【2022】事業再構築補助金を「宿泊業」が活用するには?取り組みのアイデア

宿泊業の事業再構築補助金

新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響はほぼすべての業界に及び、消費は著しく低下し、中小をはじめとして企業収益は大きな痛手を被りました。その中でも、飲食や観光、娯楽等の分野での影響は深刻で、宿泊業も甚大な影響を受けた業界の一つです。

今回は、どのように事業再構築補助金を宿泊業に活用し、コロナ禍における変化に対応できるのか考えていきましょう。

事業再構築補助金の概要

事業再構築補助金は、新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、当面の需要や売り上げの回復が期待しづらい中、ウィズコロナ・ポストコロナ時代の経済社会の変化に対応するために中小企業等が行う事業再構築を支援するものです。

「新分野展開」「業態転換」「事業転換」「業種転換」「事業再編」またはこれらの取り組みを通じた基礎の拡大等、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援することによって、日本経済の構造転換を促すことを目的としています。

補助対象事業に該当する要件の一つに「売上高等減少要件」があり、宿泊業も含め、申請しようとする事業者はこれを満たしていることが求められます。

その内容は次のとおりです。

2020年4月以降の連続する6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月の合計売上高が、コロナ以前(2019年または2020年1月〜3月)の同3ヶ月の合計売上高と比較して10%以上(「グローバルV字回復枠」の場合は15%以上)減少しており、2020年10月以降の連続する6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月の合計売上高が、コロナ以前(2019年または2020年1月〜3月)の同3ヶ月の合計売上高と比較して5%以上減少していること

事業再構築補助金

また、「事業再構築指針」に示されている「事業再構築」の定義に該当する事業である必要があり、その類型は次の5つに分かれています。

新分野展開

新分野展開とは、中小企業等が主たる業種または主たる事業を変更することなく、新たな製品等を製造等することにより、新たな市場に進出することを指します。新分野展開に該当するためには次の1〜3の要件を満たす必要があります。

  1. 製品等の新規性要件
  2. 過去に製造等した実績がないこと
  3. 製造等に用いる主要な設備を変更すること
  4. 定量的に性能または効能が異なること
  5. 市場の新規性要件
  6. 既存製品等と新製品等の代替性が低いこと
  7. 売上高10%要件
  8. 3〜5年間の事業計画期間終了後、新たな製品等の売上高が総売上高の10%以上となる計画を策定すること

事業転換

事業転換とは、中小企業等が新たな製品等を製造等することにより、主たる業種を変更することなく、主たる事業を変更することを指します。事業転換に該当するためには次の1〜3の要件を満たす必要があります。

  1. 製品等の新規性要件
  2. 過去に製造等した実績がないこと
  3. 製造等に用いる主要な設備を変更すること
  4. 定量的に性能または効能が異なること
  5. 市場の新規性要件
  6. 既存製品等と新製品等の代替性が低いこと
  7. 売上高構成比要件
  8. 3〜5年間の事業計画終了後、新たな製品等の属する事業が、売上構成比の最も高い事業となる計画を策定すること

業種転換

業種転換とは、中小企業等が新たな製品等を製造等することにより、主たる業種を変更することを指します。業種転換に該当するためには次の1〜3の要件を満たす必要があります。

  1. 製品等の新規性要件
  2. 過去に製造等した実績がないこと
  3. 製造等に用いる主要な設備を変更すること
  4. 定量的に性能または効能が異なること
  5. 市場の新規性要件
  6. 既存製品等と新製品等の代替性が低いこと
  7. 売上高構成比要件
  8. 3〜5年間の事業計画終了後、新たな製品等の属する業種が、売上構成比の最も高い業種となる計画を策定すること

業態転換

業態転換とは、製品等の製造方法等を相当程度変更することを指します。業態転換に該当するためには次の4つの要件のうち、製造業の分野で事業再構築を行う場合は1,2,4の要件を、製造業以外の分野で事業再構築を行う場合は1,3,4の要件を満たす必要があります。

  1. 製造方法等の新規性要件
  2. 過去に同じ方法で製造等していた実績がないこと
  3. 新たな製造方法等に用いる主要な設備を変更すること
  4. 製造方法等が定量的に性能または効能が異なること
  5. 製品の新規性要件
  6. 過去に製造した実績がないこと
  7. 製造に用いる主要な設備を変更すること
  8. 定量的に性能または効能が異なること
  9. 商品等の新規性要件または設備撤去等要件
  10. 過去に提供した実績がないこと
  11. 提供に用いる主要な設備を変更すること
  12. 定量的に性能または効能が異なること
  13. 既存設備の撤去や既存店舗の縮小等を伴うものであること
  14. 売上高10%要件
  15. 3〜5年間の事業計画期間終了後、新たな製品等の製造方法等による売上高が総売上高の10%以上となる計画を策定すること

