのみ生まれ、これまでに得た知識や経験以外の発想は、どれだけ時間を欠けても出てきません。ここでは、新規事業のアイデア出しにとって必要な情報をインプットする方法を紹介します。
書籍やネットで調べる
最も手軽に情報をインプットできるのが、書籍を読んだりインターネットで検索したりすることです。「ググる」ということばが一般化しているように、ほぼすべての疑問はインターネットで検索すれば答えが書いてありますし、スマホが手元にあれば簡単に検索し答えにたどり着くことができることが、インターネット検索の大きな魅力です。
その点、書籍は執筆から書店に並ぶまでに時間がかかるため、インターネットの出現によって時代の流れやトレンドの移り変わりが早くなった現代においては、書籍で学ぶメリットはないように感じます。しかし、書籍は著者の主張したい内容を専門的・網羅的に学ぶことができるため、興味のある分野に対する考え方やノウハウの全体像を掴むという点では、書籍が適しています。
また、長年読まれ続けているビジネス本が数多く存在していることから、ビジネスの基盤となるような考え方やノウハウは普遍的なものです。自身の事業の基盤となる考えを養うためにも、著名なビジネス本は読んでおくべきでしょう。
セミナーへ参加する
ビジネスアイデアをインプットする手段の一つとして、さまざまな企業が主催するセミナーへの参加が挙げられます。企業には上場企業から新進気鋭のベンチャー企業までありますし、業種の幅も広いため興味のある分野のセミナーは必ず開催されているはずです。
最近では、新型コロナウイルスの影響もありオンラインセミナーが増えています。オンラインですので、参加費用は低価格で設定されていますし、時間にも場所にも縛られず自由に視聴できるため非常に便利です。
最近のセミナーは、ただ受け身で視聴するだけでなく、同じ参加者とディスカッションをしたり課題に取り組んだりしますので、情報のインプットはもちろん人脈を作れるというメリットもあります。
ワークショップへ参加する
ワークショップへの参加は、興味の湧いた事業について体系的に学べるだけでなく、実践的なスキルを身につけることもできます。
ワークショップでは、少人数のグループを組んで取り組むことが多いですが、少人数のため一人ひとりの役割が大切になるため、セミナーと比べて積極性が増します。
また、ワークショップにはさまざまな職種の参加者がいるため、ワークショップを通じて新しい視点を学ぶことができ、人脈を作れるというメリットもあります。
異業種交流会へ参加する
ビジネスに特化した異業種交流会には、起業家や企業に興味のあるサラリーマンだけでなく、学生やフリーランスで活躍する人など、キャリアや年齢層、業種の異なるさまざまな人が集まることが特徴です。さまざまな業種で活躍する人と交流することによって、これまで考えたこともなかったビジネスに対する情報や知識を得ることができ、新たなアイデアにつながる可能性が高くなります。
その他、参加者を消費者と見なして、消費者としての意見を聞くことができターゲットとして考えている業種の人を直接リサーチできる機会を得ることができたり、参加者同士のニーズや目的が合致すればビジネスパートナーとしての人脈を作ることできるメリットが生まれたりします。
注意点としては、自社のアピールや売り込みを過度にしないことです。いきなり営業モードで接してくる人は敬遠されてしまいますので、新しいアイデアを聞くこともできなければ、ビジネスパートナーとして認めてもらうことも叶わないからです。
まずは相手の話をしっかりと聞き、良い関係を構築することから始めてみましょう。
コミュニティへ参加する
最近では、オンラインサロンをはじめとするコミュニティが増えてきました。コミュニティは同じ思考や感性を持っている人が集まっているため、自分が興味を持っている分野や事業に関するコミュニティに参加することで、新しい気づきや発想のヒントを得ることができます。
オンラインサロンの参加費は月額1,000円ほどが一般的で気軽に参加できますが、SNSを通した情報交換やセミナー、オフ会などと交流する機会は思っているより多く、十分に元が取れるほどのメリットがあります。
コンサルタントへ相談する
事業を始める際には、「どうすれば成功するか」という視点だけでなく、「何をすれば失敗するか」という視点を持つことも大切です。新規事業の立ち上げにはリスクはつきものですが、リスクを最小限に抑えることで、もし失敗してしまった場合でも会社として致命傷を負わずに済むからです。
失敗例やリスクの軽減方法を知りたければ、新規事業の立ち上げに関して豊富なノウハウを持っているコンサルタントに相談してみましょう。自分が興味のある特定の分野のコンサルタントであれば、アイデア出しのヒントはもちろん、出したアイデアをどのように具体化し事業化していくかまでの道筋を示してくれますので、新規事業をスピーディーに展開していくことができます。
新規事業のアイデア発想法
新規事業のアイデアを出すための準備運動は終わりましたので、ここからは実際にアイデアを出すための発想法について解説していきます。
自社の強み・弱みを分析する
まずは、自社の強みと弱みを改めて分析するところから始めます。
現在順調に業績を伸ばせている既存の事業があるとすれば、その事業は会社の強みを活かせていると言えます。逆に、いまいち業績を伸ばせていない事業があるとすれば、その事業は会社の強みを活かせず、弱みに変わっている可能性があります。
ですから、これまでの実績や失敗などを振り返り、自社の強みや弱みと思える要素をできるだけ多く出してみましょう。ここで出てくる成功と失敗をもたらした要素を新規事業にどのように活かせるかを考えることが、新規事業を軌道に乗せるアイデアにつながっていきます。
成功しているビジネスモデルを参考にする
すでに成功している事業の事例を参考にすることも、アイデアの発想方法として有効です。特に、これまでまったく関わってこなかった業種へ参入する際には、多くのアイデアのヒントを得ることができます。
また、海外では成功していても日本にはまだ入ってきていないサービスもあります。そのような海外の成功事例を分析し、日本で同じようなサービスを展開できないかと考えることで、新規事業のアイデアが湧いてくることもあります。
ビジネスモデルを組み合わせる
既存の商品やサービスを組み合わせることで、新たな事業として成功する事例はたくさんあります。たとえば、いちご大福は「いちご」と「大福」を組み合わせて市民権を得ていますし、 iPhoneは元々「電話」と「携帯音楽プレーヤー」を組み合わせて世界中にムーブメントを巻き起こしました。
このように、既存のものを組み合わせることで新しい価値を生み出している商品やサービスは数多くあります。まったく新しい事業をゼロベースで考えようとするより、身の回りにあるもので組み合わせできるものがないかと考えることも、アイデアの発想法として有効です。
とにかくたくさんのアイデアを出す
アイデアを出し始める時点では、質は気にせずとにかく量を出すことに注力しましょう。とにかく量を出し、PDCAを回すことで良いアイデア・悪いアイデアの基準が定まってきますし、それに伴ってアイデアの質は向上していくからです。
ここでアイデアがほとんど出ないとすれば、インプットが足りていないということです。ここまでに紹介した方法を活用し、インプットの量を増やしましょう。
新規事業のアイデア出しを促進するフレームワーク
同じ量の情報をインプットしていても、どんどんアイデアを出せる人と、うまく出すことができない人がいます。アイデアを出せる人は「出し方」を知っているのです。
ここでは、アイデアの発想を促進させる便利なフレームワーク(発想法)を紹介します。
ブレインストーミング
ブレインストーミングとは、ある議題に対して参加者が順番に意見を出していくことで、一人では決してできない新しい発想を生み出す手法のことです。
ブレインストーミングには、次の4つのルールがあります。
- 他の人のアイデアを批判しない
- 思いつくまま自由に発想する
- 質よりとにかく量を出していく
- お互いのアイデアをもとに、発想を膨らませていく
他の人のアイデアを批判しないというルールがあり、役職や年齢、性別を気にせず自由な発想をすることができますし、他の人のアイデアをもとに発想を膨らませていけるため、思いも寄らない斬新なアイデアが生まれてくるのです。
オズボーンのチェックリスト
オズボーンのチェックリストとは、対象とするテーマについてアイデアが浮かばない場合に、そのテーマの新たな切り口を見つけ、アイデア出しを促進させる手法です。
ですから、ゼロから新しいものを発想するというより、すでにある事業などを改善したり、他業界の事例やアイデアを新規事業に転用したりすることに向いています。
新たな切り口を見つけるためのチェックリストとして、次の9つが挙げられています。
チェックリスト | 内容 | 具体例 |
---|---|---|
転用 | 他の分野で使えないか | ワケあり商品 |
応用 | 他の商品やサービスのアイデアを使えないか | サブスクリプションを家具に応用 |
変更 | 色や形を変えたらどうか | 綿棒を黒くする |
拡大 | 大きく、長くしたらどうか | 24時間営業のコンビニ |
縮小 | 小さく、短くしたらどうか | 一人用の鍋の素 |
代用 | 他の素材、製法で代用できるか | 豆腐ハンバーグ |
再編成 | 部品や配置を入れ替えたらどうか | お菓子をレジ横に配置 |
逆転 | 順番や比率を逆にしたらどうか | リバーシブルジャケット |
統合 | 一つにまとめたらどうか | ネットカフェ |
このように、チェックリストに沿って実際に成果を出した事例をどんどん書き出してみると、意外にもいろいろな事例が思い浮かぶのではないでしょうか?ゼロベースで新しいアイデアを発想することは容易ではないので、何も思いつかなくなってしまったときにはオズボーンのチェックリストで新しい切り口がないか探ってみましょう。
マンダラアート
マンダラアートは、メジャーリーガーの大谷翔平選手が高校時代に作成し活用したというエピソードが有名ですので、ことば自体は聞いたことがあるかもしれません。3×3 の9つのマスの中心に目標や課題を書き込み、隣接するマスに関連するキーワードを埋めていくことで、発想を広げていくフレームワークです。
上の図のように、マンダラアートはメインテーマに関連するキーワード8つについて、さらにそれぞれ8つずつのキーワードを書き出していくことで、目的や課題の達成に必要な要素や具体的なプロセスを可視化することができます。
新規事業を成功させるために必要な要素や具体的なプロセスが可視化できると、そのためにしなければならない具体的なアクションがわかります。マンダラアートによって事業成功のために優先すべきものは何か、要素に漏れはないかなどを視覚的にチェックでき、常に思考やアクションを整理しながら事業に取り組むことができるので、誤った選択をすることなく事業の成功へ着実に進むことができるのです。
まとめ
新規事業のアイデアを出す際の考え方と発想法について解説しました。いきなりアイデア出しから入るのではなく、まずは興味のある分野に関連する質の高い情報をインプットすることが大切です。
その情報をどのように活かすのか、自社の強みや弱みを分析したり成功事例を参考にしたりしながら、ブレインストーミング等のフレームワークを使用し、どんどんアイデアを出していきましょう。そうすることで、質が高いことはもちろん、ご自身の会社でしかできないオリジナリティ溢れるアイデアに巡り合えるはずです。
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