事業再編

事業再編とは、会社法上の組織再編行為(合併、会社分割、株式交換、株式移転、事業譲渡)等を行い、新たな事業形態のもとに、新分野展開、事業転換、業種転換または業態転換のいずれかを行うことを指します。

コロナ禍が宿泊業に与えた影響

2020年初頭から始まった新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、業界を問わず日本経済全体の需要の低迷をもたらし、特に中小・零細企業や個人事業主に甚大な影響が生じました。中でも、「不要不急」の外出や移動の自粛が要請されることにより、飲食業や観光業、宿泊業等のレジャー関連業種における消費の落ち込みは、事業者にとって深刻な打撃となりました。

コロナ禍が宿泊業に与えた悪影響のすさまじい度合いは、以下に示す各種調査結果のように定量的にも著しく表れています。

宿泊者数の推移

観光庁が実施している「宿泊旅行統計調査」の2021年9月分第1次速報によれば、全国の延べ宿泊者数は2,269万4,900人にとどまり、コロナ前の同調査における2019年9月確定値の4,876万1,240人と比較して53.4%もの大幅減となりました。

中でも、外国人の延べ宿泊者数は、2019年9月確定値の826万400人から2021年9月分第1次速報値の28万4,380人へと実に96.5%もの減となり、コロナ禍に伴う入国制限が「インバウンド需要」に与えた影響を如実に表す結果となりました。

経常利益および売上高経常利益率

観光庁(国土交通省)の「令和3年度版観光白書」によると、宿泊業の経常利益は2020年以降マイナスに転じており、収益性を示す売上高経常利益率も同様に損失を表すマイナスで推移しています。

宿泊業における経常利益、売上高経常利益率の推移

とりわけ2020年4月〜6月期の落ち込みは非常に大きく、経常利益は▲3,600億円、売上高経常利益率は▲96.3%となり、たいへん深刻な損失がもたらされました。

就業者数

前出の「令和3年版観光白書」によると、2020年の宿泊業の雇用者数は約52万人で、前年の2019年と比較して約12%減少しました。

宿泊業 雇用の状況

また、男女別、雇用形態別に前年差の推移をみても、2020年後半から2021年4月に至るまで、全てのカテゴリーで前年に比べ雇用者数が減少している状況が続いています。

宿泊業 男女別・雇用形態別雇用者数の推移

倒産件数

株式会社東京商工リサーチが実施した「宿泊業の倒産動向」調査によると、2020年(1〜12月)の宿泊業の倒産件数は118件(前年比57.3%増)にのぼり、2013年以来7年ぶりの100件台に達しました。

直近10年間の宿泊業の倒産は、東日本大震災が発生した2011年の134件が最多で、2020年は2013年と並んで2番目に多い水準となりました。

宿泊業の倒産 年推移

事業再構築補助金を活用した宿泊業の取り組み

このような逆境にあえぐ現状の中、宿泊業は事業再構築補助金を活用してどのような取り組みを実施できるでしょうか?

まず押さえておかなければならない前提として、事業再構築補助金を活用するためには、単に設備投資を行って改装したり、客室その他の宿泊設備をグレードアップしたりするだけでは対象となりません。「新分野展開」「事業転換」「業種転換」「業態転換」または「事業再編」のいずれかの事業再構築類型に該当するよう事業を計画する必要があります。

多くの場合は宿泊業を主な事業・業種としたまま何らかの新分野展開を組み合わせる形態が実現しやすいと考えられます。この点、宿泊業には元々さまざまな機能やサービスが複合されているため、新事業となり得る分野のノウハウが蓄積されているという利点があり、後述のような展開が例として挙げられます。

もっとも、既存事業において提供しているサービスとの代替性や、売上高に関する要件には十分に注意して事業計画を策定しなければなりません。

リモートワーク・ワーケーション

コロナ禍の一側面として、会社等の職場へ出勤せずにインターネットを利用して業務に従事するリモートワークの飛躍的な普及が挙げられます。

多くの人は自宅でリモートワークを行っていますが、カフェや貸スペースで仕事するケースその他、通信環境等の最低限の設備があれば場所を問わないことが特徴です。滞在中のホテル等宿泊施設からでも可能であることはもちろんです。

仕事を行う場所の変化は仕事そのものの概念の変化にもつながっており、働き方の観点でリモートワークからさらに進んだワーケーションも出現することとなりました。ワーケーション(workcation)とは、「ワーク」(work)(仕事)と「バケーション」(vacation)(休暇)を組み合わせた造語で、旅行しながら、帰省しながら仕事をすること、観光地やリゾート地に滞在しながら仕事をすることを指します。仕事と休暇取得の新しいあり方として注目されています。

場所を提供する宿泊業の観点からは、リモートワークとワーケーションは一時滞在と中長期滞在の違いはあれ非常に似ており、現行の宿泊業で用いている施設をオフィスに近い仕様、環境へと改装するなどの対応によって実現することができそうです。

加えて、定額制のワークスペース提供や、企業・団体単位で定期利用するワーケーションサイトとして売り出していく選択肢もあるでしょう。

グランピング

グランピング(glamping)とは、「グラマラス」(glamourous)(魅惑的な)と「キャンピング」(camping)を掛け合わせたことばで、テント設営や食事の準備などの煩わしさから顧客を解放した「良い所取りの自然体験」を意味します。

従来のキャンプでは、重い荷物を運んでキャンプ場へ出掛け、苦労しながらテントを設営したり調理したりする必要がありましたが、グランピング施設には宿泊できる施設(テント型でないものもを含む)があり、顧客の余計な手間を省くことができます。

その分、思う存分、好きなだけ日常環境にはない豊かな自然環境を全身で楽しむことができるレジャーとして人気を博しています。

グランピング施設の運営も宿泊業に属する簡易宿所事業であり、顧客を宿泊させることや食事を提供することなど、現行事業と共通ないし類似する点が多くあります。グランピングに係る事業への進出は、宿泊業における現行の事業種別により、新分野展開または業態転換に該当する事業再構築類型と考えられますが、同じ宿泊業を営んできたノウハウや設備等の応用が比較的容易に可能な選択肢といえるでしょう。

飲食業

泊まりがけの旅行の楽しみの一つといえば宿泊先で味わう料理でしょう。旅行雑誌を開けば、宿泊施設のページあるいは囲み記事には必ず、提供される料理の写真が並び、宿泊施設の提供するサービスの非常に重要な要素であることがわかります。それを目当てに宿泊先を選んでいる宿泊客も多いはずです。

そのように、高い評価を得る食事を提供できる技術とノウハウを強みとして、飲食業への展開も事業再構築の選択肢の一つになり得るでしょう。独立した店舗で展開する場合も考えられますし、デリバリーやテイクアウトの形態で展開するのも一手です。宿泊しなくともこだわりの料理が楽しめるサービスには大きなニーズもありそうです。

物販の拡大・ECサイトの利用

これも大きな旅行の楽しみといえば「おみやげ」でしょう。自分の記念にするときも、誰かに買って帰る場合も、地域ごとの名産品の取り揃えの数々に迷いながら選ぶのは実に楽しい時間です。

残念ながら、単に宿泊施設内の土産物店の品揃えを充実させるというだけでは事業再構築補助金を活用することはできず、何らかの新たな取り組みが必要です。

たとえば、地元の企業や農協、漁協などの団体との協力により、各地の「道の駅」のような、地域ぐるみで比較的規模の大きい特産品販売施設を運営するというのはいかがでしょうか?そして、現地で直接購入できるだけでなく、インターネットを活用したECサイトを構築し、豊富な商品を全国に向けて広くアピールし、購入した名物を堪能してもらえるなら、物販の拡大だけでなく、ご当地や宿泊施設の魅力発信にも必ず役立つことでしょう。

まとめ

今回は、事業再構築補助金を宿泊業に活用することをテーマとして、制度概要や背景事情も交えながら解説してきました。

コロナウイルス感染症による打撃の最も大きかった業種の一つが宿泊業でしたが、その状態からの回復を期して事業再構築補助金を活用する方策は記事に挙げた方向性以外にも多くあり、その可能性を求める価値は必ずあるはずです。

もっとも、新しい取り組みを設計するのは簡単なことではありません。そのため、信頼できる専門家のサポートを受けながら事業計画策定および申請手続に臨むのが合理的な方法です。

宿泊業の経営に携わる皆様が抱える課題は多岐にわたり、多くの複雑さも伴います。当社トライズコンサルティングには、豊富な業界経験に裏打ちされた高い専門性を持った専門家が在籍しています。綿密なヒアリングに基づいて会社の強みや特徴を発見し、事業環境を適切に分析することにより、実現可能性が高く、成長につながる事業計画づくりを行います。

当社はクライアント様に寄り添いながら限りなく高品質な事業計画書の策定を支援します。例えば「ものづくり補助金」では、2019・2020年度採択率97%という高い補助金採択率を誇り、採択後も補助金を受け取れるまでしっかりとサポートしております。

また、代表の野竿は認定経営革新等支援機関として事業再構築補助金の申請サポートを実施しています。ぜひ当社をご活用いただき、新たな事業へ向けた確実な一歩を踏み出してはいかがでしょうか?

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